第一話「不審者」
「んーっ!今日は天気が良いわね」
綺麗な青空、いつものように通学路を歩く。
人の気配が一切ない静かな道、私はこの道を通るのが大好きだ。
だが______
「じーーーーっ」
後ろの柱の影に誰かがいる、いつものことだから、怯えることもない。
むしろ…
「はぁーーーっ…」
むしろ呆れる始末だ。
私は溜息をつきながら後ろを振り向く、柱の影に隠れている人物がびくっとしたのが見える。
「あの…後ろから着けてくるのやめてくれません?不審者さん」
すると柱の影に隠れていた人物が姿を現す。
「あーっ、えっと、ばれちゃったかぁっ!君、いつも人気のない場所歩くから、えーっと、心配だなぁって」
この人は不審者さん、本名は知らないけど、最初の第一印象でずっとそう呼んでる。
というか、実際に皆からも不審者だと間違われている。
この前も子供に声をかけて、警察の人に色々と聞かれていた。犯罪になるようなことはしてないから逮捕はされなかったらしいけど。
いつも真っ黒な服装でいかにも不審者って感じ、でも表情とかは優しくて、でもそれが逆に怪しい。
「普通に声掛ければ良いじゃないですか」
「この前子供に話しかけて不審者だと間違われたからね、その反省を生かしてさ」
さっきの行動の方がよっぽど不審者だったと思ったけど口には出さない。
私はそのまま歩き出し、不審者さんはその横を歩く。
私は顔を不審者さんに向けることなく話す。
「お仕事とかしてないんですか?」
「え?あー、まぁやってると言えばやってるけど、しばらくは触れなくて良いからなぁ」
(何の仕事なんだろ)
不審者さんはかなり謎が多い。
仕事の内容だとか、年齢だとか、名前だとか、いつ聞いてもはぐらかしてくる。
(そんなんだから不審者と間違われるんだぞー)
私はジト目を送る。
「…ん?どうしたの?…あ、そいえば、学校では友達出来た?」
「…」
私は最近ここの学校に転校してきたばかりで友達はまだ出来ていない。
漫画の世界だと転校生と言えば、気にかけられる存在だが、現実ではまったくそんなことない。
だけど、そんなことを不審者さんに知られたくないし教えたくもない。
だから
「不審者さんには関係ないです」
私は不審者さんに向き合ってきっぱり言う。
不審者さんは困った顔をしだす。
「んー、まぁ、確かに関係ないんだけどねぇ…」
少し間が空く。
すると悲しい顔をしながら言う。
「いや、これは僕のエゴか、ごめんね。それじゃあ、言いたくなったら言ってね」
なんでこんな顔をするんだろう、私はただの赤の他人なのに。
「…」
再び歩き出し、しばらく沈黙の時間が生まれる。
(なんか…嫌だな…)
私は足を止めてつぶやく
「…まだ…出来てないです…友達」
不審者さんも足を止める。
そして少し考えて、私の頭を撫でながら言う。
「そっか、まぁ焦らず自分のペースで作っていくと良いんじゃないかな」
こういうことをするからこの人は本当に…
「…不審者と間違われますよ」
「わわっ、ごめんごめん」
慌てて手を除けて、困った顔をする。
(悪い人ではない…とは思うんだけどなぁ)
そんなことを思いながら再び歩き出す。
「不審者さんに言われなくても、ちゃんと自分のペースで友達作ります」
「あはは、君は強いねー」
私は弱い、何度も何度も転校を繰り返して、その度に上手く馴染めなくて、強いと言われるような人間ではない。
そんなことはない…そう言おうとしたら不審者さんが立ち止まって言う。
「…お!ついたね!」
「…あ」
どうやらいつの間にか学校の前に着いていたらしい。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
笑顔で手を振ってくる。
「…行ってきます」
私も手を振り返す。
毎回何故だか受け入れてしまう、すごく不審者っぽいのに。
きっとそれは、不審者さんが悪い人じゃないからなのだろう。
これは、とても怪しくて優しい不審者さんとの日常。
その一部を綴る、私の日記の中の話である。