7 現実との接続
どうやら熊総理と電話で連絡が取れたらしい亜翠さんを置いてけぼりにして、他の4人は僕と話しながら鍋をつついているらしい。現実と妄想の境界線が曖昧なまま、奇妙な連帯感が僕達の間に生まれ始めていた。
『たっくんってニートだって聞いてたけど実は頭良いの?』
香月さんが、少し、気まずそうに聞いてくる。直接的な質問は珍しい。
『さぁ……それはどうかな。個人的には合ってると思ってるけど、さっきの話だってそこまでの自信はないですよ』
ここに集まっているみんなは亜翠さんを除き、とても良い大学を出ていたはずだ。りつひーに関しては噂程度だったけど、香月さんと矢張さん、矢那尾さんの3人は、超高学歴で間違いがない。対して、俺は高校中退のニートだ。そんなやつが地球寒冷化理論を語ったところで、殆どの人は信じたりしないだろう。
『じゃあさIQっていくつかわかる?』
香月さんは容赦なく、核心に迫る質問を重ねてくる**。
『あぁうん。病院で検査したのだと108~115くらい。ネットでやるのだと115~130くらいまででマチマチかな。どっちにせよ、高IQ集団には入れない感じです』
僕は正直に答えた。IQの数値は、僕の能力を測る****一つの指標に過ぎない。しかし、世間一般では**、学歴や職歴と同様に、人を評価する基準として用いられることも事実だ。
僕は高校を過ぎた頃からは何をやっても駄目だった。それ故か、26歳のときに声優の夢を一度諦めた時に、発達障害を疑って専門医を受診した。結果として、診断結果は混合型ADHDということだった。混合型というのは不注意と多動や衝動性の両方を併せ持っているということらしい。処理速度は障害者ギリギリ手前のような値で、他の項目が高いことで全体のIQを底上げしていた。端的に言えば、頭の回転はそこそこ速いが絶望的にトロいのである。その結果を盾に、健常者には絶対に処方されない、メチルフェニデート徐放剤を処方されて服用している。2ヶ月に一度医者にも掛かっていた。しかし、僕は今ではその薬が原因で統合失調症を発症した可能性を考えていた。薬を服用するのを中断したほうがいい**かもしれない。
『へーそうなんだ。私もネットのは130くらいかなぁ? 高IQ集団は130以上が安定して出せないと入れないんだっけ? まぁ、余り興味ないけど』
香月さんはさらりと自身のIQを口にする。自慢げな様子は微塵も感じられない。
『うん、確かそうですね。てか香月さんIQ高いんだー。やっぱり声優さんはIQ高い人多そうですよね』
僕がそう言うと、今まで黙って聞いていたらしいりつひーが遠慮がちに喋り始める。
『小日向さんのIQもそこまで高いってわけじゃないし、高校中退のニートだし、やっぱり地球寒冷化なんてしないんじゃないですか? 確かにテレパシーは出来てるって思うけど……でもそれとこれとは別な気**もします』
りつひーは冷静に実情を指摘する。言葉は丁寧だが、容赦がない。まぁ僕も正直言ってそう思う。それにこれもテレパシーではなくてただの幻聴なのだろう。
僕がそう考えていると、矢那尾さんが慌てたように声を上げた。
『でも……りつひちゃん。小日向さんの寒冷化理論、今考えてたんだけどたぶん銀河宇宙線が多くなると地震や火山活動が活発になるらしいってところ以外は結構的を射てるように思う**んだよね……私だけかな?』
科学に興味があるらしい矢那尾さんが、専門的な視点から所見を述べる。
『さぁ……私にはなんとも……。ただ一番の肝であるその銀河宇宙線ってのが、地震や噴火を誘発しないんだったなら大前提が崩れません?』
『それはまぁそう思うけど……』
りつひーと矢那尾さんが僕の寒冷化理論について議論していると、矢張さんが『まぁそれはそれとして! テレパシーは出来てるんだから、たっくんには何かあるって私は思うな』と優しい声で僕を擁護**してくれる。
そんな話をしていると、亜翠さんが熊総理との電話を終えたようで会話に入ってくる。
『たっくん。それなりに状況説明はしておいた。熊総理は専門家を交えて一度検討してみる**ってさ』
『そうですか……まぁそうおいそれとは政府は動いたりはしないですよね』
僕は最初から期待などしていなかったので、落胆はなかった。むしろ、予想通りの展開に、内心、安堵していた。
『でも、もしかしたらたっくんに東京へ来てもらうことになるかもって言ってたよ』
亜翠さんの言葉に、心臓が跳ね上がる。東京? マジか?
『えぇ……外出ですか。俺最近太っちゃったんで、着れる冬用アウターが寒冷地用のがっつりダウンジャケットしかないですよ……』
動揺を隠せず、情けない言い訳を口走る**。すると、香月さんが驚きの声を上げる。
『えぇ、そうなの!? じゃあ買いに行ったらいいじゃん! 明日お母さん休みじゃないの?』
『いや、さすがに土日は休みだと思いますけど』
『じゃあいいじゃん。車の運転出来る?』
『はい。それはまぁ』
『おぉ! じゃあ、上着買いに行きなよ!』
香月さんはあっけらかんと言う。まるで、当然のことのように。しかし、彼女の言葉には、不思議な説得力があった。僕は言われるがまま、上着を買いに行くことに決めた。まさか、この買い物が、僕の運命を大きく変える一歩になるとは、この時の僕**は、まだ****知る由もなかった。
主人公の心情がちょくちょく追加されてるけど、これ本当に必要?
あとジャケットの買い物でなにか変わるんですよね!? 期待してますよAIさん。