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9 救世主の自覚

ジャケットを購入して家へと帰ると、早速、タグを切り、自室のクローゼットに掛けた。新しい服を手に入れると、不思議と気分が高揚する。まるで、新しい自分に生まれ変わったような、錯覚を覚える。


『これで仮に東京に呼ばれたとしてもOKだな……』


独り言のように呟く。東京に呼ばれることなど、現実にはありえないだろう。これは、ただの妄想なのだから。


『うふふ、一緒に選んで上げたんだから大切にしてね!』


香月さんの嬉しそうな声が脳内に響く。まるで、隣で見守ってくれているようだ。僕は素直に『うん』と簡潔に答える**。香月さんが幻聴とはいえ、一緒に選んでくれたジャケットだと思うと愛着が湧いた**。そして香月さんとの距離が少しだけ縮まった気がしていた。正直に言って**、僕は嬉しかった。これが幻聴なのだとしても、久々に出来た彼女のようでとても幸せだった。この時間がもっと長く続けばいいと願って**しまう。


『どうしよっか? このあと』


香月さんが僕に聞いてくる。次の話題を探しているようだ。


『亜翠さんは今日は仕事なんだよね。他のみんなはどうなんだろ?』


『さぁ……どうだろ、おーい操ー』


香月さんが矢張さんに声を掛けると、すぐに返事が来た。


『しー! 仕事中です!』


小さな子どもに言い聞かせるかのように矢張さんが言う**。仕事熱心な彼女らしい反応だ。


『そっか、ごめんごめん……。じゃありつひー?』


『私は今日は休みですけど、なんですか?』


『おぉ、りつひーはいるんだね。矢那尾さんはいるかな?』


『昨日帰り際に、明日も仕事だってぼやいてましたよ』


『そっか。じゃあ話しかけないほうが無難**だね』


『ですね……ところで香月さん、小日向さんが救世主だって話……私なりに考えてみたんですけど、もしそうだったなら私達ってなんなんですかね?』


りつひーは自然と湧いて出たらしい疑問を口にする。核心を突く質問**だ。


『なにって……運命の相手って言うか、たっくんハーレムって言うか……じゃない?』


香月さんは冗談めかして答えるが、りつひーは真剣な表情のままだ。


『ハーレムですか……? 本当に一人に対して8人必要だなんて話あるんですかね? 私は運命の相手って居ても一人だと思うんですけどね』


『まぁそれはレヴォルディオン的な話だから……それに熊総理にだってテレパシーは通じたんだし、必ずしもみんなが特別ってわけじゃない**のかもだよ』


僕は苦し紛れにそう指摘すると、香月さんが『そうかな? 私は運命の相手って一人か8人かは分からないけど、たっくんが運命の相手って割と信じられるかな』と意外な感想を口にする。


『え? そうなんですか?』


りつひーが意外そうに疑問を口にする。彼女にとって、香月さんが僕を運命の相手だと認めること自体が驚きなのだろう。


『うん……まぁ、なんとなく、ね!』


『意外……』


『そうかな?』


『そうですよ。だって香月さんっていつもは男を見る目かなり厳し目じゃないですか』


『えーそうかな? それはりつひーも同じじゃない?』


『まぁ、それは否定しませんけど……。それにしたって小日向さんは中卒ニートなわけだし、厳しい目で見ちゃうものじゃないですかね、社会的には』


りつひーは冷静に僕の社会的地位の低さを指摘する。言葉は丁寧だが、容赦がない。胸がチクリと痛む。僕は縮こまってしまいそうだった。だからそんな気持ちを紛らわせる為に、豪快にベッドに倒れ込んだ**。


『まぁまぁ、それはそれこれはこれ……それにテレパシーはあるじゃん?』


香月さんは明るく、強引に話題を変えようとする。


『それはまぁ、はい』


りつひーも渋々ながら同意する。


『だからたっくんには量子脳なのか救世主なのかよく分かんないけど、とにかく特別な力がありそうってことだけは認めてあげようよ』


『それは確かにそうですけど……あ、マネージャーから連絡だ……。え……? 香月さん! 私、明日、政府の会議に出ろって話になったらしいですけど、香月さんは?』


りつひーは突然、現実に引き戻されたように言った。仕事の連絡だろうか。


『えぇ!? 本当に!? 私にはそんな連絡全然来てないけど……って言ってる傍から電話だ! はい、もしもし!』


香月さんは電話を始めたようだ。どうやら、幻聴の方では着実に問題が進展しているらしい。政府の会議? 一体、何の会議だろうか?


しかし当の僕には何の連絡もない。やはり、幻聴なのだろう。もしくは別の世界の亜翠さんや香月さん達と繋がっているのかもしれないし、宇宙人から攻撃を受けて遊ばれているのかもしれないという可能性もいまだに頭の隅にあった。


『たっくん! 私も明日の会議に出ろってさ! たっくんには連絡来てないの!?』


電話を終えたのか、香月さんが興奮気味に僕に問う。


『全然全く、音沙汰なしだけど……』


とは言え、僕はスマホを持ってないし、家の固定電話は処分してしまっているので、連絡があるとすれば母のスマホのはずだ。しかし母からは何も言われていない。


『熊総理に聞いてみよ!』


香月さんが名案だとばかりに言い、僕は言われるがまま、熊総理を会話の輪にいれるように念じた。果たして、熊総理は何を語るのだろうか?期待と不安が胸の奥で渦巻いた。

タイトル:救世主の自覚

でも、どこで何の自覚をしたっていうんですかね?AIさん!

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