第10話 指示だけで勝つ方法
旧森道の入口は、昼でも薄暗かった。
木々が空を覆い、光がほとんど差し込まない。
湿った土の匂いと、腐葉の重なった音。
「……ここか」
剣士が、唾を飲み込む。
前に立つ三人は、昨日と同じ顔ぶれだった。
前衛:剣士(名前はまだ聞いていない)
後衛:魔術師
斥候:細身の青年
そして最後尾に、アルト。
「もう一度確認する」
アルトは、落ち着いた声で言った。
「俺は戦わない。
前には出ない。
責任も取らない」
「分かってる」
剣士が頷く。
昨日とは違う。
声に、余裕がない。
「言われたことを“試す”だけだ」
アルトは、森道を見渡す。
曲がり角。
地面の沈み。
風の流れ。
すべて、記録と一致している。
「……いい」
アルトは言った。
「最初の分岐まで、斥候が先行。
でも、三歩以上は離れない」
「了解」
「剣士は、踏み込みを抑える。
深追いしない」
「……意識する」
「魔術師。
詠唱は“最短”じゃなく、“安定”を優先」
「……分かった」
それだけ。
作戦と呼ぶには、あまりに地味だった。
最初の接触。
木陰から、魔物が現れる。
――フォレストウルフ。
以前の彼らなら、ここで崩れていた。
「来るぞ!」
剣士が前に出る。
「……一歩、遅らせて」
アルトの声。
剣士は、言われた通り、踏み込みを抑える。
ウルフが飛びかかる。
距離が、わずかにズレる。
「今だ!」
剣士の剣が、確実に届いた。
「……っ、当たった!」
驚いた声。
魔術師の魔法が続く。
詠唱は遅い。
だが、途切れない。
炎が、ウルフの進路を塞ぐ。
「斥候、右!」
斥候が即座に動き、回り込む。
連携が、噛み合っている。
――強くなった?
違う。
元々できたことを、正しい順番でやっているだけ だ。
奥へ進む。
魔物の数が増える。
だが、混乱は起きない。
「下がる。ここで迎撃」
「魔法、天井禁止」
「斥候、退路確認」
短い指示。
感情のない声。
それでも、全員が従う。
結果。
魔物が、倒れていく。
誰も、大きな怪我をしない。
「……勝ってる」
魔術師が、信じられないように呟く。
「今までと……同じなのに」
アルトは答えない。
――同じじゃない。
――“順番”が違う。
最後に現れたのは、
この森道で“格上”とされる魔物だった。
「……出た」
斥候の声が震える。
以前、ここで彼らは壊滅しかけた。
「逃げ――」
剣士が言いかける。
「……逃げない」
アルトが、静かに遮る。
「ここで退くと、挟まれる」
一瞬の沈黙。
「……どうする」
剣士が、アルトを見る。
その目には、信頼があった。
「……立ち位置を変える」
アルトは、地面に線を引く。
「剣士、ここ。
魔術師、半歩後ろ。
斥候、背後警戒」
「それで……?」
「それで、足りる」
根拠は、言わない。
言えない。
だが――
戦闘は、短かった。
魔物の突進は、位置のズレで空を切り。
魔法は、確実に通る。
剣士の一撃が、止めを刺す。
「……倒した?」
静寂。
魔物が、動かない。
「……倒した……!」
剣士が、膝をついた。
魔術師は、呆然としている。
斥候だけが、ゆっくりと振り返った。
「……あんた」
アルトを見る。
「何者だ?」
アルトは、少し考えてから答えた。
「……記録者です」
それ以上は、言わなかった。
ギルドに戻ると、空気が一変した。
「え……?」
「旧森道で、あれを倒した?」
「マジかよ……」
ざわめき。
だが、注目されているのは――
「お前ら、急に強くなったな」
「何があった?」
三人組だった。
アルトは、少し離れた場所に立っている。
誰も、彼を見ない。
それでいい。
受付の女性が、依頼書を確認しながら言った。
「討伐、確認しました。
報酬は銀貨になります」
三人は、顔を見合わせる。
「……あの」
斥候が、口を開く。
「この人にも……」
剣士が、首を振った。
「いや」
一瞬、迷ってから言う。
「……これは、俺たちの成果だ」
アルトは、何も言わなかった。
それも、予測通りだった。
夜。
宿の一室。
アルトは、ノートを開いていた。
今日の戦闘。
配置。
順番。
そして、無意識に書かれた文字。
《再現成功》
《一致率:91%》
「……」
アルトは、そっとノートを閉じた。
誰も知らない。
だが、確信だけはある。
これは、偶然ではない。
自分が関われば、結果は再現される。
そして――
その力は、
決して“自分だけの強さ”ではない。
最弱職は、今日も戦っていない。
それでも、
世界は、確実に動いていた。
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