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05.訓練開始

「おはよう御座います……」

私の耳元でリーニアが小さく呟いた。

時計の針は七時を指していた。


「あれ……もうこんな時間なの?」

「日本とべルネス王国の時差はありますからね。門を挟んで向こう側はまだ夜中ですよ」

道理で寝た気がしない訳だ。


「よろしければシャワールームをお使い下さい」

「こちらでお召し物を用意しました。こちらをご着用お願い致します」

「千鶴様の朝御飯はこちらです」

「今日は闘技場で稽古がありますので武器を用意しました。学校の授業で使い慣れた武器を取って下さい」


リーニアに言われるがまま広々とした空間でシャワーを浴び、制服から用意された可愛らしい服に着替え、絶品の料理を食べ、非常に矢を放ちやすい弓を手に取る。

至れり尽くせりの他に言い様があるだろうか。


「リーニアちゃんに全部してもらって何だか申し訳なくなってきたよ。ごめんね……」

「いえ、これはリト様の御指示であり、メイドとしての務めですのでお気になさらず」

「そ、そう?」

彼女の崩れることのない微笑みが反って私を不安にさせるのだった。

「さて、もう時間ですのでお二方と合流し、闘技場へ行きましょう。今日は疲れますよ!」

魔法や武器を使うのは楽しいけど、疲れるのは嫌だな……。





「二人共お待たせ!」

小走りで二人の元へ向かう。


海音も、破れや解れが目立ったセーラー服から令嬢に相応しい動きやすい短い丈の、防具もついたワンピース状の服に切り替わっていた。

腰には装飾の入ったレイピアが掛かり、貴族の格好そのものだった。


「おはよう千鶴。昨日は迷惑をかけてごめんなさいね。その服、とても可愛らしくって似合ってますの」

と、私の胸元のリボンに付けられた星屑のペンダントをちょんと優しく弾いた。


「海音こそすっごくお洒落。それにしても、この闘技場とてつもなく大きくない?」

ヴァリタリス闘技場は、まるで古代遺跡のような緻密さ、広大さが滲み出ていた。

天使や十字架といった彫刻が闘技場を囲む十二個の白い柱の上に飾られていて、観客席、出入口と全てが世界遺産並みの気迫を放っているのだ。

「そう、ですの……」

これには流石の海音も無視できなかった。


「おうおう、全員揃ったな。早速始めるぜ!」

「千鶴さんと海音さんですね。よろしくお願いします」

闘技場から背が高く威勢が良い女性と対照的に小柄で穏やかな印象の少年の姿が現れた。


「えっと、この方々は……?」

「イツキとムツハ。それぞれ守備、攻撃に特化した僕の頼もしい部下だよ。でも正しくはじいやが生み出した人造人間だ」

「人造人間……!?」

全く以てそうは見えなかった。

体の接着面のような隙間も無く、白い肌には瑞々しさをも感じる。

二人の動きも人間と変わらず、表情も豊かで言葉に違和感も感じない。

「普通の人間にしか見えないですの」

「まあ、人工知能とやらを搭載しているらしいからな。アンタらが見間違いするのも当然よ」

「因みにスリズケールにいる者は御二人とリーニアさん、ゼッタさん、そしてリト様を除いては皆我々と同じ造られた人形なのです」


ゼッタさん、貴方は何者なんですか。

驚愕の眼差しでゼッタの顔を覗くと、彼は恥ずかしそうに「大層な事では……」と照れていた。

十分常人の域を越えているでしょうが。


「さて、二人には来たる七月三十一日までにこなさなければならない試練がある。何のことか分かるか?」

イツキが迷いなく海音を指差す。

海音も戸惑うことなく答えた。

「魔法学校、そしてべルネス協会との衝突、それに向けての訓練ですの」

「その通り!そこで二人にはまず半月でこいつを倒してもらおう」


イツキが右手の指をパチリと鳴らすと、十個ある内の一つの門からドシンドシンと地を振動させて何かが姿を見せた。

「ミノタウロスだ。しかもこいつは我々が育てた特別な一級品でね。艶だけでなく強さも格別だぞ!」

頭から生える二本の角に鬼の形相のような牛の顔、恐ろしい筋肉の構成と右手に持つ大鎌は間違いなくミノタウロスだった。

「グオオオオオオオオオ!!!」

ミノタウロスが遠吠えをすると、同時に風が吹き荒れ、地面も揺れる。

それは意図も容易く腰が抜ける程の恐ろしさ以外の何物でもなかった。

「半月でこんなやつを!?」

「私達学校で練習していたとはいえ、まだ基礎も出来てないけど!?」

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

やがてムツハがミノタウロスを鎖に繋いで元いた場所に戻したことで全身の震えは収まった。


「いやぁ、アタシも最初は無理って言ったんだけどね。あの国王様がどうしてもって言うからしょうがないんだよ」

そう言ってイツキが出したのは一枚の紙で、リトの丁寧な文字で半月までに手段を選ばずにミノタウロス一体を倒せるようにさせることと書かれていた。

その他には彼が学校にて観察したと思われる私と海音の戦闘フォームについてが連ねられている。

「ちょっと!これどういうことですの!?」

私達を背にして、闘技場で稽古をしているリトが片手間に返事をする。


「べルネス協会はかなり凄腕の精鋭達が集まった危険なチームだからね。リーニアやイツキ、ムツハらと立ち向かうにしても、三人で直線勝負するにはそれくらいの実力が求められるんだよ。これくらいの岩を容易く砕く位にね」

