6 荒れ狂う大地
「着いたぞ。ここが戦場だ」
王都から約三時間ほどで戦場の野営地に着いた。王都はリニア王国の右側に位置するため戦場である国境線のこの地、グルラ平原はさほど遠くない。
「幸いまだ朝が早いからかまだ戦ってはいないが…この有様か」
野営地にいるほとんどの者が怪我をしており当たり前のように顔に笑顔がない。
「ゲイル小隊長帰ってきたのですね!」
「ああ今帰ってきた。
戦争の状況は?」
「はい。ゲイル小隊長がいなくなって十日ほどありましたがこの十日間では特に変わった戦況はありません。相変わらず我が国が劣勢のままです」
野営地を見れば確かに分かる。この野営地には多数の負傷者がおり活気がない。
「そうか分かった。報告ありがとう」
隊員が走り去るとゲイルはリニア王国の戦況を説明し始めた。
「もちろんだが我が国の兵士たちはこの野営地にいる奴らだけではない。野営地は一定間隔に位置している。そしてそれぞれの野営地がAランク以上の冒険者共によって統治されている。例えばこの野営地は第八野営地であり、統治しているのは”双剣のアリエア”だ。かなり不思議な奴だから気をつけろよ。お前もこの野営地にいる分会うことがあるだろう。
そして今の状況は”待ち”だ。我が国の戦力は敵国のアティスト共和国と比べて差がある。もちろん俺たちが下だ。アティスト共和国の戦い方は多種多様だ。未だに誰が指揮をとっているのかは分からないが厄介な戦い方をしてくる。例えば魔法でトラップを仕掛けたり、そのまままるで自分の命が惜しくないかのように突っ込んでもくる。だが一番厄介なのはやはりアティスト共和国が錬金する”魔導具”による戦術だ。
どうやらアティスト共和国は催眠ガスが発生するものや強力な力を繰り出せる魔導具なんかがある。崖っぷちで我が国もリニア様の魔獣によって催眠ガスを防いだり強力な力の盾になってくれたりする魔獣などで抵抗しているがそろそろ限界を迎えるだろう。アティスト共和国の戦力は減っていないが我が国の戦力はもう時期底をつく……正直勝てる確率の方が少ない」
リニア王国は魔獣や冒険者などの特徴のある戦力を有するがそれはアティスト共和国も同じ。錬金して造った武器や魔導具などを上手く使って戦力にする。しかし向こうの武器は道具に対してリニア王国は命が武器となる。道具と命、どちらの方が大切なのかは明らかだろう。
「今、リニア様はどこにいる?」
「リニア様は第一野営地にいる。だが会うことはない。リニア様は位が高くこの戦争の中心人物のためある程度の地位のものでなければ会えない。どうしても何か伝えたい場合は伝達になる」
「そうか」
俺は別にリニア王国の敵国であるアティスト共和国に負けて欲しくない。しかし理由も分からないまま攻めてきたことに関しては罰を下す必要がある。
「カイン。これからお前は俺の隊に入ってもらうことになるからーーー」
『『敵襲!!敵が攻めてきたぞ!!』』
一人の偵察部隊の者が大声でそう口に出すと、静まり返っていた野営地の雰囲気が恐怖に変わった。
「やるぞ…やるんだ」
「大丈夫大丈夫大丈夫だ」
「俺ならできる」
各地から声が聞こえる。恐怖と絶望の声が。
この声を聞いて俺はリニア王国の負けを確信した。あまりにも士気がないからだ。戦争というのは士気があって勝利を手に取れるもの。しかし士気がなければ必ず負ける。その士気を向上させるためにはこの第八野営地の統治者が声を荒げる必要があるのだが…どうやら声を荒げるどころか姿がない。
「クソッ!こんな重要な時にアリエアはどこ行ってんだよ!!
聞け!焦るな!今すぐ戦場に出て陣形を組め!敵が来るまでまだ時間はある!」
この状況をまずいと思ったのか、ゲイルは大声で周りの者を冷静に指示するが指示に従っている連中は相変わらず恐怖に堕ちている。
「まずは冷静さを取り戻すんだ!!おいカムイ…あ?、、おい!おいカムイどこだ!ギルとギラ、カムイを知らねえか?」
二人とも首を横にふる。
「クソッ!あいつ一体どこに」
今どうやらゲイルは俺のことを探しているようだが俺はその場にはいない。すまないな、俺は戦争を止める必要があるんだ。そのためには最善の方法を取るしかない。
今日でここグルラ平原はアティスト共和国の手に陥るだろう。なぜなら敵国であるアティスト共和国の兵は”人”ではないから。
相変わらずすごいことをするな”アルキメデス”。身長も顔もそれぞれバラバラで細かいところにも気を遣っている。これほどの人形兵を作るとは腕を上げたな?おかげでリニア王国側は誰一人としてこの真実に気づいてないよ。
だがな、ちょっとやりすぎだ。
第八野営地の森にいた人形兵を鑑定したら人殺ししかプロンクトが組み込まれていない。この人形兵は元々は自分の身を守るために作ったよな?でもいつの間にか人形兵が殺人兵に変わっている。
なんでだ?なんでそんなことをした?
小山の頂で戦場を眺めている俺は嘆く。