8 一瞬の戦い
「敵兵…ではないな」
ナーリアはアティスト共和国の兵士が着ている服装でないことを確認し疑問が生じる。
「お前は誰だ?」
その場の全員がそう思った。白い仮面を着けているため相手の素性が分からないのも一つの原因だ。だがアティスト共和国の兵だと思わせないために服装を変えているのかもしれない。そうとも思ったナーリアは考え始めてから一秒ほどで襲う。
「消えろ」
鋭い細剣に魔法を付与させ白い仮面の男を斬る。
「っな!」
ナーリアは驚いた。白い仮面の男が降伏したからだ。地面に膝を立て両手を挙げている。
「なぜ降伏する」
「私はあなた方を襲いにきたのではありません。ただリニア様にある言葉を伝えにきただけです」
「ある言葉?それなら伝達を使えばいい」
ナーリアは白い仮面の男の喉元に細剣を構えながら尋問する。
「伝達だと時間がかかるので少々リスクが生じますが侵入という形で伝えにきました」
「そこまで伝えたいのか?」
「はい」
ナーリアは騎士団長が頷く姿を見た後白い仮面の男に自分の正体を話すように促す。
「私はただの兵士ですよ」
「ただの兵士が守護魔獣を倒せるはずがない。隠すな。殺すぞ」
「…分かりました。ではもう私自身が直接伝えるということは致しません。その代わり伝えてくれないでしょうか?この言葉を」
白い仮面の男はこれ以上目の前の女と話してはいけないと判断し半ば強引にこの場を切り抜けることにした。
「”黒き花は舞い散る”」
「……何を言っている。バカにしてるのか?そんな言葉が今この状況で必要だと?聞いた私がバカだった」
ナーリアを含む六人全員が気落ちした。どんな伝言が言い渡されるのか期待したところ意味が分からない言葉だ。
「ナーリアもう構うな。
白い仮面の男よ。邪魔だ。どこかに行ってくれ」
ナーリアは舌打ちをした後イラつきながら後ろを向きテントへと帰る。
「じゃあこうしませんか?ーーナーリアさんと私で勝負して、私が勝ったら伝言を伝えてください」
「……は?」
後ろを向き歩いていたナーリアが振り返る。それと同時にナーリアより先にいた五人も振り返り、面白くなってきたと笑う者や沈黙を貫く者の二手に別れる。
「ガハハハ!!まさか戦闘狂のナーリアに戦いを挑むとはな!いいぞ小僧!面白そうだ!」
「…黙れクソダルジ」
大笑いしているダルジにナーリアは怒りを露わにする。
「あなたの武器は剣ですよね?実は私も剣が自慢の武器でして、せっかくですので剣対決といきましょう!」
「ガハハハ!!煽るじゃねえか小僧!仕方ねえ俺が審判になってやるよ!」
ダルジは白い仮面の男とナーリアの間に入る。
「白い仮面の男よ、後悔するがいい。五人の隊長の中でも力だけなら一、二を争うナーリアに戦いを申し出たことを」
「ご心配していただきありがとうございます。まあ…”負けないと思いますけど”」
ナーリアの怒りは沸点に達した。
「あ?なんだってナーリア?」
「…始めろ」
「あ?」
「今すぐ始めろって言ってんだよ!!」
「はいはい……よ〜〜い。。始め!!」
この場にいる全員がナーリアが勝つと思っている。リニア王国の天才剣士ナーリア。遠国の最強騎士の一人である者に育てられた実績を持ち、数多の強者を倒してきた。そんなナーリアが負けるだなんてナーリアの負けを望んでいるダルジでさえ思わなかった。
しかしダルジが瞬きした後、ナーリアは倒れていた。
ダルジには何が起きたかが分からなかった。分からなかった衝撃よりもナーリアが負けたという事実の衝撃の方が大きい。
ナーリアが負けた?
数秒たち、ようやく状況を理解できたダルジは冷や汗をかいた。さっきまで小僧に見えてた白い仮面の男が今、リニアと並ぶ強者と感じ取ったからだ。
死、恐怖の感情がダルジを襲った。
ーーすごいな。
騎士団長である”ギリアス”は驚きよりも先にその言葉が出た。一見ものすごい速さでナーリアを倒したかのように思える所業だが実は違う。ナーリアのものすごく速い剣撃を交わし剣の柄で首裏の神経を突き気絶させたのだ。
これほどの所業ができるとは。どこかの国の剣士か?
「お見事。素晴らしい。
では早速伝言をリニア様に伝えるとしよう」
「待てよ騎士団長!こいつは絶対不正をした!だってそうだろ!?ナーリアがこんな簡単に負けるわけがない!」
「そう思うのも仕方ないバルベド。だがナーリアは負けた。」
この場で唯一冷静を保てているのはギリアスと白い仮面の男の二人だけ。
「伝言の内容は”黒き花は舞い散る”でよかったか?」
「ええ、ありがとうございます」
ギリアスは隊長たちにテントに戻るよう指示を出し最後に白い仮面の男に聞いた。
「何者だ?」
白い仮面の男は数秒ほど沈黙をした末こう答える。
「ただの兵士です」
「…そうか。あくまでも自分の素性を隠すのか。ならせめてその白い仮面を取ってくれないか?顔は覚えておきたい」
白い仮面の男は仮面を外し、自分の顔を見せる。
「ありがとう」
ギリアスはまるで何事もなかったかのように帰っていった。