第12話 強くなったのは誰か
同じやり方は、通用しないはずだった。
それが、アルト自身の考えだった。
旧森道での成功は、条件が揃いすぎていた。
地形、相手、パーティの力量。
――再現できるとは、限らない。
だからこそ、アルトは距離を置こうとしていた。
「……もう一度、頼めないか」
声をかけてきたのは、別のパーティだった。
四人組。
装備は新しく、経験は浅い。
「さっきの討伐、見てたんだ」
「戦い方……変だったろ?」
変だった、という言葉に、アルトは少しだけ苦笑した。
「……戦っていません」
「それでも、だ」
前衛らしき青年が言う。
「俺たち、何度やっても上手くいかなくて」
後衛の魔法使いが、俯く。
「才能がないのかな、って……」
その言葉に、アルトは胸の奥がちくりとした。
かつて、自分が向けられていた視線と同じだったからだ。
「……条件があります」
アルトは、静かに言った。
「前と同じです。
戦わない。
責任は取りません」
「それでもいい」
即答だった。
――また、始まってしまう。
そう思いながらも、アルトは頷いた。
場所は、ギルド近郊の岩場。
視界が広く、隠れ場所が少ない。
「……ここは」
アルトは、すぐに把握する。
旧森道とは、真逆の環境。
「条件が違う」
それでも。
「やり方は、同じでいい」
アルトは、ノートを開かずに言った。
「前衛は、最初に踏み込まない」
「え?」
「相手が動くまで、待つ」
戸惑いながらも、前衛は従う。
魔物が動く。
一瞬の隙。
「今」
剣が走る。
「……当たった!」
後衛の魔法が続く。
「詠唱、急がなくていい!」
声が重なる。
斥候役が、回り込む。
連携が、噛み合う。
――まただ。
アルトは、確信していた。
これは、偶然ではない。
戦闘は、短時間で終わった。
「……勝った?」
「俺たち……勝ったよな?」
四人が、顔を見合わせる。
驚きと、困惑。
「何が……違ったんだ」
誰かが呟く。
アルトは、少しだけ考えてから答えた。
「……順番です」
「順番?」
「攻撃の順番。
動く順番。
考える順番」
アルトは、地面に小さく図を描く。
「皆さんがやっていたことは、変わっていません」
「じゃあ……」
前衛が、拳を握る。
「強くなったのは、俺たち?」
アルトは、首を横に振った。
「違います」
一拍、置く。
「……“噛み合った”だけです」
その言葉に、全員が黙り込んだ。
ギルドに戻る道すがら。
アルトは、自分の中に生まれた感覚を、言葉にしようとしていた。
これは、才能ではない。
努力でもない。
まして、力ではない。
――構造だ。
世界は、構造で動いている。
剣も、魔法も、判断も。
再現できる形がある。
宿に戻り、ノートを開く。
今日は、書かないつもりだった。
だが、ページは勝手に進む。
《再現成功:別条件》
《対象:異なる個体》
《結果:同一》
「……」
アルトは、ペンを置いた。
もう、否定できない。
これは偶然ではない。
誰がやっても、同じ条件なら、同じ結果になる。
そして。
その条件を見つけ、並べ、固定するのが――
《記録者》なのだ。
翌日。
ギルドの片隅で、ひそひそと声が交わされていた。
「最近、妙な話が多い」
「弱いパーティが、急に勝ってる」
「裏に、誰かいるらしいぞ」
視線が、アルトに向く。
だが、誰も声はかけない。
怖いのだ。
戦えないのに、
結果だけを変える存在が。
その夜。
ギルドの奥、立ち入り禁止の書庫。
一人の男が、古い台帳を開いていた。
削られたページ。
消された名前。
「……やはり、あった」
指でなぞる。
《記録者》
《再現》
《危険指定》
男は、静かに帳を閉じた。
「――見つかる前に、処理するべきだったか」
最弱職は、
もう“最弱”ではない。
だが本人だけが、
まだそれを強さと呼んでいなかった。
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