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最弱職《記録者》は戦えないけど、なぜか仲間が最強になる  作者: 神崎ユウト


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第11話 記録される側の自覚

 勝利のあとというのは、奇妙な空気になる。


 旧森道から戻った三人組のパーティは、

 ギルドの一角で簡単な祝杯を上げていた。


「……信じられねぇ」

「今までと、何が違ったんだ?」

「俺たち、本当に勝ったんだよな?」


 剣士は、何度も自分の手を見下ろしている。

 魔術師は、空の杯を回しながら黙り込んでいた。


 斥候だけが、少し離れた場所で、アルトの背中を見ていた。


 アルトは、壁際の席でノートを開いている。

 いつも通り。

 誰に話しかけるでもなく。


「……なあ」


 斥候が、ついに口を開いた。


「アルト」


 名を呼ばれ、アルトは顔を上げる。


「何ですか」


「俺たち、強くなったと思うか?」


 唐突な問いだった。


 アルトは、少し考える。


「……いいえ」


 三人が、同時にこちらを見る。


「強くなったわけじゃありません」


「じゃあ、何だって言うんだ」


 剣士の声には、苛立ちよりも困惑が混じっていた。


 アルトは、ノートを閉じる。


「……できることを、正しい順番でやっただけです」


「それを、“強くなった”って言うんじゃねぇのか」


「違います」


 アルトは、静かに首を振る。


「元々、皆さんはできていました。

 ただ――」


 言葉を選ぶ。


「……噛み合っていなかっただけです」


 沈黙。


 魔術師が、ぽつりと呟く。


「……私たちが、下手だったってこと?」


「いいえ」


 アルトは否定した。


「環境と、相手と、順番が悪かった」


「それを……」


 剣士が、眉をひそめる。


「どうやって分かった?」


 アルトは、少し困ったように視線を逸らす。


「……見ていただけです」


 それ以上、説明はできなかった。


 その日の夕方。


 ギルドの裏手、簡易訓練場。


 三人は、アルトの指示通りに、軽い模擬をしていた。


「剣士、踏み込み抑えろ」

「はいはい……っと」


 言われた通りに動くと、剣が安定する。


「魔術師、詠唱は今のまま」

「……ほんとだ、暴発しない」


「斥候、三歩以上出るな」

「分かってる」


 誰も、疑問を口にしない。


 結果が出たからだ。


 模擬が終わり、三人は息を整える。


「……なあ」


 斥候が、アルトに向き直る。


「俺たち、

 あんたに“使われてる”気がする」


 その言葉に、空気が張り詰めた。


 アルトは、即座に首を振る。


「違います」


「じゃあ、何だ?」


 アルトは、少しだけ迷ってから答えた。


「……皆さんが、記録されているだけです」


「記録?」


「はい」


 アルトは、ノートを軽く叩く。


「動き。判断。失敗。成功。

 全部、ここに残っている」


 三人は、無言でノートを見る。


「それを……」


 魔術師が、喉を鳴らす。


「使ってる?」


「……再現しています」


 斥候が、息を吸った。


「つまり……」


 言葉を探し、ようやく絞り出す。


「俺たちは、“再現される側”ってことか」


 アルトは、否定しなかった。


 その夜。


 宿の部屋で、アルトは一人、ノートを開いていた。


 今日の会話。

 三人の反応。


 そして、無意識のうちに書かれた一文。


 《他者再現:安定》


「……」


 ページをめくる。


 《再現対象:複数》

 《環境依存:中》


 書いた覚えは、ない。


 だが、もう驚かなくなっていた。


 その時、隣の席から声が聞こえた。


「……最近さ」


 酒場のざわめきの中。


「回復が安定してきた治癒師、いるらしいぜ」


 アルトの手が、止まる。


「前は、結構ムラがあったのに」

「最近は、詠唱も落ち着いてるって」


 別の声が続く。


「名前、何だっけ」

「……リシア、だったか?」


 胸の奥が、少しだけ痛んだ。


 ――ああ。


 彼女も、記録の中にいる。


 自分がいなくても、

 自分が残したものだけで、

 誰かは変わっていく。


「……」


 アルトは、ノートを閉じた。


 救われた気持ちと、

 置いていかれた気持ち。


 どちらともつかない感情が、胸に残る。


 その頃。


 ギルドの奥、管理室。


 一人の男が、書類に目を通していた。


 《旧森道・討伐成功》

 《指揮:外部協力者あり》


「……記録者、か」


 男は、静かに紙を閉じる。


「これは……放っておけないな」


 最弱職は、

 まだ無名だ。


 だが――

 “記録される側”が、自覚し始めている。


 それは、

 世界が最も嫌う兆候だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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