第二十四話「決断の時」
雷牙号の船内は、騒然としていた。
捕虜の男は縛られたまま壁際に転がされ、その周りを船員たちが囲んでいる。女性陣も含めて全員が集まり、これからどうするかを話し合っていた。
「そもそも、どうやって爆弾を運ぶんだ?」
トムが腕を組んで言った。
「下手に触ったら、俺たちも塩になるんだろ?」
「そうだよ、船で運んでる最中に爆発したらどうすんだ」
ジャックも不安そうに続ける。
「大体、どんな大きさなんだ?金庫みたいにでかいのか?」
「いや、もっと小さいかもしれねえ」
「小さくても危険なもんは危険だろ」
船員たちの議論は堂々巡りだった。誰も、実際の爆弾を見たことがないのだから当然だ。
「おい、お前」
ガランが捕虜の男の前にしゃがみ込んだ。男は腫れ上がった顔で怯えたように身を縮める。
「爆弾について、詳しく話せ」
「し、知らない......」
ガランは拳を握った。
「もう一回やるか?」
「ま、待て!わかった、話す!」
男は慌てて口を開いた。
「爆弾は......起爆装置を作動させたら、即座に爆発する。時限式じゃない」
「即座に?」
「そうだ。だから運搬中の事故はない。起動手順も複雑で、誤爆の心配はない」
「大きさは?」
「人一人が抱えて、なんとか運べる程度だ。重いが、不可能じゃない」
船員たちが顔を見合わせる。思ったより小さいが、それでも危険なことに変わりはない。
その時、ラムザが前に出た。
「皆、聞いてくれ」
少年は捕虜の男の前に立ち、船員たちを見回した。
「母上の——アジョラ女帝の隠れ家について、話しておく」
全員が注目する中、ラムザは続けた。
「母上は帝国のあちこちに、保養施設を作っていた。表向きは休息の場だが、実際は......」
少年は言葉を選びながら話す。
「母上の研究施設でもあった。法石技術や、様々な実験を行う場所だ」
「実験?」
モニカが不安そうに聞いた。
「ええ、母上は学者肌の人だった。政治より研究を愛していた。だから、人目につかない場所に、自分だけの研究室を作っていたんだ」
ラムザは苦い表情を浮かべた。
「場所は基本的に隠されている。私も一つか二つしか知らない。母上は、家族にさえ秘密にしていたから」
「じゃあ、どうやって自由戦線の連中は見つけたんだ?」
ガランが捕虜を睨みつける。
男は震えながら答えた。
「リーダーたちが......なぜか場所を特定できるんだ」
「リーダー?」
「自由戦線の幹部たちだ。彼らは......普通じゃない」
「どういう意味だ」
「強力な法力使いばかりだ。特に、隠れ家を見つける能力を持つ者がいる」
船員たちにざわめきが広がった。
「法力使い......」
「そんな連中と戦うのか?」
「やめましょうよ、船長」
アティが青い顔で言った。
「私たちはただの運送屋よ。戦争なんて」
「そうだぜ、こんなヤバい話に首突っ込む必要ねえ」
他の船員たちも口々に反対の声を上げる。
ガランは腕を組んで考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「お前ら、よく聞け」
船長の声に、全員が黙った。
「確かに危険だ。だが、考えてもみろ」
ガランは船員たちを見回した。
「皇帝直々のお願いを断れるか?俺たちは今、次期皇帝かもしれねえ人物を乗せてるんだぞ」
「でも......」
「それに」
ガランの声が強くなった。
「こんな爆弾を持った連中が野放しになってたら、俺たちの商売も上がったりだ」
「どういうことだ?」
「考えてみろ。次に寄った港で、ドカンとやられたらどうする?塩になった街じゃ、商売もクソもねえ」
船員たちが顔を見合わせる。確かに、その通りだった。
「俺たちは空の民だ。自由に飛び回るのが生き甲斐だろ?」
