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第二十話「後悔と覚悟」



ガランは船長室で頭を抱えていた。


机の上に肘をついて、額を手のひらで覆っている。部屋の中には、さっきまでの和やかな空気は微塵もなかった。


「なるほどな、あの女は護衛か......」


状況がようやく見えてきた。商人の姉弟という設定は嘘。少年が本当の主人で、少女がその護衛。それなら戦闘能力の説明もつく。


「いや、そんなことはどうでもいいんだよ」


彼は首を振った。


問題は、自分が無神経な言葉で少女を傷つけたということだ。


『召使にやらせればいいか』

『お金持ちは楽でいいな』

『庶民の飾り付けには興味ないかもしれないが』


親のいない孤児に向かって、なんということを言ったのだろう。


「俺は悪くねえだろ」


声に出して言ってみる。


「普通に気がつくわけねえじゃねえか」


でも、言い訳にしか聞こえない。彼女の怒りの表情、涙の浮かんだ瞳、震える声——全てが脳裏に焼き付いている。


「ちくしょう......どうすりゃいいんだよ」


自分の鈍感さが情けなかった。いいとこの坊ちゃんとして育った自分には、孤児の心境なんて分かるわけがない。それでも、もっと気を使うべきだった。


額に汗が浮かんできた。胃がキリキリと痛む。


その時、扉を軽くノックする音がした。


「船長?」


モニカの声だった。


「船長、大丈夫?さっきからうめき声が聞こえてるけど......」


「入れよ」


ガランは疲れ切った声で答えた。


モニカが顔を覗かせる。船長室の様子を見て、眉をひそめた。


「何があったのよ?まさか......」


彼女の表情が険しくなる。


「下品な口説き文句でも言ったの、あの子に?」


「あぁ......」


ガランは情けない声で答えた。


「そんなとこだ。すっげー怒られちまった」


「サイテー」


モニカは顔を顰めて立ち去った。その足音が遠ざかっていく。


しばらくして、船員たちのひそひそ話が聞こえてきた。


「船長がねー......」

「やっぱりな......」

「お嬢さんに手を出そうとして......」

「最低だよな......」


ガランはさらに頭を抱えた。


「違うっつーの......」


誤解だ。完全な誤解だが、説明すれば正体がばれる。どうにもならない。


「どうすりゃいいんだよ」


独り言のように呟く。


「今から謝りに行くか?でも、今部屋に向かったら船員どもが聞き耳立てるに決まってるしな......余計にややこしくなっちまう」


彼は机を指で叩きながら考え込んだ。


「そうだ!」


突然立ち上がる。


「夕食にかけるしかねえな!この際、ワインも開けちまおう!」


彼は船長室の奥にある酒棚に向かった。大切に保管してある、故郷のワイン。プライベートブランドの、最高級品だ。


「あの嬢ちゃんの機嫌を直してもらうしかねえ!」


希望的観測かもしれないが、他に手段がない。


---


一方、客室では重苦しい空気が流れていた。


ラムザは窓際に立ったまま、振り返ろうともしない。その背中には、怒りと失望がありありと現れている。


「お前が何を思ったのかは知らないが......」


静かだが、厳しい声だった。


「臨時とはいえ、お前は私の護衛だ。この国の皇帝のな」


ニーナは部屋の隅で小さくなっていた。


「いっときの感情で、何をしているんだ」


「申し訳ございません......」


ニーナは頭を下げた。反論の余地などない。完全に自分が悪い。


ラムザは振り返った。その瞳には、冷たい怒りが宿っている。


「我々の身分が知られたら、身代金のために共和主義者に高値で売り飛ばされるかもしれんのだぞ。分かっているのか?」


「はい......」


「この船で殺されるかもしれない。船員全員が敵になるかもしれない」


ラムザは続けた。


「お前一人の我儘で、全てが台無しになるところだった」


ニーナは涙がにじんできた。自分の愚かさが、身に染みて分かった。


しかし、ラムザの表情が少し和らいだ。


「まあ......あの船長がどう出るかは分からんが」


彼は小さくため息をついた。


「話す限りでは、意外に良識人のようだ。帝国への忠誠心もある。聖火祭の由来も知っていたし、過去の聖女の名前も言えた。教養人だ」


「そうなのですか?」


「案外、問題ないかもしれない」


ラムザは椅子に座った。


「私たちは運がいい」


そして、ニーナを見つめた。


「お前には感謝している。船での戦いでも、法力アーマーでも、私を救ってくれた。その恩は忘れない」


「殿下......」


「だが、今後はこのようなことがないよう頼む」


厳しくも、温かい言葉だった。


「はい......必ず」


ニーナは深く頭を下げた。


ラムザが部屋を出て行った後、ニーナは一人きりになった。


『こんなんだから私はダメなんだ......』


『あぁ、最低......』


膝を抱えて床に座り込む。全てが嫌になった。

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