運命の日?
「――くっくっく……ようやく、この日が来たようね」
柔らかな陽光照らす、ある朝のこと。
起き上がるやいなや、瞼を擦りつつそんな台詞を口にする。……そう、今日はすっごく大事な日。今日のために、ここ二週間ほど血の滲むようなトレーニングに耐え忍び……うん、ごめんなさいだいぶ盛りました。
……ただ、それなりに――少なくとも、私にしては厳しいトレーニングに励んだのは事実。そして、そんな私らしからぬ苦行を遂行した理由は――
「――くっくっく……ようやく、この時が……あの伝説のブツを、我が手中へと収めるこの時が――」
「……ねえ、雪那。さっきから、何をぶつくさ言ってるの?」
「――うわっ、急に入ってこないでよママ!」
「いや、さっきからずっといたんだけど。入って良いか聞いたら、うぃ〜っすって言ったじゃないあんた」
「いやそんなこと言っ……いや、言ったかな?」
……うん、そう言えばそんな記憶もあるようなあるような。まあ、寝起きでぼおっとしてたし適当に答えたんだろう。
「……ところで、ほんとに良いの? やっぱりいるって言うかもしれないから、一応作っておいたんだけど」
そう、少し心配そうに尋ねるママ。その気持ちは有り難いし、また申し訳ないのだけど……それでも、さっと首を横に振り――
「……うん、ごめんねママ。でも……今日は、どうしてもお腹を空かせておきたいから」
「――い〜しや〜き〜も〜おいもだよ〜」
「……ん?」
登校中、少し遠くから何とも陽気な声が届く。どうやら、こちらへ近づいているようだ。……ふむ、腹が減っては戦はできぬと言うし、ここらでいっちょ――
「――馬鹿かお前はーーー!!」
「ええっ!?」
「あっ、いえ違い……すみませんでした」
突如、住宅街の一本道にて絶叫する私。すると、丁度通りかかったスーツ姿の男性が驚愕の声を……うん、ほんとごめんなさい。
……いやいや、馬鹿か私は。ここで誘惑に負けたら、もうほんと全部台無しじゃん。
と言うのも……全ては、今日のために昨日――正確には、昨日の昼食を最後にずっと空腹に耐え忍んできたから。それもこれも、全て今日の……あっ、ごめんなさい夜ちょっとだけ食べました。いや、タコワサとスルメが余りにも美味しくって。
「――今日はなんと〜出血大サービスだよ〜」
ともあれ――寸でのところで目的を思い出し、改めて気を引き締める。……うん、大サービスは大変捨て難いけど……まあ、石焼き芋はいつでも食べられ――
「――なんと〜衝撃の9割引!」
「血ぃ出過ぎじゃない!?」
その後、破格の誘惑をどうにか振り切り歩みを進める私。……うぅ、いしやきいも。
――いや、でも今日は仕方なかった。むしろ、何とか誘惑に耐え凌いだ自分を褒め称えてあげるべきだろう。うん、頑張ったよねわた――
「――本日〜本日限定増量サービス〜本日限定盛り盛りサービスだよ〜」
「……ん?」
頑張ったよね私――そんな思考の寸前、ふと底抜けに明るい声が耳に届く。見ると、某コンビニの店員さんのようで。
でも……盛り盛りサービスって、ちょっと前に終わらなかったっけ? もしかして、前回とは違うのかな? なんか、今日だけみたいだし。
……まあ、いずれにせよ今は素通り一択。非常に残念ではあるけど……まあ、増量と言っても実際そこまででは――
「――なんと〜今回は増量470%!」
「盛り盛りにも程があるよ!!」




