2 世界で起きていること
腰が抜けた。それは驚きに対する表現ではなく実際にだ。
今世界で起きていることは俺の想像を超えるもの。
起きてはいけないことが起こっているのだ。
「戦争…ですか?」
初めの頃は厄災に対する興味心でのみ挑んでいたが、厄災を倒すたびに人々から感謝を述べられ涙を流される間にいつしか俺の厄災を倒す目的は人々を助けることになっていた。
辺境の地で過ごしていた間もあの時の感謝と涙は忘れたことがなかった。
そして正直戦争よりも驚いていることがある。
ーー今、この世界は英雄の仲間である十星王がそれぞれ一つの国を統治している。
十星王…ある時俺は厄災の恐度が徐々に上がっていることに気づき、このまま一人で対処できないと判断し、世界中から最も才能のある者を仲間にし、育て上げた十人の総称。
ある時、十星王は強くなりすぎたがためにまるで神として崇められていた。
まさか仲間が国王になっているとは……つまり戦争を仕掛けたのもあいつらだってことだ。
何が原因で戦争を仕掛けたのかはわからないが、俺は修行中に痛いほど”人を敬え”と教えた。
まさかあいつらも忘れたわけではないだろう。
「まあそういうことだ。
すまん大まかすぎたか?俺たちは頭が悪くてな。このぐらいしか説明できん」
「いえ十分です。ありがとうございます」
戦争…仲間…王。
クッソ、頭が混乱している。
この十年で厄災が起きる前よりも文明や技術が発展し、世界は栄えたが近日戦争が始まったと。そして戦争が始まった要因は未だ不明。
つまり、この黒服は文明が戻った…いや発展したことにより装着し、武器は技術が発展したことにより発明され、新しい国が出来たことにより国王が生まれたと。。そしてその王たちが俺の仲間。
そして”戦争”を仕掛けた。
「………」
俺は両手に力を入れ、血管がくっきりと浮き出る。
クソッ…この戦争はまるで俺が生み出したものじゃないか。また俺は悲劇を重ねるのか?
いや、もう悲劇は飽きた。
俺は逃げない。俺は自分とその出来事に立ち向かう。
「すみません、もしよければ私をあなたたちの国に連れて行ってくれませんか?」
「元よりそのつもりだ」
「ありがとうございます。
ちなみにあなたたちの王の名前は…」
「俺たちの国は十星王序列十位”魔獣王リニア”様が統治るリニア王国の者だ」
リニア…
「おそらくですが、リニア王国は他の九つの国より劣っているんじゃないのですか?」
「……そうだ。なぜそれを?」
「十星王は有名ですから各々の性格ぐらい誰でも分かりますよ」
リニアは十星王の中で一番活発でお調子者の性格だ。
場を和ませるその性格はどこを取っても一国の王の器ではない。
現に今、リニア王国は最も劣勢だ。
「我らリニア王国は、文明や技術など何もかも他国より劣っている。しかし、その劣りをまるでなかったかのようにするのがリニア様の力、魔獣を支配する魔獣王の力だ」
逆に考えると力だけが取り柄になる。
俺がなぜリニアを序列十位にしたかというと、圧倒的な一方通行だからだ。
リニアは端的に言うと”力”しかない。
力だけの勝負なら他の十星王の者にも勝てると思うが、総合的に見ると最下位だ。
もちろんその強力な力は自国に多大な影響をもたらすが、文明や技術の発達という点では他の国より一歩二歩遅れてる。
もし戦争が悪化したら最初に滅びるのがリニア王国だろう。
「そうですか。
ところで、私はリニア王国で何をすれば良いのですか?」
「お前はまだ”青年”だから戦争には参加しなくていい。もし他国が我がリニア王国に攻めて来た時に対処できるよう訓練をしておく必要がある。衣食住は俺の家だ。構わないな?」
「もちろんです…ところで、、私三十歳なんですが…」
男は眉間に皺を寄せよく確認するように睨み、首を横に振る。
「な訳ないだろ。何冗談を言ってるんだ。
俺が二十八なんだ。お前が俺より年上なわけがないだろ?俺の顔と自分の顔をよく見てみろよ。お前のフサフサした髪が羨ましいよ」
男はスキンヘッドであり肌がお世辞にも綺麗とは言い難く、どこか四十代の風貌を感じる。
「いや…二十八に……見えます」
「フッ、別に老け顔は気にしてねえよ。
それより、本当に三十なのか?」
「はい、冗談じゃないです」
男の眼を真っ直ぐ見つめたら意思が伝わったのか驚きの表情を見せ頭を掻く。
「マジかよ、敬った方がいいか?」
「いえ、そのままの方が安心します」
「じゃあせめて普通に話してくれ」
「…これでいいか?」
「なんか生意気に見えるがまあいい。
さあ船に乗れ」
話がまとまり船へと向かう。少しの縁しかないが十年過ごしたこの地に別れの挨拶をして最後に花に水を注ぐ。
船は小型船で、木製ではなく木と同じ質量であり木よりも頑丈な石?みたいなのが使われている。
「さあ乗れ。我が国、リニア王国へ向かうぞ。
準備はいいか?」
「ああ。いつでも出発してくれ」
戦争を終わらせる。
俺が始めた物語は自分で完結させる。
じゃないと、この物語は俺が望まない結末になるから。
十年ぶりに握った剣は重く、柄は乾燥している。