第2話
「ここは……?ベッドの上……か」
俺は倒れた後、どうやら宿屋に運び込まれたようだ。出発前に見たことがある天井を眺めているとドアがノックされた。
「よぉ無事か?」
俺の返答を待たず扉が開かれると片手に笛を持ったフードを被る男が現れた。こいつは吟遊詩人・アルフレット。
「おうアルフレット。見ての通り瀕死の重体だ。帰れ」
「おいおいつれねぇことを言うなよぉ」
アルフレットが呑気なことを言いながら俺のベッドの近くに来て備え付けの椅子に腰かける。俺は顔だけを奴に向ける。
「一応言っておくが酒屋には行かねぇぞ。王都から来る奴に魔王や仲間、重要なことを言わねぇといけねぇ」
「それよ」
「は?」
「今日は見舞いとしてお前の所に来ただけじゃねぇ。吟遊詩人としてネタが欲しくてな。ここに来たんだ」
「死ね。そして帰れ」
顔を再び天井に向けると吟遊詩人が椅子から立ち上がると床に這いつくばった。思わず顔を向けると古来から伝わる最上の請願方法。土下座をした。
「ちょっ⁉おまっ何してるんだ!⁉」
「頼む!最近ネタ切れで……メシが食えてないんだ!頼むよ。俺を助けると思って」
「だとしてもなぁ……今はそれどころじゃないんだ。傍から見れば俺は仲間を見捨てて逃げたように見えるだろ。どうやって言い繕うか考えないといけないんだ」
俺は思い悩む。今はまだ、情報が流れていないから放っておかれているが情報が流れればきっと王国の人間は俺を非難するだろう。穏やかに過ごすにはこの問題をどうにかしないといけない。
アルフレットが顔を上げる。
「だったら俺の出番じゃねぇか!」
「なんだと?」
「俺は吟遊詩人だ!お前が非難されないように物語を作ってハルディンを悲劇のヒーローにしてやるよ!それでどうだ?」
「うむ、だが……嘘は良くない……バレてしまう」
「大丈夫だ!話を盛るだけだ。嘘は言わねぇ」
「盛る……ねぇ……」
「教えてくれたらお前が村長の嫁さんと一夜を共にしたことを墓場まで秘密にする「教えよう」……ヤッタぜ」
こうして俺はアルフレットに魔王との戦いや勇者パーティーの奮戦について語った。そして話した内容にアルフレットが添削する。
こうして出来上がった内容だが……思わず笑ってしまった。全部を思い出しては恥が勝り顔を赤くするだけなので多くは語らないが、中々な物に仕上がった。
原作……もとい本当の戦いではリッテンハイムが勇者の剣を聞き出したのではなく魔王が命乞いをして話したことになっている。
オフレッサーが片手を切り落としたのもリッテンハイムが命乞いをしている魔王に近づきすぎて奇襲を受けた際に押し退けて片手を切り落とされたことになっている。
魔法でパーティーのアシストをしてくれたベーネミュンデは風の魔法で雑兵数名を斬り倒した所を、竜巻を起こして雑兵1000名を瞬殺したということになっている。
死人に口無しとはいえかなり盛られてる笑。
「完璧だ。これで俺は悲劇のヒーローになれる」
「俺もお前らの伝説を語って億万長者だ」
「所でこの話だと魔王は5回は殺されているんだが魔王が文句を言ってきたりしたらどうするんだ?」
「そん時は魔王の言葉に耳を貸すなとでも言えば良いさ。誰も信じないよ」
「それもそうか、よし。早速俺はこの話を頭に叩き込むぜ」
「俺も早速王都に出向いて語ってくる!」
こうして俺はアルフレットと別れ、話を脳内に叩き込んだ。次の日の早朝に王都の使者が訪れると俺は早速脳内に叩き込んだ話を使者に話した。
物語を語る最中、使者は魔王の卑劣さに怒り、勇者パーティーの勇戦に戦記物に憧れる少年のように頬を赤くし、俺とパーティーの訣別の所では涙を流した。
俺は話を終えると使者は涙ぐみつつおれの働きと勇者パーティーの献身を褒め称えた。話は上手くいったようだ。
そう思っていたら使者の奴がとんでもないことを言い出してきた。
「ハルディン殿……よくぞ戻って来てくださいました。私は直ぐに王都に帰り陛下にご報告させてもらいます。さすればきっとハルディン殿にもお目通りが叶うでしょう」
「えっ?いや……それは別に……」
「陛下は国の為に献身した者を労いたいという意思があります。それを拒否することは許されません」
なんだか話が大事になってきた。無理もない。今まで魔王と戦って帰ってきた勇者パーティーが存在してない。俺が唯一の生き残りだから話したいのだろう。なんとしても断らなければ……。
「いやしかし……俺は結局の所、魔王を倒すことが出来なかった。国王の命を果たせなかったのだ。会う資格は無い」
「謙遜なさらないでください。そもそもハルディン殿の話が『正しければ』魔王を倒すには勇者の剣なるものが必要とのこと。貴殿方が魔王を倒すのが使命なら必要な物を用意するのが国の使命。落ち度は国に有ります。……一応ですが……嘘は言ってませんよね」
使者はやや温度が下がった視線を俺に向ける。
「嘘など申していない」
盛っているだけだ。
「なら恥じることは有りません。堂々となさい。では私はこれにて……近く馬車を用意しますのでそれまでに陛下に謁見する準備を」
「あ、ああ」
使者が扉から出ていくのを止めることが出来なかった。扉が閉まり、部屋が俺一人になると俺は頭を抱えた。
「陛下かぁ……」