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第十七話「文明への渇望」



飾り付けが一段落した頃、ガランは満足そうに船内を見回した。


色とりどりの布が風に揺れ、手作りの花飾りが柔らかな光を反射している。武骨な雷牙号が、まるで別の船のように華やいでいた。


「よし!」


彼は手を打った。


「じゃあ、あの二人を招待するか!」


船員たちは顔を見合わせた。またか、という表情だ。


「船長、また金のためですか?」


モニカが苦笑いした。


「当然だろう!」


ガランは胸を張って答えたが、その目には別の光が宿っていた。


実のところ、金のことは二の次だった。家を飛び出してから、彼は常に物足りなさを感じていた。


船員たちは優秀だ。技術力もある。しかし、彼らは文明の洗練からは程遠い存在だった。手づかみで物を食い、祭りの意味も知らず、ただ生きるために働く野生動物のような連中。


ガランは、文明人とのやりとりに飢えていた。


『あの二人なら......』


客室にいる上品な少年と、法力を操る少女。彼らとなら、久しぶりにまともな夕食を演出できるかもしれない。


---


一方、ラムザは船内を歩いていた。船長の人となりを探ろうと思ったのだ。


船長室の扉が半分開いているのに気づく。中を覗き見ると、意外な光景が広がっていた。


机の上には、精巧な動力炉の模型。法石エンジンの構造を立体的に表現した、技術者向けの教材のようなものだ。本棚には技術書がずらりと並んでいるが、その中に詩集も混じっている。


壁には、各地で集めたらしい珍しいコレクションが固定されて飾られていた。東征大陸の青い石、緑海大陸の羽根飾り、氷原大陸の水晶。どれも品の良い選び方をしている。


『他の船員とは、明らかに違うな』


ラムザは直感した。この部屋は、教養ある人間のものだ。


「おっと」


背後から声がかかった。振り返ると、ガランが立っている。


「覗き見とは感心しないな、ライネル坊ちゃん」


「すみません」


ラムザは頭を下げた。しかし、ガランは気にした様子はない。


「まあいい。どうせなら中を見るか?」


「いえ、そんな......」


「遠慮するな」


ガランは部屋に招き入れた。


「それより、明日の夕食はどうだ?聖火祭の夕食に、お前たちを招待したい」


「聖火祭の?」


ラムザは困惑した。アウトロー船で聖火祭を祝うとは。


「ああ。せっかくの機会だからな」


ガランの表情には、純粋な期待が浮かんでいる。


ラムザは断ろうかとも思ったが、相手の機嫌を損ねるのも得策ではない。それに、この船長への興味もあった。


「......分かりました。ありがとうございます」


「お姉さんにもよろしくな」


ガランは満足そうに頷いて、その場を去った。


---


客室に戻ると、ラムザは愕然とした。


ニーナが、トレーから直接ヌードルを手づかみで食べている。口の周りは汁だらけ、膝の上にも麺が落ちている。


「お前......」


ラムザは頭を抱えた。


「どうなさいました、ラムザ殿下?」


ニーナが振り返った。丁寧な口調だが、まだ麺を口に咥えたままだ。その辿々しい話し方に、育ちの悪さが滲み出ている。さっきのやり取りを見るとどっちが公務員なのか、ライネルは頭が痛くなってくる。


「明日、船長に夕食に招待された」


「夕食?」


ニーナは首をかしげた。


「それは......楽しみですね」


そう言いながら、また手づかみでヌードルを貪り始める。


ラムザは絶望的な気持ちになった。


「聖火祭の夕食だ。正式な席になる」


ラムザは深刻な表情で続けた。


「お前のその食べ方は、絶対にまずい」


「えっ?」


「今から特訓だ。フォークとナイフの使い方、もう一度教える」


ラムザは決意を固めた。この一夜で、ニーナを最低限「人前に出せる」レベルまで引き上げなければならない。


「それから、話し方も直さなければ......」


長い夜になりそうだった。


一方、船長室では、ガランが詩集を手に取っていた。明日の夕食で、どんな話題を振ろうか考えているのだ。


久しぶりに、文明人らしい会話ができる。


彼は心から楽しみにしていた。

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