第百二十四話「連盟への警告」
雷牙号の食堂は、安堵の空気に包まれていた。
「まさか、あんな安全な航路で空賊に襲われるとは...」
ジャックが震える手で酒を飲む。顔はまだ青白い。
「吹雪が急に来て助かったけどな」
トムも深いため息をつく。
「あの視界じゃ、奴らも追跡できなかったろう」
アザリアが思い出したように言う。
「なあ、もしかして船を白く塗装しろって...」
「そういうことか!」
モニカが手を打つ。
「あの連中、見当違いの方向に銃撃してたもんな」
「白い船体が雪に紛れて、見失ったんだ」
ジャックが納得する。
---
一方、船長室では、ガランが通信機に向かって怒鳴っていた。
「だから言ってるだろ!身長180センチ前後、赤毛の男だ!そいつはテロリストだぞ!」
電話の向こうで、航空連盟の事務員が困惑している様子が伝わってくる。
『お客様、どちらの船の話でしょうか?』
「明後日、第三空港に着く予定の貨物船だ!乗客名簿を調べろ!」
『しかし、個人情報保護の観点から...』
「人が死ぬぞ!いいのか!」
ガランの剣幕に押されて、事務員は上司を呼びに行った。
「あと、第二エンジンもよく調べとけ!整備不良だ!」
船員たちは顔を突き合わせてヒソヒソと話し合う。
「どういうことだろう?」
モニカが首を傾げる。
「まさか...予知能力?」
アザリアが冗談めかして言う。
「いやいや、そんなオカルトじゃあるまいし」
トムが否定する。
「でも、実際に難を逃れたわけだし...」
ジャックが腕を組む。
「三回連続で的中って、偶然にしては...」
---
ガランは電話を切ると、机に突っ伏した。
「はぁ...」
深い疲労が全身を包んでいる。寝ているはずなのに、全く休めていない。瞼が重い。でも、今眠ればまたあの悪夢を見る。そんな確信があった。
(夢で見た内容が...現実になる...)
ついに認めざるを得なかった。自分は予知夢を見ているのだと。
(なんで俺が...)
理由は分からない。ただ、この能力のおかげで船員たちを守れているのも事実だった。
「酒だ...」
ふらふらと立ち上がり、棚から度数の高いラム酒を取り出す。
「これを飲んで、気絶するように眠れば...夢を見ないで済むかも」
瓶に口をつけ、ラッパ飲みする。喉が焼けるような感覚。
「うっ...」
それでも飲み続ける。意識が朦朧としてきた頃、ようやく瓶を置いた。
「これで...少しは...」
椅子に座ったまま、意識を失うように眠りに落ちた。
---
数時間後。
「船長!船長!」
モニカの声で目が覚めた。頭がガンガンする。二日酔いだ。
「なんだ...」
「連盟から電話です。なんか、偉い人みたいで...」
受話器を受け取る。向こうから、航空連盟の幹部らしき声が聞こえてきた。
『ガラン・ベル船長ですね?』
「ああ...」
『先ほどの情報提供の件ですが...どうして分かったんですか?』
酔いが一気に覚めた。
『ご指摘の赤毛の男、確かに偽造パスポートでした。武器も所持していました』
「そうか...」
『それと、第二エンジンも調べました。確かに整備不良でした。このまま飛んでいたら、大事故になるところでした』
船員たちが、息を呑んで聞き耳を立てている。
『どうして、ご存知だったんですか?』
まさか「夢で見ました」とは言えない。
「ちょっと...小耳に挟みましてね」
ガランは咳払いする。
「連盟の組合員は助け合わなきゃいけませんから」
『なるほど...情報源は?』
「それは言えません」
沈黙が流れる。
『...分かりました。とにかく、感謝します。多くの命を救っていただきました』
「いえいえ」
思い出したように、ガランは付け加える。
「あと、ベルモット船長の船を...何か理由をつけて、一日足止めしてください」
『は?なぜです?』
「足止めした後で、船内を調べてください。密輸品があるはずです」
『ベルモット船長は評判の良い...』
「信じてください。調べれば分かります」
また沈黙。
『...分かりました。理由を作って検査します』
「それと」
ガランは続ける。
「明後日の貨物規制は延期した方がいい。実施したら大損害になる」
『それは政府の決定で...』
「台風が来ます。規制どころじゃなくなる」
『天気予報では晴れですが...』
「信じてください」
---
電話を切った後、ガランは再び机に突っ伏した。
船員たちは、呆然と船長を見つめていた。
「なあ」
ジャックが恐る恐る言う。
「船長って、もしかして...」
「本物の予知能力?」
モニカが息を呑む。
「まさか...でも...」
トムが頭を抱える。
アザリアが真剣な顔で言う。
「でも、全部当たってるんだよね。防護服も、白い塗装も、今の電話も...」
「船長、いつからこんな能力が...」
ガランは薄目を開けて、船員たちを見た。
「俺にも...分からん...」
疲れ切った声だった。
「ただ、夢を見るんだ。嫌な夢を。それが...現実になる」
船員たちは顔を見合わせた。
「それって...」
「予知夢ってやつか」
ガランは自嘲的に笑う。
「オカルトだよな。俺も信じられねえ」
「そうっすよねえ…」
ジャックも頷く。
「宇宙人からの交信を脳で受け取ってるとか!」
「それラジオで機能やってたやつだろ…」
「ガラン船長宇宙人説!」
(やべえぞ、眠れないの想像以上にきつい...)




