第3話 仮初めのパーティ
実地訓練の前日、冒険者学校の掲示板前は人だかりができていた。
「パーティ編成、出てるぞ!」
「お、俺はどこだ?」
ざわつく声の中、アルトは静かに自分の名前を探した。
――あった。
【第七班】
前衛:ガルド・バルカス(剣士)
後衛:ミレイナ(炎術師)
支援:リシア・ノルデン(治癒師)
補助:アルト・レイン(記録者)
“補助”。
それが、彼に与えられた役割だった。
「よし、集まったな」
ガルドが腕を組み、三人を見回す。
どこか誇らしげな表情だった。
「明日は低層ダンジョンの踏破訓練だ。相手はゴブリン中心。楽勝だな」
「さすがガルド。余裕ね」
ミレイナが笑う。
アルトは、何も言わなかった。
低層とはいえ、油断すれば怪我人は出る。
特に、この編成は――。
「役割を確認するぞ」
ガルドが指を折る。
「俺が前。ゴブリンをまとめて斬る」
「ミレイナは後ろから火力」
「リシアは回復に集中」
「で……」
ガルドの視線が、アルトに向く。
「お前は後ろで記録。余計なことはするな」
アルトは一瞬、口を開きかけた。
――言うべきか。
前衛が一人。
範囲魔法は洞窟内では危険。
回復役は一人だけ。
「……わかった」
結局、そう答えた。
リシアが、不安そうにアルトを見る。
「本当に、大丈夫かな……」
「大丈夫だろ」
ガルドが即答する。
「ゴブリンだぞ? 数が多くても俺が突っ込めば終わりだ」
その言葉に、ミレイナも頷いた。
「変に考えすぎなのよ。記録者は後ろでノートでも書いてなさい」
アルトは、胸の奥に小さな違和感を抱えたまま、その場を離れた。
夜。
宿舎の一室で、アルトはノートを広げていた。
これまで見てきた模擬戦。
ガルドの剣筋。
ミレイナの詠唱速度。
リシアの回復成功率。
書き出すほどに、ひとつの結論が浮かび上がる。
――このパーティは、崩れやすい。
ガルドは強い。
だが、突っ込みすぎる癖がある。
ミレイナの魔法は威力が高いが、洞窟では壁に阻まれやすい。
火力を焦ると、詠唱が荒れる。
リシアは丁寧だが、味方が同時に傷つくと判断が遅れる。
そして、自分。
――戦えない。
――守れない。
「……」
アルトは、ページの端に小さく書いた。
《前衛は半歩遅らせる》
《魔法は天井狙い禁止》
《回復は優先順位を決める》
だが、その下に線を引く。
――言っても、聞かれない。
ノートを閉じ、ベッドに横になる。
天井を見つめながら、アルトは思った。
明日、自分は“不要”だと証明される。
そんな予感が、はっきりとあった。
翌日。
低層ダンジョンは、湿った空気に満ちていた。
松明の火が揺れ、影が壁に踊る。
「よし、行くぞ!」
ガルドが先頭に立つ。
アルトは、最後尾についた。
最初の遭遇。
ゴブリン三体。
「雑魚だ!」
ガルドが突っ込む。
ミレイナの炎が続く。
――速すぎる。
「左、注意――」
アルトが声を出した時には、もう遅かった。
壁際から、もう一体のゴブリンが飛び出す。
「くっ……!」
ガルドが体勢を崩す。
リシアが慌てて詠唱を始める。
「《癒や――》」
「まだだ!」
アルトの声が、思わず大きくなった。
「今は、回復じゃない!」
一瞬の沈黙。
だが、その声は届かなかった。
炎が洞窟の壁に弾かれ、火花が散る。
ゴブリンが、笑った。
アルトは、ノートを握りしめる。
――ほら。
――やっぱり。
この戦闘が、
このパーティの終わりの始まりになることを、
彼だけが理解していた。
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