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最弱職《記録者》は戦えないけど、なぜか仲間が最強になる  作者: 神崎ユウト


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第4話 最初の違和感

 洞窟の奥で、火花が散った。


 ミレイナの炎が壁に弾かれ、視界が一瞬、白く染まる。

 その隙を突いて、ゴブリンがガルドの脇腹に飛びかかった。


「チッ……!」


 ガルドが歯噛みする。

 剣を振るが、体勢が悪い。


 ――来る。


「ガルド、半歩――」


 アルトの声が、空気を裂いた。


「遅らせて!」


 ガルドは反射的に足を止めた。

 ほんの一瞬、踏み込みを遅らせただけ。


 だが、それで十分だった。


 ゴブリンの爪が空を切り、

 次の瞬間、ガルドの剣が横薙ぎに走る。


「……っ、倒した!」


 ゴブリンが倒れ伏す。


 一拍の沈黙。


「今の……」


 リシアが息を呑む。

 ミレイナも、目を瞬かせた。


「……偶然でしょ」


 そう言ったのは、ガルドだった。


「たまたま噛み合っただけだ」


 アルトは、何も言わなかった。


 ――偶然じゃない。

 ――予測通りだ。


 だが、その確信を口にすることはしなかった。


 戦闘は続く。


 次の遭遇。

 今度は、狭い通路。


「ミレイナ、炎は控えろ」


 アルトが言う。


「天井が低い」


「は? 何であんたに指示されなきゃ――」


「……言う通りにして」


 リシアが、珍しく口を挟んだ。


 一瞬、ミレイナは睨みつけたが、舌打ちして詠唱を止める。


 代わりに、ガルドが前に出た。


 通路は狭い。

 ゴブリンは一体ずつしか来られない。


 結果、被害は最小限で済んだ。


「……まあ、悪くはなかったな」


 ガルドが腕を回しながら言う。


「でも、いちいち指示されるのは気に入らねぇ」


 アルトは俯いた。


「……ごめん」


 本心ではなかった。

 だが、そう言うしかなかった。


 少し進んだ先で、不意に足元が崩れた。


「――っ!」


 リシアが声を上げる。


「動くな!」


 アルトが即座に叫ぶ。


「その床、薄い!」


 全員が止まる。

 次の瞬間、リシアの足元の石が崩れ落ち、下が空洞になっているのが見えた。


「……危な」


 ミレイナが顔を青くする。


「何で分かったの?」


「……風の流れ」


 アルトは短く答えた。


 空洞がある場所は、わずかに空気が吸われる。

 昨日、似た罠を見ていた。


「ふーん……」


 ミレイナは納得していない様子だったが、それ以上は言わなかった。


 リシアが、アルトを見る。


「……助かった」


 小さな声。

 だが、確かに届いた。


 アルトの胸が、わずかに熱くなる。


 ダンジョンの踏破は、想定よりも早く終わった。


「訓練としては、上出来だな」


 教官が記録板に目を落とす。


「特に大きな怪我もなし。合格だ」


 周囲から、安堵の声が上がる。


 ガルドは胸を張った。


「まあ、俺がいれば当然だな」


「炎を控えたのも正解だったしね」


 ミレイナが続く。


 リシアは、何も言わなかった。


 アルトは、その様子を静かに見ていた。


 ――誰も、自分の名前を出さない。


 当然だ。

 自分は戦っていない。

 魔法も使っていない。


 ただ、言葉を挟んだだけだ。


「……おい」


 ガルドが、アルトを呼び止める。


「今日の指示、何なんだ?」


 アルトは、一瞬考えた。


「……見てただけだ」


「見てただけで、分かるかよ」


 ガルドは鼻で笑う。


「ま、結果オーライだ。だがな」


 彼の目が、冷たくなる。


「次も口出しするなら、ちゃんと責任取れよ」


 その言葉に、アルトは何も返せなかった。


 夜。


 宿舎の部屋で、アルトはノートを開いていた。


 今日の出来事を、細かく書き留める。


 半歩の遅れ。

 狭所での戦術。

 床の空洞。


 そして、最後に一行。


 《指示は有効。だが、信用は得られない》


 ペンを置き、アルトは深く息を吐いた。


 ――やはり、この場所に自分の居場所はない。


 だが同時に、確信もあった。


 ――自分の見ているものは、間違っていない。


 ノートの端が、かすかに光った気がした。

 だが、アルトは気づかない。


 気づいているのは、読者だけだ。


 そして、この小さな“違和感”が、

 やがて決定的な亀裂になることを、

 誰もまだ知らなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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