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最弱職《記録者》は戦えないけど、なぜか仲間が最強になる  作者: 神崎ユウト


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第1話 最弱職《記録者》の宣告

この世界では、十五歳で授かる「ジョブ」が、人生のすべてを決める。

戦える職は称えられ、

戦えない職は、必要とされない。

神殿でその事実を突きつけられた時、

少年アルトはまだ知らなかった。

最弱職《記録者》が、世界にとって最も都合の悪い存在になることを。

 神殿の天井は、やけに高かった。


 白い石で組まれた円形の広間。その中央に置かれた水晶球の前に、十五歳になった子供たちが一人ずつ呼ばれていく。

 水晶に手を触れた瞬間、光が走り、ジョブが告げられる――この国で誰もが経験する通過儀礼だ。


「次、アルト・レイン」


 名前を呼ばれ、アルトは一歩前に出た。

 足音がやけに大きく響く。視線が集まるのを感じながら、水晶球に手を置いた。


 ひんやりとした感触。


 ――来い。


 そう思った瞬間、水晶が淡く光り始めた。

 だが、これまで見てきたような鮮やかな発光ではない。白とも灰色ともつかない、濁った光だった。


 ざわ、と空気が揺れる。


「……?」


 神官セインの眉が、わずかに動いた。

 彼は水晶と、横に浮かぶ鑑定板を交互に見つめる。沈黙が、長い。


「神官様?」


 誰かが小声で催促する。

 セインは一度咳払いをし、静かに告げた。


「アルト・レイン。授かった職は――《記録者》です」


 一瞬、誰も反応しなかった。


 次の瞬間、広間にざわめきが広がる。


「記録者……?」

「そんな職、聞いたことある?」

「戦えないやつだろ」


 アルトは、胸の奥がすっと冷えるのを感じた。

 やはり、という思いと、わずかな期待が砕ける音が同時にした。


 鑑定板に文字が浮かぶ。


 ――戦闘適性:0

 ――魔力適性:0

 ――補助適性:測定不能


「……測定不能?」


 誰かが笑った。

 誰かが肩をすくめた。


 神官セインは、困ったように視線を逸らす。


「記録者は……戦闘能力を持たない職です。戦場においては、主に観察と記録を……」


 その言葉を最後まで聞く者は少なかった。


「つまり、役に立たないってことだろ?」

「冒険者には向かないな」

「運が悪かったな」


 遠慮のない声が、アルトの耳に刺さる。


 ――知っていた。


 《記録者》が弱い職だということは、事前に調べていた。

 歴史書の片隅に載る、戦争の記録係。英雄の後ろに立つ、名も残らない存在。


 それでも、どこかで期待していたのだ。

 “測定不能”の先に、何かがあるのではないかと。


 だが、現実は容赦なかった。


 アルトは、無意識にノートを開いていた。

 白紙のページに、今日の日付と、神官の言葉を書き留める。


 《記録者》

 戦闘不可

 魔法不可

 能力不明


 その時、ぱち、と小さな音がした。


「……っ」


 アルトが顔を上げると、広間の端で、誰かが小さく拍手をしていた。


 銀色の髪を揺らし、困ったように笑う少女。

 リシア・ノルデンだ。


「……おめでとう、アルト」


 その声は、震えていた。


 一瞬、広間の視線が彼女に集まる。

 空気が張り詰めるのを感じたのか、リシアははっとして、拍手を止めた。


「……ごめん」


 そう呟き、俯く。


 誰も彼女を責めなかった。

 だが、誰も彼女を支持もしなかった。


 それが、この世界の答えだった。


 アルトは、ゆっくりと神殿を後にした。

 背中に、いくつもの視線を感じながら。


 ――戦えない。

 ――役に立たない。

 ――最弱職。


 石段を下りながら、アルトは考える。


 それでも、見てしまったものは消えない。

 人の動き。言葉の癖。空気の流れ。


 今日もまた、世界は確かに動いていた。


 アルトはノートを閉じ、胸に抱えた。


「……記録するだけだ」


 それが、今の自分にできる、唯一のことだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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