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第4話

謁見を終え故郷の実家に帰ったハルディンは自室でのんびりとしながら昨日のブラウンシュバイク宰相が言っていたことを思い出す。


『勇者の剣についてだが王立研究所の者に急いで調べさせる。ハルディンはそれまで自己の鍛練と仲間集めに邁進されよ』


「邁進ねぇ……」


魔王から逃げ切り、国王陛下との謁見も済み、ついでに遺書を書き終えたハルディンはベッドの上から動きたくなかった。未来の世界では燃え尽き症候群と呼ばれるものに掛かっていた。


「なんもしたくねぇな」


そう独り言を呟いていると扉が叩かれる。この家には自分と父親のユルゲンしかいない。ユルゲンが扉の外から声を掛ける。


「ハルディン。なにやら外でお前に会いたい人達が沢山いるんだが……」


「俺に会いたい奴が沢山……?まぁ行ってくるよ」


ハルディンはベッドから起き上がると軽く身なりを整えて玄関から外に出る。するとユルゲンの言う通り沢山……10人ばかりの人が居た。


「おっ!ハルディンだ!」

「良く帰ってきたな!」

「会いたかったぜハルディン!」


「酒屋の女将さん!店長!みんな!」


その10人は故郷から出ていく際に見送りに来てくれた人達だった。ハルディンは懐かしさのあまりに目頭が熱くなる。


「おいおい皆揃ってわざわざ来てくれたのか!嬉しいな!」


「はっはっは!何せ約束を果たしてもらってないからな」


「……約束?」


「そうだよ。見送りの際に言ってただろ?生きて帰ったら今までツケといた借金は全て払うって」


「そうだっけ……そうだったかな」


「そうだよ」


ハルディンは記憶の糸を辿る。見送りの宴会。乾杯の時に皆に宣言していたことを思い出した。酔っぱらう前だったので辛うじて覚えていた。忘れたかった。


そういえば村からの見送りの際も生きて帰って借金返せとか言われてた気がする。別の意味で目頭が熱くなってきた。


そもそも魔王討伐なんて生きて帰れる確率がかなり低い。死人から取れるわけで無し。借金なんて踏み倒せれると踏んでいたので念頭にいれてなかった。


「そんなわけでハイ」


女将が手を差し出す。観念したハルディンは陛下から受け取った褒賞……金貨が詰まった袋を女将に渡した。数分後。袋一杯に詰められた金貨は銀貨数枚としてハルディンの手に戻ってきた。


残金の余りの少なさにハルディンは戸惑ったが返された借用書を見るとぼったくられたことは無かった。むしろ利子が無い分、良心的ともいえた。


「さてと……どうすっかな」


・・・


自室に戻ったハルディンはこれからのことに想いを馳せる。なにせ計画が大幅に変更されるのだ。考えなくてはならない。


そもそも当初の計画ではこの褒賞金を使って、自分がそうだったように酒場で仲間を雇う予定だった。これだけの金貨が有れば戦士1人と魔法使い1人は雇えるはずだった。


しかし……とハルディンは手元を見やる。銀貨5枚ではさすがに無理である。


こんなことならなんとか思い出して王都から帰る途中に馬車から抜けてくれば良かった。いや……親父がいるから少しキツイか……。


一応、勇者というネームバリューを利用して仲間を"無料"で勧誘するという方法もあるが身元情報が登録されている酒場と違い相手の情報が分からないので信用が足りない。命をやり取りする場でよく分からない奴に背中を預けたくない。


独りで戦うかと頭に浮かんだがすぐに首を横に振った。実際に戦ったからこそ分かるが魔王と1人で戦うのは自殺的であり、英雄願望が無いハルディンは無謀な賭けをするつもりは無かった。


となれば多少のリスクには目をつむるしかない。英雄願望の無料で来てくれそうな強い奴を探すしかない。それにはどうするか……ハルディンが思考の海に前頭葉を浮かべていた時に扉がノックされ意識を現実世界へと戻した。


「親父か、どうした?」


「そういえばハルディン。お前はいつ旅に行くんだ?」


まったく予定が立ってなかったハルディンは目を泳がせつつ曖昧に答える。


「そろそろ……かな」


「悪いが明日には出ていってくれ」


突然の追い出しにハルディンは目を点にする。


「……なぜ?」


「ほら。私はお前のお陰で再び貴族になれただろ。それによって王都に住めとお達しが来てな。ただ、急な話だから家が出来てなくてな。それまでは王宮に住めということだ」


「それと俺が家から追い出されるのに何の関係が有るんだ?」


「あぁ。それでな。宮仕えをするわけなんだがそれに必要な服やらなんやらの費用は自分で用意しないといけなくてな。それで必要ない家は売り払ってしまえ……ということだ」


「……」


「明日には業者が来るから……お前も旅の準備をしておけよ」


「お、おう」


そう言ってユルゲンは部屋から去っていった。足音が遠ざかり、聞こえなくなったタイミングでハルディンは深呼吸をする。そしてうつ伏せとなって枕に大声で叫んだ。


しかしこうなってしまってどうしようも無い……。ハルディンは少ない荷物をまとめつつ再び思考の海に前頭葉を沈めた。


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