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第3話

1メートル先はおろか足元も見えない真っ暗な空間に俺が1人で居る。おそらくここは俺の心の深層世界だろう。仲間も誰もいない空間で寂しさを覚えると肩の方から声がした。10センチ程の白い服を着た妖精のような存在が口を開く。


『ハルディン。聞こえますか?』


『お、お前は?』


『私はハルディンの心の中に住む天使です。ハルディン……本当にこれで良いのですか?仲間の死を盛るなんて良心が傷みませんか?』


『ぐぅ……』


『今からでも遅くは有りません。今すぐに真実を語るのです。確かに……あなたの思う通り少なからぬ非難を受けるでしょう。……しかしあなたの心は今よりもきっと晴れやかなものになるでしょう』


『確かにそうだな……分かった……言うよ』


ハルディンがそう言うと周りの暗闇が晴れ光が差し込む。ハルディンは晴々しさと暖かさを覚えるが直ぐに悪寒が走る。


『甘言に踊らされてはならぬぞハルディン』


『そ、その声は!』


『私はお前の心に住む悪魔だ。天使の戯れ言に耳を貸してはならん』


振り返るとハルディンの背丈の3倍は有るであろう真っ黒な悪魔があぐらをかいていた。先程までハルディンを覆っていた暗闇の正体である。


『悪魔め!あなたには良心というものがないのですか!話を盛ってはなりません!』


『悪魔にだって良心は存在する。ゆえに胸が少し痛むな』


『なら!!』


『それはそれ、これはこれ、だ』


悪魔が口から炎を吐くと天使は悲鳴すらあげる暇なく消滅した。


『悪魔が悪いことやって何が悪い!!ハルディンよ……これでもうお前を惑わす者は存在しない。民草だけでなく貴族や国王にも《伝説》を語るぞ』


『しかし悪魔……本当にこれで良いのか?こんなことリッテンハイムは望んでいないと思うんだ』


『馬鹿者!死んだ奴のことを考えてどうする!』


『ッ⁉』


『人生で本当に必要なものはなにか?それは自らの幸福だ。それに比べたらリッテンハイムの名誉なぞどうでもよいわ!』


『なっ⁉』


『そもそも嘘は言っていないのだろう。何を戸惑うことが有ろうか。仮にお前が真実を語ったところで勲章が減るわけでもない。言った所で意味など無いのだ』


『意味が無い……』


『そもそもリッテンハイムもオフレッサーもベーネミュンデも生き残ったお前の幸福を望んでいるだろう。アイツらは人の不幸を喜ぶ奴らじゃ無い』


『確かに……』


『ならば何をすべきか分かるはずだ』


『あぁ俺はこの《伝説》を語り続ける』


『それで良いのだ……では私は寝させてもらう』


そう言うと悪魔は横になり最初と同じように辺りが真っ暗になる。しかし違う点も存在する。最初は暗くて何も見えなかったが今では足元が見れるくらいに明るくなった所だ。


「―――――殿?ハルディン殿!着きましたよ!起きてください!」


「む……」


ハルディンが辺りを見ると馬車の内部が目に映る。


(なるほど。さっきのは夢か。内容はほとんど覚えていないが……まぁいい所詮は夢だ)


御者が扉を開けたのでハルディンは馬車から降りる。目の前に聳える王宮に圧倒され脈拍が早くなるが表情を変えない。


むしろ余裕があるかのように振る舞った。馬車から降りると馬車の扉のガラスの反射を利用し襟を正したり寝癖が無いか確かめる。


身嗜みを整えつつ早まった脈拍をも整えた。傍から見ればのんびりとしているように見えたので御者に急かされたが、『国王に謁見するんだ。汚い格好は出来んのよ』と言って黙らせた。


「さてと……行きますか」


ハルディンは足取り軽く歩きだした。時間を掛けたお陰で緊張は緩和されたがそれだけでは無い。何か巨大な存在が背中を押してくれているように思えたのだ。ハルディンはそれを勇者パーティーの仲間達だと思うことにした。


ここからは割りと楽だった。


王宮に入り幾つかの手続きを経て国王に跪き謁見したハルディンは吟遊詩人アルフレットと共に練った《伝説》を使者に語ったように国王と周りに控える重臣に語った。


重臣らは怒り、興奮し、涙を流す。王族としての立場として性質上、無表情が多い国王も僅かに頬を紅潮させたのを見てハルディンは手応えを感じた。


国王陛下は直ちに名誉の戦死を遂げた勇者パーティーに勲章を与える勅旨を宣言。残された遺族には厚遇を与えることを約束した。そして重要な情報を持ち帰ったハルディンに褒賞を与えた。ここまでは想定通り。後は恭しく礼をして帰るだけだった。


しかし問題はここからだった。


「ハルディンよ。汝を勇者に任命する」


「ははっ!……え?」


「勇者となりて魔王を打ち倒してくれ。リッテンハイムの仇を取るのだ」


「……」


ハルディンは何も言えずにいると国王陛下の近くにいる重臣。宰相・ブラウンシュバイクは咳き込む。暗に、さっさと了承せよと言っている。


「ははっ!……しかしながら!」


「これハルディン!陛下に失礼であろう!!」


「待てブラウンシュバイク。……なんじゃ申してみい」


「ははっ!勇者職というのはそもそも貴族のみが受け持つ職業。平民である私が……しかも元孤児である私が受けるのは不相応だと思います」


「……」


国王陛下が顎に生えた見事な髭に触れると代わりにブラウンシュバイクがハルディンに返答した。


「それなら心配は無い。ユルゲンを連れてきておる」


「は?」


ブラウンシュバイクが合図をすると扉が開かれハルディンの養父・ユルゲンが現れた。


「ハルディン……久しぶりだな」


「親父……」


ブラウンシュバイクが短く咳をしたのでハルディンはユルゲンから目を反らし前を向く。ユルゲンはハルディンの一歩後ろに跪く。


「ハルディンよ。ユルゲンの出自を知っておるかな?」


「はい、王国の兵士です。魔王軍と戦っていました」


「うむそうだ。確か……魔王軍に占拠された町を解放した時に孤児だったハルディンを拾ったのが始まりだったな」


「はい。そうです」


「ではその前は?」


「確か……貴族だったと伺っています。子爵であったと」


「うむ。そうだ」


国王陛下が豊かな髭に手を通す。すると隅から侍従が現れブラウンシュバイクに豪華な箱が手渡される。


「死者の遺族に厚遇を与えた。生者にも与えよとの陛下の命だ。ユルゲンよ。ハルディンの功により汝を子爵位を授ける。以降はユルゲン・フォン・ペクニッツと名乗るがよい」


ブラウンシュバイクがそう言って豪華な箱にある丸められた紙をユルゲンに渡す。ユルゲンが恭しく頭を下げて受け取る。


(終わったな……帰ったら遺書でも書こう)


これで養子であるハルディンは事実上貴族となり勇者職を受けることが可能となった。もはや断ることはもちろん回答を伸ばすことも出来ない。


こうしてハルディンは新設された第19勇者小隊の勇者となったのだった。

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