春の庭
トラと並んで日向ぼっこをしながら、なんとなく庭を眺めた。
おじさんの家の春の庭は、色とりどりでとても鮮やかだ。
名前も知らない花が、たくさん咲いている。
「おじさん、チューリップ嫌いなの?」
廊下で眠るトラに寄り添いながら、なんとなく聞いてみた。
「どうして?」
「春の花っていえば、チューリップしか知らなかったし。
こんなにたくさん花があるのに、一本もないなって思って」
おじさんはしばらく庭を眺めてから、小さく呟いた。
「球根だからね。
猫には毒なんだよ」
それから、ふっと笑ってこう言った。
「うちの庭は、トラ用だな」
僕は思わず、トラがどこにも行かないようにぎゅっと抱きしめた。
トラは前脚でぐいっと僕の顔を押し返してくる。
「トラ、学校には行かないで。 たくさん植わってたから」
僕の心からの言葉をそっと囁いても、トラは不機嫌そうに僕を押すのをやめなかった。