第三十八話「秘密の荷物」
雷牙号の貨物室は、普段とは違う緊張感に包まれていた。
「慎重に扱えよ。何が入ってるか分からねえんだから」
ガランが腕を組んで、荷物の搬入を監督している。船長として、自分の船に何を積むのか知る権利があった。少なくとも、危険物でないことだけは確認しておきたい。
「了解です、船長」
ディアスが頷きながら、隊員たちに指示を出す。研究資料の入った箱、法石を収めた特殊ケース、機材を梱包した袋。全てに厳重な封印が施されていく。
「これは......見なかったことにしてくれ」
ディアスが小声で言う。
「へいへい、俺は何も見てねえよ」
ガランは肩をすくめた。金さえもらえれば、中身なんてどうでもいい。そういう商売だ。
セラフィナが最後の箱に鍵をかける。三重のロック、法石による封印。まるで宝物庫のような厳重さだった。
「これで全部ね」
「ああ、ご苦労さん」
倉庫の扉が閉まり、重い錠前がかけられる。
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離陸後、船内の空気は妙に弛緩していた。
「なんか肩透かしだったな」
ニーナは食堂のテーブルに肘をついて、ぼんやりと呟いた。初任務といえば、もっとこう、敵との激しい戦闘とか、危険な潜入とか、そういうのを想像していたのに。
「まあ、こんなもんだろ」
レイがトランプを切りながら答える。
「任務なんて大体地味なもんさ。土木作業して、荷物運んで、はい終わり」
「そうそう」
モニカが笑いながら、カードを配る。
「あんたたちエリート部隊でも、結局やることは私たちと変わんないのね」
「エリートねえ......」
ニーナは苦笑いを浮かべた。確かにブレイドは皇室護衛隊だが、今日やったことといえば、3時間の無駄な土木作業と、荷物運び。
「おい、新人」
トムが缶ビールを投げてよこす。
「せっかくだから飲めよ。任務終了の祝いだ」
「いいんですか?」
「構わねえよ。なあ、レイ?」
「ああ、今日は非番みたいなもんだしな」
レイがにやりと笑う。彼の目が一瞬、観察するような光を帯びたが、すぐにいつもの気さくな表情に戻った。
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別の場所では、ディアスが通信機に向かっていた。
「はい、無事に回収しました。研究資料、法石、全てです」
イシュタル家への報告。声の向こうで、満足そうな返事が聞こえる。
隣の部屋では、セラフィナも同じように通信していた。
「ベオルブ様、予想以上の成果です。特に法石の純度は──」
それぞれが、それぞれの主に仕える。それが四大家の現実だった。
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「で、結局あの扉、なんで開いたんだ?」
ジャックが首を傾げる。
「さあな」
ニーナはカードを見つめながら答えた。
「たまたまじゃない?」
「たまたまで、3時間も開かなかった扉が開くかよ」
モニカが茶化す。
「もしかして、ニーナちゃんには特別な才能があるのかも」
「特別な才能って?」
トムがにやにやしながら口を挟む。
「そりゃお前、鍵開けだよ。泥棒の才能!」
船員たちがどっと笑い出す。
「お前が俺たち抜きであれを見つけてたら、あのお宝総取りだぜ! 超金持ち!」
ジャックも調子に乗って囃し立てる。
「まじで!?」
ニーナは声を上げた、体を揺らしてあれこれと想像しているようだ。
「けど、開ける方法をしっかりと把握しないとまずいんじゃねえかな…」
レイがカードを切り直す。
「開いたもんは開いた。それでいいだろ」
彼の視線が、さりげなくニーナの金髪に向けられる。赤い瞳。どこかで見たような…」
「そうね」
ニーナは頷いて、ビールを一口飲んだ。苦い味が喉を通る。
窓の外では、山々が夕日に染まっていく。雷牙号は静かに空を進んでいた。次の目的地へ向かって。
「なあ、次はどこ行くんだ?」
トムが聞く。
「さあな、船長に聞いてくれ」
レイが肩をすくめる。
「まあ、どこでもいいさ」
笑い声が食堂に響く。
だが、それぞれの胸の内には、言葉にできない思惑が渦巻いていた。
モニカは、ニーナの横顔を見つめる。この子、本当にただの整備兵上がりなのかしら。
レイは、トランプを切りながら考える。金髪、赤い瞳、異常な法力値。報告すべきか、もう少し様子を見るべきか。
そしてニーナは──
(あの扉、なんで私には開いたんだろう)
答えの出ない疑問を、ビールで流し込んだ。
夜は、まだ長い。




