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5. クモの惑星

「いやぁ、すっきりしました。それじゃ、次の話を聞いてもらえますか?」

 残るは後半戦、先住の生物を根絶やしにした宇宙生物と、異世界の神と、悪役令嬢風BL男性の脳細胞と、愛玩用AI。今まで通りに行けば、彼らと対話することになるのだろう。それともこれからみんなで更なる異世界を冒険したりするのだろうか?

「もちろんです! 宇宙生物さん、よろしくお願いします!」第三王女はそう答えると、間髪入れず滑らかな指使いを発揮して、新しい情景を描き出した。

 宇宙生物は、遥か昔、遠い宇宙の果てにある、ガスの充満した光の届きにくい惑星に生息していた。その過酷な環境に適応すべく、眼ではなく電波や振動によって知覚する生物として生き延びていた。

 だが、一体一体が独立した個体として生き残ることは難しかったため、個体同士が特殊な電波を受発信することで互いに意思を疎通し合い、助け合っていた。体表は岩のように非常に硬い殻に覆われ、時にはブロックのように個体同士が合体しながら、アリやハチのような集団的コミュニティを形成する生物になっていく。

「弱い生物であるワレワレが生き残るにはある程度、個体の自我を放棄し、特殊な電波により結びついた集団的自我のような集合意識を獲得する必要がありました」

 もちろん、集合意識のデメリットも存在する。

「ワレワレが集合意識に捕らわれ過ぎてしまうと、多様性を失い、集団が同一の方向に向かって行動するようになります。結果的に間違った方向に集団が行動してしまうと、当然破滅する将来も考えられるのです」

 宇宙生物は何度も失敗を繰り返しながら、優秀な個体が指導者となり、集合意識を導くシステムを構築していった。

「優秀な個体をどう選抜するかが、重要な問題でした。自己の欲求を満たすためだけに集団を導いてしまう指導者の下では、当然、集団が破滅する可能性は高まります。そこでワレワレは、選抜された優秀な個体に、自己の欲求を放棄するよう教育しました」

 痛み、快楽、喜び、悲しみ、といった個体の情況に左右されないよう、感情によって行動することを制限し、感情と行動を切り離した個体を集合意識の指導者とするコミュニティがいくつも形成された。一つのコミュニティに100体くらいの個体が集まり集合意識を形成していった。

「元々集合意識を獲得していたワレワレにとって、自己の欲求を捨てることは、それほど難しくはありませんでした。高度なハチやアリのように生活し、ワレワレは比較的平和裏に生き延びることができていました」

 その後、彼らの惑星は生物にとって生存しやすい間氷期のような期間を迎え、知能も進化し文明も爆発的に進歩していく。

「しかし、高度な知能を有する生物は、同時に複雑な自我を持つことになります」

 ハチやアリのような自我を持たない生物から、サルやゾウのような自我を持つ生物に進化すると、特別な電波を受発信できたところで、今までのような集合意識を保てなくなってきた。

「ワレワレは、二者択一を迫られました。文明を進歩させるために個体が独立して複雑な自我を持つか、高度な文明と個体の自我を捨てて集合意識を持つ単純な生物として生きるか」

 その頃、間氷期が終わりを迎え、より過酷な氷期が到来するであろう予測が発表された。彼らは故郷の惑星を脱出する必要性も出てきた。

「そこでワレワレの下した決断は、催眠によって個体の自我を放棄することと、定期的に催眠を解除して個体の自我を取り戻すことでした」

 生物として生き延びるためには個体の自我を捨て集合意識を持つべきだ。しかし間違った方向に進まないように定期的に個体の自我を取り戻し、議論する必要があるのではないか。その二つを催眠という手段を使って定期的に行うことで、彼らは新しい進化を遂げる。

「催眠により集合意識を形成したワレワレは合体して巨大な岩のような生物となり、文明によって得た強力な推力を制御することで、星間飛行が可能になりました」

 銀河座標を基に試算して導かれたとある星団に、彼らが生存できる惑星が見つかった。彼らのコミュニティは星間飛行を成功させ、無事にその惑星に着陸することができた。

「その惑星は、故郷の惑星よりも生存に適した環境であり、ワレワレと同じような種族の先住生物が存在していました」

 サル程度の知能を持つと思われる先住生物は、一体ずつ独立した自我を持ち、争いつつも共生して暮らしてた。生存が容易な惑星では、それ以上進化する必要がなかったのかもしれない。