ガランは拳を握った。
「その自由を脅かす連中を、放っておけるか!」
沈黙が流れた。やがて、トムがため息をついた。
「......船長の言う通りだな」
「仕方ねえ」
ジャックも肩をすくめる。
「でも、危険手当は弾んでもらうぜ」
「当然だ」
ラムザが頷いた。
「全員に、追加で10,000メルベラずつ出そう」
「マジか!」
船員たちの目が輝いた。それは、普通の仕事の数ヶ月分の収入だ。
「よし、決まりだ」
ガランが手を叩いた。
「女帝の隠れ家に向かう。準備をしろ」
「了解!」
船員たちが動き始める。武器の確認、燃料の補給、食料の積み込み。
モニカがニーナに近づいてきた。
「あんた、本当に大丈夫?」
「何が?」
「だって、相手は法力使いなんでしょ?」
ニーナは微笑んだ。
「私も法力使いよ。それに、ラムザ殿下を守るのが私の仕事」
「殿下、か......」
モニカは改めてラムザを見た。さっきまでただの生意気な少年だと思っていたが、今は違って見える。
「本物の皇族なのね」
「ええ」
ニーナは誇らしげに言った。
「そして、この国の未来を背負う人よ」
捕虜の男が、縛られたまま呟いた。
「無駄だ......お前たちには勝てない」
「黙ってろ」
ガランが男を蹴飛ばす。
「お前は軍に引き渡すまで、大人しくしてな」
雷牙号は、北東の山脈に向けて動き出した。
夕日が、塩の街を赤く染めている。その光景は美しくも不吉で、これから待ち受ける戦いの前触れのようだった。
「待った」
ガランが手を上げた。
「仕事を請け負うのにさっきのクルー全員にどんな役割でも1万ずつに加えて50万メルベラは基本料金だ。」
「50万!?」
船員たちが息を呑む。
「高すぎじゃ......」
「いや、妥当だろ」
ガランは腕を組んだ。
「相手は法力使いで、しかも街一つを塩に変える爆弾持ちだ。命がけの仕事には、それなりの対価が必要だ」
ラムザは少し考えてから頷いた。
「わかった。50万メルベラで」
「さらに」
ガランはまだ終わっていなかった。
「船員全員への危険手当、一人3万メルベラずつ」
「3万!」
船員たちの目が輝いた。
「それと」
ガランはラムザをまっすぐ見つめた。
「今後、雷牙号が帝国の運送業において、最高グレードの保証を受けられるようにしてもらいたい」
「保証?」
「ああ。帝国公認の特別輸送許可、優先着陸権、関税の減免。要するに、VIP待遇だ」
船員たちがざわめいた。それは、アウトロー船にとって夢のような条件だった。
「それができれば、俺たちも違法な荷物なんて運ばなくて済む」
ガランは苦笑いを浮かべた。
「正直、いつ捕まるかビクビクしながらの商売も疲れたんでな」
ラムザは真剣な表情で考え込んだ。
「......いいだろう」
少年は顔を上げた。
「現在、私が暫定的にではあるが皇帝の座にある。その権限で、雷牙号に特別輸送許可を与えよう」
「本当か?」
「ボム家は帝国でも最も裕福な家の一つだ。50万メルベラなど、すぐに用意できる」
ラムザは自信を持って続けた。
「エリドゥに着き次第、正式な書類を作成させる。ラムザ・ボムの名にかけて」
ガランは満足そうに頷いた。
「よし、商談成立だ」
二人は握手を交わした。
「じゃあ、仕事にかかるとするか」
ガランは船員たちを見回した。
「お前ら、聞いたな?命がけだが、一生分の稼ぎになるぞ!」
「おおお!」
船員たちが歓声を上げた。
「やってやるぜ!」
「3万メルベラ!」
「これで借金も返せる!」
モニカがニーナに囁いた。
「船長、商売上手ね」
「そうね」
ニーナも苦笑いを浮かべた。
「でも、ラムザ殿下も納得してるみたいだし」
雷牙号は、準備を整えて北東の山脈へと向かい始めた。
アジョラの隠れ家まで、あと二日の旅程が待っている。




