第十二話「空の無法者」
雷牙号は青空を切り裂いて飛び続けていた。
「エリドゥまであと二日だな」
ガランは操縦席から地平線を眺めた。順調に行けば、厄介な客を降ろして金貨1000枚を受け取れる。
しかし、空に黒い影が現れた。
小型の飛空艇が三機、雷牙号に接近してくる。明らかに民間機だが、武装している。
「おい、雷牙号!」
通信機から荒々しい声が響いた。
「地上に降りろ!検査だ!」
「検査だと?」
ガランは眉をひそめた。
「一体どういうつもりだ?お前らに俺たちを止める権限があるのか?」
「俺たちは自由戦線だ!降りて積荷を見せろ!」
「自由戦線......」
ガランは舌打ちした。共和主義のテロ組織の一派だ。
「悪いが、そんな義理はない」
通信を切ろうとした瞬間、敵機から警告射撃が放たれた。雷牙号の船体近くを法石弾が通り過ぎていく。
「船長!どうします!?」
機関士が叫んだ。
「決まってるだろう」
ガランは不敵に笑った。
「空の民を舐めるなよ」
戦闘開始。
雷牙号の隠し武装が展開された。側面から機銃が飛び出し、敵機に向けて掃射を開始する。
「うおおお!やったれ!」
船員たちが歓声を上げた。アウトロー船らしい、血の沸く戦いだ。
一機の敵機が雷牙号の甲板に強行着陸してきた。武装した男たちが飛び出してくる。
「乗り込まれた!」
「ぶっ殺せ!」
甲板で銃撃戦が始まった。ガランも法石ライフルを構えて応戦する。
船内の客室では、ラムザとニーナが銃声に身を竦めていた。
「何が起こっているんだ......」
ラムザが不安げに呟いた瞬間、船室の扉が蹴り破られた。
「見つけたぞ!乗客だ!」
自由戦線の戦士が法石銃を構えて侵入してくる。顔には不気味な刺青が彫られている。
「動くな!」
銃口がラムザに向けられた。
その瞬間、ニーナが動いた。
法力兵としての身体能力が爆発的に発動する。一歩で敵との距離を詰め、右手で銃身を叩き上げた。発砲された法石弾が天井を撃ち抜く。
「何だと——」
敵が驚愕の表情を浮かべた瞬間、ニーナの左拳が顎を打ち抜いた。
ゴキリ、という鈍い音と共に、男の体が宙に舞った。壁に激突し、そのまま動かなくなる。
「おおっ!」
ラムザは呆然とニーナを見つめた。16歳の少女とは思えない、凄まじい怪力だった。
「ライネル、大丈夫?」
ニーナが振り返った。法力の余韻で、その瞳が微かに光っている。
「あ、ああ......ありがとう」
甲板では戦闘が激化していた。ガランの射撃で二人目の敵が倒れる。
「くそったれが!俺たちの船で暴れやがって!」
残る敵機二機が、雷牙号の周囲を旋回しながら攻撃を続けている。しかし、雷牙号の火力も侮れない。
「左舷の奴を狙え!」
船員の一人が機銃座につき、正確な射撃で敵機の翼を撃ち抜いた。黒煙を上げながら、小型艇が墜落していく。
最後の一機も、ガランの巧みな操縦で振り切られ、やがて諦めて去っていった。
「よし、片付いたな」
ガランは満足そうに頷いた。
「おい、墜落した奴らから金目のものを回収しろ」
「了解!」
船員たちが墜落現場に降りていく。武器、法石、現金。使えるものは全て奪い取った。
「ひどい......」
客室でその一部始終を見ていたラムザが呟いた。
「あの人たち、墜落した敵から略奪を......」
「これが空の民なの?」
ニーナも困惑していた。孤児院と軍隊しか知らない彼女には、この無法さが理解できない。
「なんて連中だ......」
ラムザは愕然としていた。皇族として、秩序ある世界しか知らなかった彼にとって、この光景は異常だった。
略奪を終えた船員たちが戻ってくる。戦利品を分け合い、笑い声を上げている。
「よし、出発だ!」
ガランが号令をかけた。
「エリドゥまで、あと一息だぞ!」
雷牙号は再び空に舞い上がった。しかし、ラムザとニーナの心には、深い衝撃が刻まれていた。
帝国の法と秩序の外には、こんな世界が広がっているのか。
二人は、改めて自分たちが危険な船に乗っていることを実感した。




