第三十九話「鍵開けの名人」
一週間が過ぎた。
雷牙号は山岳地帯を転々とし、隠れ家の回収作業は順調に進んでいた。
「またか」
セラフィナが苦々しい顔で呟く。
三つ目の隠れ家。またしても固く閉ざされた扉の前で、ニーナが壁を撫で回している。
「えーと......ここかな」
指先が微かな凹凸を捉える。軽く押すと、例によって扉がスライドした。
「はい、開きました」
「......」
ディアスが複雑な表情で頭を掻く。もはや恒例行事だった。
「お前、本当に泥棒の才能あるんじゃねえか?」
レイが茶化すと、船員たちがどっと笑う。
「鍵開けの名人だな!」
トムが肩を叩いてくる。ニーナはすっかりこの呼び名に慣れてしまっていた。
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船の食堂で、ニーナはぼんやりとコーヒーを飲んでいた。
「なんか拍子抜け」
モニカが隣に座る。
「エリート部隊の任務って、もっとこう......派手なもんかと思ってた」
「本当に、どーかんってなって映画みたいなことでもするんだと思ってたのに」
ニーナは苦笑いを浮かべた。扉を開けて、荷物を運んで、船で移動。その繰り返し。
「でも、これで軍曹相当の給料もらえるんでしょ?」
「そうなんだよね」
ブレイド隊員の手当は破格だ。このまま何もなければ、楽して高給取り。悪くない話だが......
「暇すぎて死にそう」
レイがトランプを切りながら割り込んでくる。
「なあ、ひと段落したら何する?」
「うーん」
ニーナは首を傾げた。
「美味しいもの食べに行きたいかな。軍の食堂じゃないやつ」
「いいねえ、俺も連れてってくれよ」
「私も!」
モニカが手を挙げる。
「エリドゥの高級レストランとか行ってみたい」
「高級って、金あるのか?」
「今度の給料で......」
わいわいと盛り上がっていると、ディアスが深刻な顔で入ってきた。
「全員、集合だ」
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五つ目の隠れ家は、様子が違った。
「先客がいるな」
ディアスが双眼鏡を下ろす。バンカーの入り口に、見張りが立っている。自由戦線の腕章が見えた。
「二十人......いや、もっといるかも」
マルコが数える。
「どうします?」
セラフィナが聞く。
「一旦引き返そう」
全員が静かに後退し、雷牙号に戻った。
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「さて、どうするか」
船の会議室で、ディアスが腕を組む。
「あんな大人数相手じゃ、荷物の持ち出しなんて無理だ」
エリスが不安そうに言う。
「本部に任せたら?」
マルコの提案に、ディアスは首を振った。
「連絡は入れたが......」
通信機から返ってきた指示は明確だった。施設の無力化。つまり、破壊しろということだ。
「前に忍び込んだ時はどうしたんだ?」
レイがニーナを見る。
「えっと......」
ニーナは塩化爆弾回収の時のことを話した。自由戦線のバッジで変装し、塩のサンプルで誤魔化した話。
「じゃあ、今回も──」
「待って」
ニーナが慌てて手を振る。
「自分で話しておいてなんですけど、あれはかなり運が良かっただけです。爆弾のこともあって緊急性が高かったから無理やりやっただけで......」
渋い顔をする。あの時のことを思い出すと、今でも冷や汗が出る。
「服はどうする?」
「俺が持ってる」
ガランが倉庫から、怪しげな服を引っ張り出してくる。
「なんでそんなもの......」
「商売柄、色々必要なんだよ」
誰も深くは聞かなかった。
「いや、待て」
ディアスが考え込む。
「俺たちは法力使いだ。二十人程度なら、正面から制圧できるんじゃないか?」
「確かに」
セラフィナが頷く。
「変装なんて面倒なことしないで、装備を整えて戦った方が安全かも」
「そうすれば施設も無傷で確保できる」
レイも賛成する。
「法力アーマーは積めないが......」
ディアスが船の装備を確認する。
「法力増幅装備なら十分ある。これで行こう」
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装備室で、隊員たちが準備を整える。
黒い装甲で腕と脚を覆う法力増幅装置。メルベルのアーティカルアームには及ばないが、一般兵には十分すぎる威力だ。
「久しぶりだな、これ」
レイが腕を動かす。関節部が青白く光る。
「新人、使えるか?」
セラフィナが意地悪く聞いてくる。
「一応」
ニーナも装備を身に着ける。重い。だが、法力が体を巡ると、羽のように軽く感じた。
「よし、行くぞ」
ディアスを先頭に、一行は再び隠れ家へ向かった。
今度は、正面突破だ。