リトが刀を振り下ろすと、彼の目の前の巨大な岩石が粉砕されたのだった。

「お見事です」

「次はもっと大きくて強度のあるものを頼むよ」


地味にムカつくな。

でも、私達もそれくらい上達しなければならないのだ。

そう、あの時立ち竦んでしまった強大な敵、ミノタウロスを倒せるように!

「頑張んなきゃ!」

「おう、その調子だぜ!となればトレーニング開始だ!手始めに腹筋1500と腕立て伏せ1500、すスクワットを2000してからランニング300周してそれから……」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!」

「ちょっとちょっとちょっと!!」

「ん?これでは足りないってか?」

「「そうじゃなくって!」」

突如襲ってきた窮地を救ってくれたのはムツハだった。


「い、イツキ、さすがに人には無理だよ。人間の体力は有限でしかもかなり短いんだ。女性なら多くても50回ずつ、ランニングなんかは数回じゃないと死んじゃうよ!」

死ぬというのも大袈裟かもしれないが、本当にその通りだ。

「そ、そうなのか!?なら、ムツハの言う通りにするか……」

なんとかピンチを免れ、適度なトレーニングをした。

それでも全てが終わった頃には足や腹が限界を迎えて悲鳴をあげていた。

「飲み物です」

リーニアが差し入れを渡してきた。

「有り難う。気が利くね……」

つくづく彼女の女神のような優しさに涙するのだった。





「さて、次は魔法の訓練だ。まずそれぞれの技を見せてもらってからだな。とりあえずそこの柱でも壊してみろ。やり方は問わない」

「こんなに神聖そうな物をぞんざいに扱っちゃっていいんですか!?」

「ん?ああ、毎回アタシが魔法で復元してるから問題ないさ。さ、やってみな!」


どこか心にひっかかるが、私は躊躇なく弓で矢を放つ。

元々両親の遺伝で魔力量はそれなりにあるが、コントロールはまだまだである。

稲妻を纏った矢は一直線に進み、柱にヒビをつけた。


「千鶴に負けず、私も一丁やるですの!」

海音は腰のレイピアを抜き、同じく雷の魔法を剣に込めて大きく一振り、柱に向けて火花を散らした。

彗星保有者の魔法は格が違い、紫色のオーラが稲妻の光に宿っていた。

これにはイツキも興味深そうに感嘆を漏らす。

「ぐっ!」

柱は半分程削れたが、それでも完全に斬れて倒れることはなかった。


「よし、二人の弱点が分かった。まずは海音、お前は魔力量が非常に高く、フォームも悪くないが威力が弱い。体幹を鍛え上げることが最優先だな。そして千鶴」

心臓の鼓動が段々と高まってくる。

一体何を言われるのだろうか。

「お前はフォームも威力もあり、命中率も恐らくは高い。戦い方としては悪くないな」

褒められた。

それだけでも肩の荷は軽くなった。


だが、勿論それだけではない。

「ただし、単発打ちなのが残念なのと、魔力がまだ足りてないな。ムツハをコーチに特訓だ」

「それじゃあ千鶴さんはこっちへ」

若干目がきょどりながらもムツハが案内してくれる。


イツキに言われた指摘は少し意外なことだった。

魔力と打ち方に自信があった訳ではない。

寧ろ自信なんて皆無だ。

ただ、強化や上達の仕方があることに驚いたのである。

況してや複数打ちを求められるなどまだ魔法学校半年も経っていない初心者にしてはハードルが高過ぎるのではないだろうか。

「魔力量とかって強化のしようがあるんですね。魔法学校に通っていたとはいえ、知りませんでした」

「そ、そうですよね。ふ、普通は分かりませんよ。僕だってこれを編み出すのには苦労しましたから」

編み出す?何を?

そんなことを疑問に思っていると、ある部屋についた。


薄暗い空間に水晶の玉一つ。

占い師がいるかのようだった。

「えっと、ここは?」

私が訪ねると、水晶の上にぴょこりと何かが動いた。

よく見ると、可愛い装飾をつけたネズミのような小動物が両手を広げていた。

「はじめまして千鶴さん!デビル族のウォーリーと申します!ここでは千鶴さんの魔法の力を上げていきます!頑張りましょうね!!」


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