第14話 記録者を探す者たち
神殿の地下には、光が届かない。
石段を下りるたび、空気が重くなる。
外界の祈りも、喧騒も、ここまでは降りてこない。
「……まだ、残っていたか」
白衣をまとった男――神殿調査官エルディンは、
古い書架の前で足を止めた。
表紙の文字は、削られている。
意図的に、だ。
「《職能異常記録》……」
指でなぞると、埃が舞った。
この書庫は、公式には存在しない。
神殿内でも、ごく一部の者しか知らない場所だ。
「近年、再び兆候が出た」
背後で、低い声がした。
振り返ると、もう一人の調査官が立っている。
「冒険者ギルド周辺。
弱小パーティの成功率が、異常に高い」
「……原因は?」
「特定の人物が関与している」
エルディンは、ため息をついた。
「また、か」
書架から一冊を引き抜く。
中は、ところどころページが欠けている。
だが、残された記述は十分だった。
《職名:記録者》
《分類:非戦闘》
《危険度:高》
「……最弱職のはずだ」
そう呟いた調査官に、エルディンは答える。
「“最弱”なのは、個だ」
ページをめくる。
そこには、赤字で書かれた一文があった。
《再現性を持つ存在は、秩序を破壊する》
「……秩序、か」
調査官は、唾を飲み込んだ。
「過去の《記録者》は?」
「消えた」
エルディンは、淡々と告げる。
「正確には――
“消された”」
一方、その頃。
アルトは、ギルドの一角で簡易な作戦図を書いていた。
「ここで一度、止まる」
「突っ込まない」
「……焦らない」
周囲の冒険者たちは、静かに頷く。
最近、彼の言葉を疑う者は少なくなっていた。
「アルト、次の依頼も頼めるか?」
管理担当の男が、声をかける。
「……参謀役として」
その言い方に、微かな違和感を覚える。
「……何か、変わりましたか」
「さあ?」
男は曖昧に笑う。
「ただ、外部からe…失礼。
“別の組織”からも、問い合わせが来ていてね」
「……神殿ですか」
男は、答えなかった。
それが、答えだった。
同じ頃。
神殿上層部では、非公式の会合が開かれていた。
「職能固定の原則は、守られているか?」
「はい。現時点では」
「では、なぜ弱小が勝つ」
沈黙。
「……再現性です」
一人の神官が、苦しそうに言う。
「個の才能ではなく、
行動が再現されている」
別の神官が、声を荒げる。
「それは、禁忌だ!」
「人は、同じ結果を得てはならない。
奇跡は、一度きりであるべきだ」
エルディンが、静かに口を開いた。
「対象は、冒険者ギルド所属。
名は――アルト・レイン」
その名が、記録される。
「……処理対象か?」
一瞬、空気が凍る。
「まだだ」
エルディンは首を振った。
「まずは、観測する」
「最弱職だ。
いずれ、限界が来る」
「……そうであることを、祈ろう」
夜。
アルトは、宿の部屋でノートを開いていた。
今日の依頼。
配置。
順番。
だが、いつもと違う。
ページの端に、
自分の知らない図が描かれている。
円。
線。
矢印。
そして、文字。
《観測されている》
「……?」
背中に、ひやりとしたものが走る。
誰かに、見られている。
それも、ただの冒険者ではない。
ノートを閉じ、窓を見る。
外は、静かだ。
「……気のせい、だよな」
そう呟きながらも、
胸の奥のざわめきは消えなかった。
最弱職は、
まだ逃げているつもりだった。
だが――
世界の方が、先に追いつき始めていた。
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