第十四話「値上げ交渉」
通信室で、ガランは傍受した無線通信に耳を澄ませていた。
『雷牙号を見失うな』
『荷物じゃない、乗客が目的だ』
『生け捕りにしろ。金になる』
自由戦線の連中の会話が、断片的に聞こえてくる。
「なるほど......」
ガランは唇の端を上げた。
「きな臭いと思ってたが、相当お偉いところの奴か」
船室にいる二人の客を思い浮かべる。商人の子供にしては上品すぎる少年。そして、法力で敵を一撃で仕留めた少女。
「身代金でもせしめようってか?」
となると、先ほどの襲撃も、あの二人が原因だったということになる。
ガランの商人魂が疼いた。
「輸送料金を跳ね上げるチャンスだな」
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客室の扉を叩く音が響いた。
「入るぞ」
ガランが現れ、二人の前に腰を下ろした。
「話がある」
「何でしょうか?」
ラムザが身構えた。
「通信を傍受してて分かったんだが、連中が狙ってるのは俺たちじゃない。お前たちだ」
ガランは直截に切り出した。
「どういうことですか?」
「身代金目当てらしい。つまり、お前たち、相当な金持ちってことだな」
ニーナとラムザは顔を見合わせた。予想していた展開だが、やはり動揺は隠せない。
「だから、話は簡単だ」
ガランは商談を始めた。
「当初の約束は300メルベラだったが、これを3000メルベラに跳ね上げる」
一瞬、静寂が流れた。10倍の値上げである。
「それは......」
「連中が狙ってるのは俺たちじゃなくて、お前たちなんだから当然だろ?ベットは上げざるを得ない」
ガランの論理は明快だった。
ラムザは少し考えた後、頷いた。
「分かりました。それで構いません」
『もうちょっと上げられそうだな......』
ガランが更なる値上げを考えた瞬間、ニーナが立ち上がった。
「あまり失礼なことをすると......」
彼女の体に、微かに電撃が走った。法力の証拠だ。
「エリドゥに着いたときに、後悔することになりますよ」
静かだが、明確な脅しだった。
ガランは一瞬怯んだが、すぐに平静を装った。
「仕方ない。1000メルベラだ。俺たちも命がけなんでな」
「......それで結構です」
ラムザが同意した。
「証文を交わしましょう」
ガランは簡単な契約書を作成し、三人で署名した。1000メルベラ——高級レストランでコース料理を2000回食べられる金額だ。人間の運賃としては感覚的に言えば数千倍といったところだ。
「じゃあ、よろしく頼む」
ガランは契約書を懐にしまい、立ち去った。
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ガランが去った後、ラムザがニーナに小声で言った。
「余計なことはするな。どうせ金はこっちにある」
「でも......」
ニーナは不安そうだった。
「あんな連中のいいようにされてたら、何をされるか分かりませんよ」
「分かってる。だが、下手に刺激するより、金で解決した方が安全だ」
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一方、船長室に戻ったガランは、思考を整理していた。
『法力を体外に表出できるってことは、測定値20以上は確実だな』
あの電撃を思い出す。単なる商人の娘にしては、あまりにも高い能力だ。
『商人というより......貴族の連中かもしれない』
弟の方の衣類を思い出した。質の良い布地、丁寧な縫製。確かに、名門の出を思わせる上質さだった。
『きっと、どこかの貴族の連中で、身分を偽ってるんだな』
だとすれば、エリドゥで引き渡す時に、いちゃもんをつけられても困る。
『ちょっといい風に扱ってやった方がいいかもな』
ガランは方針を変えることにした。
『ちょっといい飯でも食わせてやるか』
雷牙号は、秘密を抱えた乗客たちと共に、エリドゥへの航路を続けていた。




