表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/146

第二十七話「束の間の宴」



雷牙号の食堂は、歓声と笑い声で満ちていた。


「乾杯!」


ガランが杯を高く掲げる。


「俺たちは、塩化爆弾を奪い返した英雄だ!」


「おおお!」


船員たちが唱和し、酒杯を打ち合わせる音が響く。テーブルには、普段は出さない上等な酒が並び、保存食も豪勢に広げられていた。


「これで俺たちは大金持ちだ!」


トムが赤い顔で叫んだ。


50万メルベラを山分けして、さらに一人3万メルベラ!」


「夢みてえだ」


ジャックも酔いが回った様子で、にやにやと笑っている。


「もうあと数時間飛べば、エリドゥの空港だ。ラムザ様を無事にお届けして、任務完了!」


「簡単な話だったな!」


誰かが言うと、また笑い声が起こった。


モニカは、珍しく上機嫌で酒を飲んでいた。


「私、まず借金を全部返すわ」


彼女の頬は赤く染まり、普段の不安そうな表情は消えている。


「それから、新しい工具を一式買って、あとは......そうね、一回くらい高級レストランに行ってみたい」


「おお、モニカが夢を語ってる」


アザリアが茶化すと、モニカは顔を赤らめた。


「うるさいわね。あんたはどうするのよ」


「私?そうね......実家に仕送りして、残りは貯金かな」


「つまんねえ」


男たちがブーイングする。


「俺なんか、女を買い漁るぜ」


「下品ね」


女性陣が顔をしかめる中、ガランが立ち上がった。


「おい、今日の英雄に乾杯しようぜ」


全員の視線が、ニーナに集まった。


「あの嬢ちゃんがいなかったら、俺たちは皆塩になってた」


「そうだそうだ!」


ニーナは照れくさそうに頭を掻いた。すでに何杯か飲んでいて、顔が真っ赤だ。


「いやあ、私なんて......ただ暴れただけで......」


「暴れただけ?冗談だろ」


トムが笑いながら言った。


「あの青白い化け物と、一対一でやり合ったんだぜ」


「すげえよな、女なのに」


「女だからね」


モニカが胸を張った。


「法力は女の方が強いんだから」


ニーナも酒に酔いながら、船員たちの輪に溶け込んでいた。


「でもさ、あいつの顔、本当に気持ち悪かったわよね」


「死体みてえだった」


「触ったら冷たかったし」


モニカが震え上がる真似をして、皆が笑った。


ニーナは、楽しそうに笑う船員たちを見ながら、ふと思った。


(私って、軍人だから......お金、もらえないのかな)


船員たちは民間人だから報酬をもらえる。でも、自分は帝国軍の兵士。給料以外の金銭を受け取ることは、原則として禁じられている。


(でも、これだけ活躍したんだから......昇進くらいは......)


いや、昇進したところで、二等兵が一等兵になる程度だろう。給料もほとんど変わらない。


(この人たちみたいに、大金を手にすることなんて......)


羨ましさと、少しの寂しさが胸に広がる。孤児院育ちの自分には、まとまった金を手にしたことなどない。


「どうした?」


ラムザが、そっと隣に座った。少年は酒を飲んでいないが、宴の雰囲気を楽しんでいるようだった。


「いえ、何でも......」


「金のことを考えてただろう」


図星を突かれて、ニーナは驚いた。


「どうして......」


「顔に書いてある」


ラムザは小声で続けた。


「心配するな。これだけ危険な任務だった。昇進は確実だし、金一封も出る」


「本当ですか?」


「ああ。私が保証する。少なくとも、1万メルベラは出るだろう」


ニーナの目が輝いた。1万メルベラ。それは、彼女の年収の何倍にもなる額だった。


「ありがとうございます、殿下」


喜びながらも、ニーナは別の感情も抱いていた。


(でも、この人たちとも、お別れか......)


エリドゥに着けば、自分は軍に戻る。ラムザは皇宮へ。そして雷牙号の面々とは、ここでお別れだ。


たった数日の旅だったが、濃密な時間だった。命がけの戦いを共にし、同じ釜の飯を食い、酒を酌み交わした。


軍隊では、こんな風に打ち解けることはない。上下関係が厳しく、常に規律に縛られている。


でも、ここでは違った。


「おい、ニーナ!」


モニカが手を振った。


「こっち来なさいよ。女同士で飲みましょ」


「はーい」


ニーナは笑顔で立ち上がった。


もう少しだけ、この時間を楽しもう。


窓の外では、星空が広がっている。エリドゥまで、あと数時間。


爆弾は船倉に厳重に保管され、見張りも立てている。もう危険はないはずだった。


「そういえば」


ガランが思い出したように言った。


「あの青白い野郎、最後にこっちをすげえ睨んでたな」


「根に持つタイプかもな」


「まあ、もう会うこともねえだろ」


船員たちは笑い合った。


生きて帰れた喜びを、仲間と分かち合う。


「もう一杯!」


誰かが叫び、また乾杯の音が響いた。


雷牙号は、夜の空を進み続ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