第十三話「戦後の現実」
戦闘の後、甲板に戻ってきたガランは、眼下に広がる光景を見つめていた。
黒煙を上げて墜落した小型艇。散乱した機体の破片。そして、動かなくなった敵の姿。
空の青さと、地上の惨状の対比が、妙に印象的だった。
「なかなかやるな」
ガランはニーナに声をかけた。気楽な調子だったが、その目は船内での出来事を見ていたことを示していた。
「えらいところのお嬢さんは、才能が違うな」
法力で敵を一撃で仕留めた瞬間を、彼は確かに目撃していた。あの怪力は、並の法力兵のものではない。
しかし、ニーナの表情は晴れなかった。
「帝国領内での戦闘なんて......どうかしてる」
声に困惑が滲んでいる。
「おまけに、相手を助けずに略奪まで......」
「あんな連中にまで、ご苦労な話だな」
ガランは肩をすくめた。
戦利品として持ち帰った荷物を指差す。箱や袋には、様々なタグが付いている。
「これは奪われた荷物で、タグがついてる。近くの空港まで持っていけば、連中に奪われた荷物を取り返したってことで、結構金が出る」
ガランの説明は淡々としていた。
「落とし物を拾ってきたってことでな。だから、これは略奪でもないし、第一俺たちは襲われた側だ。難癖をつけられる筋合いもない」
ひょうひょうとした口調だが、その論理は一貫している。
「あんたみたいな金持ちの連中には分からないだろうが、俺たちのやり方に口出しするな」
ニーナは反論しようとした。自分の本当の出自——戦争孤児、軍の底辺からの這い上がり——を思い出したからだ。
『私だって......』
しかし、言葉が喉に詰まった。正体がばれてはまずい。ライネルの姉という設定を維持しなければ。
ニーナが黙っているのを見て、ガランは彼女が反論できずにいることに気づいた。それに、改めて見ると、まだ16歳の少女だ。きつく言いすぎたかもしれない。
「とりあえず......手伝ってくれたのは助かった」
少し申し訳なさそうに、声のトーンを和らげた。
「エリドゥまで2日ほどだが、よろしく」
そう言って、そそくさとその場を立ち去っていく。
ガランが去った後、ラムザがニーナに近づいてきた。
「連中にはあまりまともに付き合うな」
低い声で忠告した。
「この船の中だけの付き合いだ。もっと愛想よくして、トラブルを避けろ」
実際的なアドバイスだった。しかし、次の瞬間、ラムザの表情に興味深そうな色が浮かんだ。
「奴の言う通り、なかなかの力だった。法力兵なのか?」
「はい......」
ニーナは頷いた。
「アーマーパイロットの志望者だったので」
「なるほど」
ラムザは納得した。パイロットは機体の操縦だけでなく、自身の戦闘能力も重要な評価要素だ。基本的に法力兵でなければ務まらない。
「それで、あの戦闘技術か」
二人の間に、しばしの沈黙が流れた。
青空の下、雷牙号は目的地に向かって飛び続けている。しかし、この船に乗る限り、平穏な旅路は期待できそうにない。
ニーナは改めて実感した。帝国の法と秩序の外には、全く違うルールで生きる人々がいる。そして今、自分はその世界の住人として扱われているのだ。
『あと2日......』
エリドゥまでの道のりが、やけに長く感じられた。




