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第二十八話「別れの時」



朝靄の中、エリドゥの空港が見えてきた。


「着陸許可を求む」


ガランが通信機に向かって言う。


『雷牙号、確認した。第三埠頭で待機せよ』


船員たちは、窓から外を覗き込んだ。


「おい、見ろよ」


トムが指差す先には、ずらりと並んだ兵士たちの姿があった。


「すげえ歓迎だな」


「いや、これは歓迎じゃねえだろ」


物々しい雰囲気に、船員たちの顔に緊張が走る。


雷牙号が着陸すると、兵士たちが整然と整列した。その数、優に百は超えている。


「なんだこりゃ......」


モニカが不安そうに呟いた。


その時、ラムザが立ち上がった。


「ニーナ、ついて来い」


「はい、殿下」


「俺も行くぜ」


ガランも腰を上げた。


「船長は......」


「皇帝様との約束があるからな」


三人は、タラップを降りていった。


下では、胸に無数の勲章を付けた将校が待っていた。髭を蓄えた五十代の男で、背筋をピンと伸ばしている。


「ラムザ殿下」


将校は深々と頭を下げた。


「ご無事で何よりです。私は、エリドゥ防衛隊司令官のナボニドゥスと申します」


「ご苦労」


ラムザは短く答えた。


「東征大陸での演説以来、殿下の行方を案じておりました。まさか、民間船で......」


ナボニドゥスは、ニーナとガランを見た。


「この二人は?」


「私の部下だ」


ラムザが言い切ると、ガランがニヤリと笑った。


「皇帝様から、お約束を頂いているんでね」


ナボニドゥスは眉をひそめたが、何も言わなかった。


「ブレイドを呼べ」


ラムザの命令に、将校は敬礼した。


「既に待機しております」


一行は、装甲車に乗り込んだ。


エリドゥの街並みが、車窓から流れていく。法石技術の粋を集めた高層建築が立ち並び、空中を飛行艇が行き交う。帝国の首都にふさわしい威容だった。


やがて、巨大な政府庁舎に到着した。


「こちらです」


案内されたのは、最上階の会議室だった。


既に、多くの人間が集まっていた。軍服を着た将軍たち、白衣の学者、礼服の政治家。帝国の頭脳が、一堂に会している。


全員が立ち上がり、ラムザに頭を下げた。


「皆、座れ」


ラムザは上座に着いた。まだ13歳の少年だが、その佇まいには威厳があった。


「東征大陸で何があったか、説明する」


少年は、淡々と語り始めた。


演説中の襲撃。共和主義者たちの組織的な攻撃。ニーナの活躍による脱出。雷牙号での逃走。


そして——


「ガルガンド市が、塩と化した」


会議室にどよめきが広がった。


「塩に?」


「街全体がですか?」


「信じられん......」


ラムザは手を上げて、静寂を求めた。


「自由戦線が、母上の研究を基に塩化爆弾を完成させた。我々は、命懸けでその爆弾を回収した」


「爆弾は今どこに?」


「雷牙号の船倉だ。厳重に保管してある」


軍の技術者が立ち上がった。


「すぐに回収して、解析を」


「それは任せる」


ラムザは全員を見回した。


「今後、テロ対策と防衛策を早急に協議せよ。自由戦線は、まだ諦めていない」


「御意」


全員が頭を下げた。


会議が終わり、ラムザは別室に移った。ニーナとガランも同行する。


「お待ちしておりました」


係官が、大きなケースをいくつか運んできた。


「ガラン・ベル」


ラムザが振り返った。


「約束の報酬だ」


ケースが開かれる。中には、札束がぎっしりと詰まっていた。


「50万メルベラ、確かに」


ガランの目が輝いた。


「それと」


係官が、一枚の証書を差し出した。


「帝国航空連盟、特別輸送許可証。最高グレードの保証です」


「マジか......」


ガランは震える手で証書を受け取った。これがあれば、もう違法な仕事をする必要はない。正規の、それも最上級の運送業者として認められたのだ。


「ありがとうございます、殿下」


ガランは深々と頭を下げた。そして、ニーナの肩を叩いた。


「短い間だったが、楽しかったぜ、嬢ちゃん」


笑顔が、いつもの豪快なものだった。


「お前もお手柄で、出世するらしいじゃねえか」


「はい......」


ニーナは複雑な表情を浮かべた。


「じゃあ、俺たちのこと、たまには思い出してくれよ」


ガランは朗らかに笑った。


「空の上で会うこともあるだろう。その時は、また酒でも飲もうぜ」


「......はい」


ニーナの目に、涙が滲んだ。


たった数日の旅だった。でも、人生で最も濃密な時間だった。


「おっと、泣くなよ」


ガランが慌てたように言う。


「別れじゃねえ。また会える」


「そうですね」


ニーナは涙を拭った。


「また、会いましょう」


「ああ」


ガランは踵を返すと、さっさと歩いていった。彼もなんだか寂しかったがそんな顔を見せるのはみっともないと思ったのだ。


ニーナは、その背中を見送った。

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