「ワレワレは先住生物と友好に共生していきたいと思っていましたが、特殊な電波の受発信もできずに争いを繰り返す先住生物は、ワレワレにとっては厄介な存在でした。ワレワレは様々な角度から検討と議論を行い、最終的には共生することを諦めました」

 同じ生物のフリをしつつも、先住生物より優位に立ち、最終的には根絶やしにする。感情を制限された指導者にとって、先住生物を根絶やしにすることに強い葛藤はなかった。

「集合意識を獲得したワレワレにとって、時に争いを好む先住生物の営み自体が、粗野で相いれない生き方でした。

 ワレワレは種の繁栄を目的とした議論をする際も、合理的な数値に基づいた決断さえ下せれば争いは不要でした。しかし、争いたいがために争うようにも映る先住生物の生き方は、非合理的だと判断されました」

 彼ら宇宙生物は、連携して争いを避けながら少しずつ数を増やし、一定の勢力を得たところで先住生物を駆逐していった。

 この地球上でヒトとその他の生物がかつてそうであったように、彼ら宇宙生物がその惑星を占有するのは時間の問題だった。先住生物を排除しつつ、彼らにとってはしばし、平和な生活が訪れた。

 しかしそこで、二つの問題が顕在化した。

 一つは、特殊な電波の受発信能力にまつわる問題だ。

 この惑星に移住してから少しずつ、彼ら宇宙生物の中に、受発信能力が低下している個体が散見されるようになった。

 原因として考えられたのは、惑星が持つ磁場か、宇宙ウイルスのような病気か、または先住生物に感化されたことで起こる影響か。確定はできなかったが、何らかの影響が原因で、電波を受発信できない個体が現れ始めた。

 先住生物の影響であれば、根絶やしにすればその問題が改善されるかもしれないという僅かな期待もあった。しかし受発信できなくなる個体は減ることなく増えていき、能力を失った個体は混乱し争うようになり、結局は先住生物と一緒に駆逐するしかなくなっていった。

 さらにその頃、同じ宇宙生物の別のコミュニティが、故郷を離れこの惑星に到着し始めた。改めて宇宙生物同士で先住生物の駆逐について議論したが、そこで彼らは初めてと言っていいほど、コミュニティ同士が全く違う結論を下すようになる。

「ワレワレは初めて、仲間割れに近い状態を経験しました。合理的な数値に基づいた議論の後に、ワレワレは全く違う生き方を選択する結果になったのです」

 先住生物の駆逐に協力し惑星の占有を目指す者以外に、集合意識を捨てて独立した個体となる者、感染を危惧して先に到着した個体全体を攻撃する者、さらには先住生物との共生を主張して交配し子を産む者まで現れた。

「集合意識を形成している時、指導者には個体を操る達成感があり、手足となる個体にも漠然とした快楽がありました。

 しかし、独立した自我を持つ個体となることで得られる達成感と感情は、つまり自由と言う名の麻薬に近い快感でした。争うことにも快楽があり、間違った選択にも達成感がありました。

 統制を失った他のコミュニティは最終的に受発信能力を失い、先住生物と同化していきました。そこでワレワレは、受発信能力を持った最後のコミュニティとして、巨大な岩石の状態で長い催眠に入ることにしました。

 さて、今ここにワレワレが転生しているということは、もしかしたらそのまま死亡したのかもしれませんが、再転生でやり直したいことは特にありません。先住生物はかつて星間飛行したワレワレと同じ種族だったのかもしれませんが、駆逐したことへの後悔もありません。

 ただ過酷な環境で感情を放棄したワレワレは、豊かな環境で暮らしている原始的な先住生物に対して、嫉妬や蔑みと、油断はあったと思います」

 俺は我に返ると、宇宙生物がにこやかに座っているのが見えた。

「すみません。ワレワレのいつものクセで、もしかしたら皆さんの自我も少しだけ、乗っ取っていたのかもしれません。

 ここに転生して暮らしたことで、ワレワレは自由を知りました。これから再転生したら、ワレワレは駆逐した先住生物に敬意を払い、墓を建てるくらいはするかもしれません」

 そう言って宇宙生物が光とともに再転生した後、俺は第三王女に尋ねた。

「ただ聞くだけだったけど、これでよかったのかな?」

「彼らはただ伝達がしたかったのかも。集団か独立かに関係なく、自我を持つ生物は割と伝えたがり屋ですからね」

「…そうかもしれないですね」

 さて、次の伝えたがり屋さんは……

「やっと番が来たか」


  つづく

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