4 新たな仲間たち
『なに? 桜屋さんに何か思うことでもあるの?』
亜翠さんが、僕の心を見透かすかのように聞いてくる。
『いやぁ、年齢が離れすぎじゃないかなって』
正直な気持ちを吐露する。
『そうかな? えっとたっくんが今年で31でしょ? 私が今年の3月で26だからりつひーも今年の1月で24歳かな?』
りつひーの誕生日まで把握しているらしい香月さんが計算する。
『そっかー、じゃあやめとく? 私も桜屋さんは年が結構離れてるかなぁって思うしまとめられるか不安だよー』
亜翠さんが感想を漏らし、しかし香月さんが黙ってはいなかった。
『いいじゃん。その場合は私と操とでりつひーとのコミュニケーションは上手くやりますよ。私はりつひー呼んでみたいなぁ』
香月さんが強弁するので、『俺もりつひーの顔は好きですけどね』と援護射撃のようなことをする。
『顔だけ? あとりつひーって言ったら胸でしょ胸』
と香月さんがニヤニヤしながら指摘してくる。僕はそれに『う……まぁ確かに』と曖昧に答えると、矢張さんが『確かに立日ちゃんは大きいよねぇ』とほんわかと言った。
そうして今日の会話はお開きになり、明日また矢那尾さんと桜屋さんの二人を連れてくることになった。
次の日。
夜9時を過ぎた頃、僕は亜翠さんにコンタクトを取った。
『亜翠さん、聞こえますか?』
『うん、聞こえてるよー。ちょうどいま全員揃って鍋始めたとこ! てか5人も集まると私の部屋も手狭になってきたなぁ』
亜翠さんが感慨深そうにそう言い、香月さんが『さぁ! 矢那尾さんもりつひーもいるから始めよっか!』とテレパシーの開始を宣告した。
『はい。矢那尾さんとりつひーにも届くかは分からないけど……』
僕はそう心のなかで言いながら、5人全員に聞こえるように念じ始めた。
『矢那尾さん、りつひー、聞こえますか?』
数秒の沈黙の後、二つの声が重なって返ってきた。
『え? なんですか?』
『え!? なに!?』
矢那尾纏女さんと桜屋立日さん。二人とも、戸惑いと驚きを隠せない様子だった。
『おー成功っぽい』
香月さんが嬉しそうに感想を述べると、『え?! 香月さん!?』とりつひーが混乱した様子だ。
『はい。いまから現実でも話しかけるので、驚かないでくださいね』
と矢張さんが優しく言い、5人にとっての現実での説明タイムに突入した。
「まぁ現実って言ってもたぶん俺の幻聴なんだよなぁ……」
そもそも、これだけの人気声優5人が夜とはいえスケジュールを合わせられるということが稀だろう。それも亜翠さんの家に全員集まっているというのだから驚きだ。というか全部俺の妄想なんだろう。それにしても出来が良すぎる妄想だったが、僕は5人の人となりで知っているのはラジオを数度聞いただけの矢張さんのみだ。その矢張さんの喋り方や人となりは再現が完璧なように思えたが、他の4人に関しては人格の再現が適当なのかもしれない。
しかし声に関しては、素の喋りを知らない香月さん以外はアニメやゲームでの声に似ていて完璧な再現度だ。香月さんはアニメで聞いたことのある声よりも遥かに低音の飾らない音で喋っている。
『はいはーい。二人に説明終わったから、自己紹介していいよたっくん』
亜翠さんの合図で、僕は改めて自己紹介をすることにした。
『では改めて、小日向拓也と言います。どうぞよろしく**』
僕がそう自己紹介すると、矢那尾さんが『どうもハジメマシテ! 矢那尾纏女です! これでいいかな?』と元気よく挨拶してくれた。
続いてりつひーが『どうも、桜屋立日です。テレパシーって本当にできるんですかね?』と半信半疑な様子で言った。
『出来てるよ! 二人共よろしく!!』
と僕が言うと、二人は再度『よろしくお願いします……』と返してくれた。
矢那尾纏女さんは矢張操さん同様にヒロインヒロインした声をしている超人気女性声優さんだ。代表作は【神が知る世界**】などで、これまた矢張さん同様に歌がとても上手い。そしてりつひーこと桜屋立日さんは、日本人離れしたすっとした綺麗な顔立ちと抜群のプロポーションで有名な新人声優さんだ。代表作は【私達のヒーロー】などだ。
『え? これって凄くないです?』
りつひーが驚きを確認するように言い、亜翠さんが『そうだねぇ』と納得するように言う。
『そういえばたっくん。私達以外には話しかけたことないの?』
香月さんが質問してきた。
『ないかな? みんなとも常時話してるってわけでもないし、いつも話し始めるときは亜翠さんに確認**取ってからだったしなぁ』
僕がそう答えると、矢張さんが『そうなんですね……。私達が特別って思ってましたけど、実はそうじゃなくて誰にでもテレパシーが通じるのかもしれませんね**?』と他の人にテレパシーが通じる可能性を指摘**する。
『じゃあやってみようよ! まずは熊新造総理大臣からね!』
と香月さんが言い、僕は『分かったー』と気軽に答えた。そして念じ始める。熊新造総理の国会などでの話す姿や声を想像しつつ、『熊総理……聞こえますか?』と話しかけた**。
すると暫くして、『!? なんだ一体……!?』
と驚いた様子の熊総理の声が聞こえた**。
相変わらずのアスタリスク連発はどうしようもないですね。