第四話「油断と絶望」
「くそ、新型か」
ゼファーは改造アーマーのコックピットで舌打ちした。目の前に立つ帝国軍の機体は、確かにブレイド仕様の新型だ。全長5メートルの巨大な半人型戦車。ずんぐりむっくりとした胴体に、頭部と胸部が一体化した重厚なデザイン。
「おい、あれブレイドじゃないか?」
通信機から仲間のアークの声が聞こえる。
「間違いないな。5号機......皇室専属の護衛機だ」
しかし、敵機の動きを見ると、微妙にバランスを崩している。操縦も不安定で、歩行パターンが規定通りだ、乗組員の好みに変えたとかそういう感じがない。
「新兵じゃないか、あれ」
確かに、動きがぎこちない。経験豊富なブレイドにしては、あまりにも基本的すぎる動作だ。機体が小刻みに震え、照準も定まっていない。
「よし、俺が行く」
ゼファーは一番機を急速前進させた。格闘戦で一気に決着をつけるつもりだ。
距離50メートル。敵機が慌てたように後退する。やはり新兵だ。
距離30メートル。敵機が転びそうになる。完全に怯えている。
距離10メートル。勝った。
ゼファーは右腕のパイルバンカーを構えた。一撃で胸部装甲を貫通する。
その瞬間――
敵機が突然、信じられない速度で横に回転した。まるで踊るように、流れるような動作で。
「何だと――」
驚きが通信に漏れた瞬間、左脇腹に衝撃が走った。
敵機の左腕が、装甲の継ぎ目を正確に狙い撃っていた。
「馬鹿な......この角度、この精度......」
油圧系統の警告音が鳴り響く。左腕が完全に麻痺した。
「ゼファー!やられたのか!」
グリムの声が震えていた。
「畜生......演技だったのか......」
ゼファーの5メートルの鋼鉄巨人が膝をついた。敵機は再び、あのぎこちない動作に戻っている。まるで先ほどの華麗な動きが嘘だったかのように。
「完璧な演技で俺たちを騙しやがった......」
意識が薄れていく中で、ゼファーは理解した。相手は確実にベテランだ。
「ゼファーがやられた......」
グリムは信じられない光景を見つめていた。一瞬で形勢が逆転していた。
「なるほどね、強敵登場ってわけだ」アークが呟く。
敵機は再び、新兵らしいぎこちない動作を見せている。しかし、もはや騙されない。
「演技だ。完璧な演技で俺たちを油断させた」
「どうする?」
「波状攻撃だ。俺が格闘、お前は後方支援」
グリムは機体を構えた。もはや侮れない相手だ。本気でいく。
アークは距離を取り、肩部のミサイルポッドを展開した。
「いくぞ」
グリムが突撃を開始した。今度は慎重に、敵の動きを読みながら。
敵機が同じように後退する。しかし、今度は足運びに無駄がない。明らかに罠を張っている。
距離40メートル。アークのミサイルが敵機の足元で爆発した。煙幕が上がる。
「今だ!」
グリムは煙の中に突入した。
しかし、煙の中から現れた敵機は、既にこちらを狙っていた。
右腕の法石砲が、グリムの頭部を正確に捉えていた。
「速い......」
グリムの巨大機体が、音を立てて倒れた。
「グリム!」
アークは絶叫した。二機とも、一瞬でやられていた。
相手は確実にブレイドの中でも精鋭だ。
「畜生......畜生!」
アークは全ミサイルを発射した。12発のミサイルが敵機に向かって飛んでいく。
敵機は慌てたように左右に逃げ回る。しかし、その動きには先ほどまでのぎこちなさはない。計算された回避行動だ。
8発を回避し、残り4発を装甲で受け止めた。煙が晴れると、敵機はほぼ無傷で立っていた。
「ちっ......」
敵機がゆっくりと振り返る。その動作には、もはや新兵らしさの欠片もない。
洗練された、恐ろしく正確な殺戮機械としての動きだった。
「こんな仕事受けなきゃよかったぜ......」
アークは苦笑いした。
敵機の法石砲が火を噴いた。




