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最弱職《記録者》は戦えないけど、なぜか仲間が最強になる  作者: 神崎ユウト


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第15話 再会は救いにならない

 雨が降っていた。


 強くもなく、弱くもない。

 ただ、地面を確実に濡らす、厄介な雨だ。


 アルトは、ギルドの裏通りを歩いていた。

 今日の依頼は終わった。

 参謀としての仕事も、問題なく。


 ――問題なく、終わりすぎた。


 それが、最近一番気になっていることだった。


「……アルト?」


 その声を聞いた瞬間、

 足が止まった。


 聞き間違えるはずがない。

 記録しなくても分かる声だ。


 振り返る。


 そこにいたのは、

 淡い銀髪を雨に濡らした少女――リシアだった。


「……久しぶり」


 ぎこちない笑顔。


 以前より、少しだけ大人びている。

 姿勢も、声も、どこか落ち着いていた。


「……久しぶり」


 アルトは、同じ言葉を返した。


 それ以上、何も出てこない。


 沈黙の間に、雨音だけが流れる。


「最近……」


 リシアが、先に口を開いた。


「最近、ギルドで名前を聞くの」


「……そう」


「戦わないのに、結果を変える人がいるって」


 視線が、少し逸れる。


「それが……アルトだって」


 アルトは、否定しなかった。


「……うん」


 それだけ。


 リシアは、胸の前で手を握りしめた。


「ごめんね」


 突然だった。


「……あの時」


 追放の夜。

 焚き火の前。


「止められなかった」


 声が、震える。


「間違ってるって、分かってたのに……

 何も言えなかった」


 雨が、肩を打つ。


 アルトは、しばらく黙っていた。


 ――記録している。

 あの夜の表情も、声も。


 だが、それを取り出すつもりはなかった。


「……責めてないよ」


 本心だった。


「皆、そうだった」


「でも……!」


 リシアの声が、少し大きくなる。


「私、助けてもらってた」


 アルトを見る。


「訓練の時。

 詠唱が安定しなかった時……」


 彼女は、ぎゅっと目を閉じた。


「アルトが、見てくれてた」


 雨粒が、睫毛を伝う。


「最近、回復が安定してるのも……

 きっと、あの時の……」


「……違う」


 アルトは、静かに遮った。


 リシアが、はっと顔を上げる。


「リシアが、ちゃんとやったんだ」


「でも……!」


「……僕は、記録しただけ」


 それは、事実だった。


「再現したのは、リシア自身だ」


 沈黙。


 リシアは、俯いた。


「……ねえ」


 小さな声。


「私、今のアルトの隣に、立てると思う?」


 その問いは、

 あまりにも重かった。


 アルトは、すぐには答えられなかった。


 ノートに書けば、

 答えは出るだろう。


 だが、これは――

 記録すべき問いではない。


「……今は」


 ようやく、言葉を選ぶ。


「今は、無理だと思う」


 リシアの肩が、びくりと揺れた。


「……正直だね」


「……嘘は、つけない」


 アルトは、続ける。


「僕は、前に出ない。

 出たら、壊れる」


「……私は?」


「……リシアは、前に立つ人だ」


 それは、突き放しでも、拒絶でもない。


 ただの事実。


 リシアは、しばらく黙っていたが、

 やがて、小さく笑った。


「……やっぱり、アルトだね」


 雨の中で、一歩下がる。


「でも……」


 顔を上げる。


「逃げないで」


 その言葉だけを残し、

 彼女は踵を返した。


 振り返らない。


 アルトも、追わなかった。


 その夜。


 宿の部屋。


 アルトは、ノートを開いていた。


 だが、今日は――

 リシアのことを書かなかった。


 代わりに、ページの中央に、

 大きく一文だけが記されている。


 《再現不能:感情》


「……そうだな」


 小さく、呟く。


 感情は、再現できない。

 だからこそ、人は迷う。


 ノートの端に、

 新しい文字が浮かぶ。


 《観測段階:終了》

 《次段階:干渉》


 アルトは、息を止めた。


 これは――

 これまでとは違う。


 ただ見て、記録する段階は、終わった。


 これから先は、

 世界そのものが、彼に干渉してくる。


 最弱職の物語は、

 静かな成り上がりを終えた。


 次は――

 逃げ場のない場所で、

 選択を迫られる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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