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第1話

第10勇者小隊。それが俺が所属している勇者パーティーの部隊番号だ。我々が国王に課せられた任務はただ一つ。魔王の討伐である。


我々は様々な艱難辛苦を乗り越えてついに魔王城にたどり着き魔王と対決、勝利した……と思い込んでいた。


「ハッハッハァ!まさか1度殺しただけで万事解決すると思っていたのかなぁ~甘い甘い!」


魔王は生きていた。いや、確かに勇者リッテンハイムの剣が奴の心臓を貫き口から血を噴き出して倒れた。間違いなく死んでいるはずだ。


「もしやお伽噺のドラゴンの様に首を切り落とさねばならないのでしょうか」


魔法使いのベーネミュンデが勇者に耳打ちする。


「その可能性もあるやもしれぬ……だが」


リッテンハイムは魔王に気取られぬ様に目線を目線を剣を持つ手に向ける。その手は小刻みに震えていた。決して恐怖で震えているわけではない。


魔王との戦いは激しく長時間に及んだ。その疲労が、リッテンハイムの鉄の意志を体現したような肉体にも表れはじめていた。


もう一度戦うことは至難であるのは戦闘職ではない俺にも分かった。しかし……と、そう思って倒れた戦士職であるオフレッサーを見やる。


オフレッサーは魔王との戦いの最中、片手を切り落とされ息も絶え絶えといった状況だ。彼を背負って万全の魔王から逃げるなんてとてもじゃないが想像できない。


「魔王……私から尋ねるのはお門違いかもしれないが冥土の土産として一つ訊きたい」


「む……なんだァ?訊かれてやろう」


額から冷や汗と血を流すリッテンハイムの質問に魔王が涼しい顔をして答える。


「私は王国の文献から魔王を倒す為には勇者の攻撃でなければならない……と読み取った。しかし現実は違った。魔王……貴様を倒すにはどうすれば良かったのだ……」


「それは簡単だ。勇者の剣で余を殺せば良いのだ」


魔王がまるで子供に簡単な計算問題の答えを教えるかのように淡白に答えるがリッテンハイムは理解できないのか言葉を出すことが出来なかった。


(なんだそれ俺知らないぞ)


俺は才女として名高いベーネミュンデを見るが彼女は首を振る。どうやら俺だけが無知ではなかった。勇者の剣という存在を皆が知らない。


「ゆ、勇者の剣?……そんなもの文献には一行も書かれていなかった」


喉から絞り出すように声を出すと魔王は嫌みな笑みを浮かべながら話す。


「あぁそうか。今の時代の者は知らないんだったな。無理もない……余が勇者の剣、それにまつわる土地や本を全て破壊したからな」


「な……なんだと⁉」


リッテンハイムは力が抜けたのか糸を切った人形のように崩れ膝を地面につける。剣を地面に突き立て辛うじて倒れるのを防いでいる。


俺もベーネミュンデも既に戦意は喪失した。


「おいリッテンハイム!馬鹿野郎コノ野郎!!」


怒号が走る。振り向くとさっきまで息も絶え絶えだったオフレッサーが切られた片腕の断面から血を流しつつも立ち上がっていた。


「オフレッサー……馬鹿者!座れ!死ぬぞ!」


「別にいいわ!だがよぅ俺が最後に見るのが腑抜けた手前(てめぇ)なんて嫌なんだよ!!堅物らしく最後まで突っ立ってろよ!!俺も頑張るから……お前も諦めないでくれよ」


「オフレッサー……」


僅かに口角を上に上げるとリッテンハイムは立ち上がった。立ち上がった時にはいつもの無表情な顔に戻っていたがやる気を取り戻したようだ。


(そうだ。なんとしても生きて帰るんだ。生きて帰って浴びる程の酒と使いきれない程の金と手に余る程の女を手に入れるんだ)


俺は立ち上がり魔王には伝わらないように伝達魔法でリッテンハイムの脳内に連絡する。


〈リッテンハイム!とりあえずさっきと同じ作戦で俺は魔王の後方に出て撹乱するが……それで良いか?行くぞ〉


〈いや待て。魔王相手に同じ戦法は通用しないだろう。それよりもだハルディン。お前には別の任務を与える〉


〈なんだ?〉


〈先程ベーネミュンデとオフレッサーにも伝達魔法で伝えたが、私とオフレッサーが斬りかかった瞬間にベーネミュンデが回復魔法をハルディンに掛ける〉


〈回復魔法?それは俺よりもオフレッサーやあんたが受ければ良いだろ〉


〈話を最後まで聞け……回復魔法を受けたらお前は一目散に魔王城から脱出し王都に逃げろ〉


〈逃げろって……待てよそれじゃあリッテンハイムはどうすんだよ!見捨てることになるだろ俺はそんなの出来ねぇよ!〉


〈確かにそう見えるかもしれない。だがな我々は今、重要な情報を掴んだ。勇者の剣についてだ〉


〈あぁだが勇者の剣は壊されてるんだろ?存在しない物に重大な意味なんて無いだろ〉


〈確かに意味は無いかもしれない。だが知らないよりも知ってることに意味が有ると思う〉


〈どういうことなんだよ〉


〈つまりだ。その存在を知ってれば知ってるなりに打つ手が有るはずということだ。もしかしたら製造方法が存在して勇者の剣を新しく作ることが出来るかもしれん〉


〈そんな希望的観測で逃げろって言うのかよ……〉


〈だが唯一の希望なんだ。……これ以上会話が長引けば魔王に勘づかれる。切るぞ〉


〈ちょっと待てよ!!〉


俺は怒りと制止の声を伝えたが反応は無かった。代わりに起こったのは怒声とも聞き取れるようなリッテンハイムの掛け声とそれよりも大きい返事をするオフレッサーの声だった。


瞬時にベーネミュンデが回復魔法を俺に掛ける。一瞬、体が青白く光ると少しだが体力が回復した。魔王が相手でも逃げ切れる程に。


そこからは何も考えなかった。何か魔王が叫んでいたが攻撃が我が身に当たらない以上、無我夢中で駆け抜けた。


魔王城を脱出、魔王軍の戦線の隙間を駆け抜け、俺達が出発した最寄りの町に到達した時、俺は門番に叫んだ。


「俺は第10勇者小隊のハルディンだ!至急、王都に重要情報を伝えたい!」


そう叫んで俺は倒れた。

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