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第7話 袋小路さんの林道講座

 初めての本格的な、いやあまりにも想定外の本格的すぎる端上林道で、転倒を経験した僕。


 その日、ドラッグストアで買った湿布を貼り、帰宅後に確認したが、幸い特に大きな腫れはなく、数日間、様子を見たが、問題はなかった。


 学校の授業で袋小路さんから、

「大丈夫?」

 と心配はされていたが、不思議と彼女は学校では口数が少なかった。


 1週間後。

 土曜日に、僕は朝からバイクに乗って、近くにある洗車場へ向かった。すでに隣にいるはずの袋小路さんのVストローム250SXがいないのが気になった。


 しかし、早朝にも関わらず、洗車場には黄色と黒のVストローム250SXの姿があった。


 ジェットホースを使って、彼女が自分のバイクを洗車していたのだ。


 すぐに僕の姿に気づいた彼女は、会釈をしてきたので、僕も返す。

 その後、袋小路さんの洗車時間が終わり、入れ替わる形で僕が洗車のジェットホースを持って、自分のバイクを洗う。


 さすがに林道を走った後なだけはあり、あちこちが汚れ、草や泥が跳ねて付着していた。


 そして、洗車時間が終わり、ジェットホースを仕舞うと、僕は車の間の吹き上げスペースに陣取って、布巾で自らのバイクを吹いている袋小路さんの隣に自分のバイクを持って行った。


「おはようございます、袋小路さん」

「おはよう、瀬崎くん」

 バイクに乗ると、妙に明るい性格になる彼女が笑顔を見せていた。


「袋小路さんも今日、洗車だったんですね」

「まあね。日曜日は雨だったから」

 先週の日曜日。土曜日に茨城県の林道に行った次の日。思いきり雨で洗車ができなかったのだ。その後の平日は二人とも毎日学校に行っていたから、洗車がこの日まで伸びたが、その日は天気が良かったこともあり、洗車場が混む前に、さっさと洗車したいと僕も袋小路さんも同じことを思ったのだった。バイク乗りは基本、朝が早いというのもあるが。


 そして、互いに持参してきた布巾で自分たちのバイクを吹きながら、気が付けば先日の林道ツーリングの話になっていた。


 その中で、僕は気になっていたことを、彼女にぶつけてみる。

「袋小路さん」

「何?」


「この前の林道で、ガレ場を走ってたら、やたらとバイクが跳ねる気がしたんですけど」

「それは空気圧を下げないからだね」


「空気圧ですか。規定値は前が1.50、後ろが1.75ですけど」

「林道を本格的に走るなら、空気圧を意図的に落とした方が、接地面が増えるから、走りやすくはなるよ。試しに1.0か0.8まで下げてみれば?」


「そうなんですか?」

「うん。ただし、空気圧を下げれば、グリップ力が上がる代わりに、障害物に乗り上げてチューブがリムに強く打ちつけられ、パンクすることがあるよ」


 ちなみに、「リム」というのは、rim=ふち、輪ぶちを意味し、バイクのホイールのスポークから先の、タイヤと接触して円周状になっている縁の部分のことを指すらしい。

 彼女が語ってくれたことによると、「林道を走っていてタイヤがパンクするパターン」がいくつかあるという。


 それは、

①埋もれた石にタイヤがヒット

②コンクリートの段差でリム打ち

③逆光で石が見えずに乗り上げ

 などに分かれるらしい。


「では、どうすれば?」

「通常のダートなら、空気圧を標準値にすることで、パンクのリスクを減らすことができるよ」


「つまり、空気圧を下げればいいんですか? 上げればいいんですか?」

 聞いているうちに、僕は自分がどうすればいいのか、わからなくなっていた。


「ケースバイケースかな。まあ、大抵の林道では標準空気圧で十分走れるけどね。どうしても気になるなら、自動で空気圧を調節できる機械があるから、それを買って、林道に持っていけばいいよ。ただし、空気圧は最低でも0.8以下にはしないこと。それ以下に下げるとさすがに色々とマズいからね」

「深いですね」


「そうかな」

 僕は恐らく微妙に困ったような表情をしていたと思うが、袋小路さんは何でもないことのように話していた。


「それと、未舗装の林道だと、スタンディングで乗った方が、下からの突き上げをいなしやすくなるよ」

「なるほど。立ち乗りってことですね。今度、やってみます」


 結局、お互いがお互いのバイクを懸命に吹きながら、そんな会話をしていた。


 改めて、僕は西部さんに言われたことを思い出していた。


―君がこれからバイク以上の存在にならないと、君の恋は実らない―


 彼女はそう告げた。

 それはある意味、真意かもしれない、と思うのだった。


 ある意味、「バイクが恋人」というくらいには、彼女、袋小路亜里沙はバイクにハマっていたのだ。


 年頃の女性にしては、奇特で、相当に変わっているが、少なくとも僕の目から見る「バイクに乗る彼女」はとても魅力的には映るのだった。


 夏が始まろうとしていた。

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