4 現状
「着いたぞ。ここがリニア王国最南の村、べルージュ村だ」
文明が発展している…とは正直思わない風貌だ。確かに家の作りなどは頑丈になっているとは思うが十年前に存在していたとしてもおかしくない。しかしここは最南の村だ。王都から離れている分発展していなくとも不思議じゃない。
そして何より十年前にはなかった仕組みが導入されている。
それはリニアの能力である”魔獣使役が活用されているということ。
どういうことなのかというと村のあちこちに魔獣がいるのだ。この魔獣たちはリニアの魔獣使役の効果によって人間に攻撃することない。逆に人間を手伝う働きをしている。
「ブール!これを運んでくれ」
「ブオオオオ!」
人間と魔獣の良好な関係を見ているとゲイルが嬉しそうに話しかけてくる。
「どうだ?これがリニア様の力だ」
「すごいな。
かつて世界を半壊させた魔獣たちがリニア様の手によって人間と協力している」
厄災が終わった今でも世界は魔獣で溢れている。その理由は魔獣同士で繁殖し合っているからでもあるが何よりの要因は魔獣増殖場。これは天から与えられたものであり、魔獣が不定期に発生する場所のことを指す。未だに魔獣の増殖を阻止する方法はないが対処法はいくつか存在している。
魔獣を使った社会福祉がリニア王国の特徴なのだろう。
「これから魔獣に乗って王都へ行く。だが時間がないから速い奴で行くぞ。大丈夫か?」
「辺境の地まで船を漕いだ者ですよ?」
「確かにな。心配は無用だったか」
ゲイルは近くの村人を呼び付けこの村で一、二番目に速い魔獣を出させた。
「おおワイバーンか!空を飛べるなら1日もかからないぞ」
ワイバーン…戦闘時にはめんどくさい奴だ。あの自慢の羽でどこまでも飛ぶからな。おかげで補助魔法が全く備わっていない俺は大変だった。
「それじゃあギルとギラ、そして俺とカムイで分かれよう」
小型のワイバーンのため背中に乗るのは簡単だ。背中はやはり凹凸があり昔乗ったことを思い出す。
俺たちがすぐさま乗るとゲイルは指示を出し早くもべルージュ村を去ることになった。
戦争時だからもっと活気がないと思っていたが案外大丈夫じゃないか。
そう思っていた俺だが、王都に着くと現実を見ることになる。
〜〜王都〜〜
「さあここが王都だ。半日かからずに着いたな。さすがワイバーンだ……どうだ?べルージュ村との差は」
正門を通る前で少し不穏な雰囲気が漂っていたが王都内は凄まじかった。市民は誰一人として笑っていなくほとんどの者が涙を流している。市民と市民との助け合いなどなく、一人一人が孤立している。
「これが戦争の現実だ。
さっきのべルージュ村は誰一人として”武器”を持っていなかったからあんなに笑顔なんだ。
見ろこの景色を。。最悪だろ。大人の男だけが戦場へと要請されるがほとんどの者が家族を持っている。その家族を失った者の心の傷はこの上なく大きいだろう」
かつて俺たちは世界を救ったはずだった。俺は英雄となった。しかし現実はこれだ。結局こうなるじゃないか。何が英雄だ何が十星王だ。。俺もお前らもクソ野郎だ。
止めてやる。仲間がなんだ?仲間だから贔屓なんてしない。戦争を起こしたクソ野郎どものことなんて知らない。もしかしたら事情があるのかもしれない。だがそれがなんだ?自分たちの勝手な事情で人々を苦しめていいのか?
俺の手はいつの間にか赤い液が流れていた。
「…カムイ。すまないがお前もこの国の国民となった以上戦争に出てもらう。覚悟はーー」
「見させてくれ」
「…何をだ?」
「人々をこんなに苦しめる戦争をこの目で見させてくれ」
「そ、そうか。。おいお前大丈夫か?手から血が出てるぞ」
「大丈夫だ。
ただ悔しいだけだから」
俺たちはその後、戦争の準備をするため各家に戻った。俺は家がないためゲイルのところにお邪魔する。
国直属の兵士だからか、かなり良い家に住んでいる。
「そういえば、今の世界は文明や技術が発展していると言っていたが正直全く感じない。確かに十年前よりは建物が高くなったり魔獣を使ったりと変わってきてはいるが」
「そんなことを口に出して言えるのはここリニア王国だけだ。お前はこの国しか知らないからな。隣国のアティスト王国とこの国では天地の差がある」
まあ予想はしていた。あのリニアに国をまとめるイロハが備わっているわけない。
「貿易とかはしないのか?他国の代物が入ってさえいればもっと豊かになると思う」
「まあ妥当だな。だがな、今もだが国一つ一つの個性ってものがある。その個性を今の時代は大切にしてるんだ。特に戦争が始まる前はこの国は人気だった。魔獣と共存しているからな」
おそらくゲイルも貿易はしたいだろう。しかし今は新時代になって初の戦争。他国も余裕はなく同盟を組んでいないから貿易はしないというわけか。ましてや一番貿易がしやすい隣国と戦争真っ最中、貿易をしないじゃなくてできないんだな。
「ま、そういったことが重なってこの国は劣勢なのさ」
「そうか」