どこからともなく声が聞こえる……
その日。
我が家は、海に遊びに行く予定をたてていた。
早朝五時に家を出発し、十九時ごろに帰って来る予定である。
これでは、全く家事が出来ない。
日頃から家事をやっている方々には、わかってもらえると思うが、一日の中で全く家事が出来ないというのは、少しキツいものだ。
というのも。
家事というのは、どんなに頑張っても休みがないからだ。
食事は、外食・中食で何とかなる。
しかし、洗濯物と風呂掃除。
こいつらはダメだ。
なぜなら。
遊びに行っても、仕事に行っても、洗濯物は出るし。
外にいようが、中にいようが、宿泊でもしない限り浴室は使うからだ。
洗濯ものはためればいい?
うちは四人家族。
一日分でもためたら、カゴから溢れるし、ハンガーも足りなくなる。
掃除は一日くらいしなくてもいい?
他の場所ならそれは通用するだろうが、お風呂は違う!
一日でも掃除していないと、ヌルヌルとした不愉快な感触が発生する。
というわけで。
私は一日出かける時には、早く起きて、必ず洗濯物と風呂掃除を行うのである。
この日は五時に出るので、四時に起床。
さて、まずは風呂掃除でも始めるか。
浴室の外から見える景色は真っ暗だ。
何も見えない。
その中、一人、風呂掃除を開始。
風呂釜を洗い、風呂のフタと洗面器も洗った。
さて、あとは洗い流すだけ。
その時。
「……すいません……」
「……っ!」
突然の声。
私はギョッとした。
家族の声ではない。
しかも、外から聞こえる。
お分かりいただけるだろうか?
先ほど説明した通り。
外は真っ暗なのだ!
何も見えない。
その暗闇の中から、聞いた事もない男性の声がする!
「……」
よくファンタジーで、「どこからともなく声が聞こえる……」なんてシチュエーションがある。
それだ。
それによく似ている。
主人公は声に導かれるまま、冒険の旅に出る。
ワクワクする展開が待っているのではないか。
そんな期待を胸に抱く、私の好きなシチュエーションの一つだ。
だが、
現実は……。
「すいません」
「……」
怖すぎるわーーー!!!!
私は恐怖で、しばらく動けなかった。
本当に、お化けか霊の類だと思ったのだ。
ワクワクする展開?
そんなの、どうでもいいわ!
マジで怖い!!
どこからともなく声が聞こえる……。
「こんな時間に、窓開けっぱなしで、掃除なんてしないでください。響いていますよ」
ここで、初めて、相手は人間だと判明。
恐らく、隣の家のご主人だろう。
良かった。
超自然現象じゃない。
ほっと安心。
と同時に、私の行動が近所迷惑だと理解。
血の気が失せる。
これはまずい。
「す、すいません!」
慌てて、窓を閉めた。
あとは洗剤を流すだけだったし、窓も閉めたので、最後まで掃除はした。
その後。
お風呂掃除する前に、窓を閉めると心がけている。
が。
未だに、あの暗闇の中から声をかけられたことが、トラウマ状態。
いや。
これは私が悪い。
時間も考えず、お風呂掃除をしてしまった。
隣のご主人は、不規則な時間体系の仕事だと聞いている。
もしかしたら、前日は朝早く、やっと今日の夜になって、帰ってこられたのかもしれない。
そう考えると、申し訳なかった気持ちになる。
もう二度としない。と、深く反省。
だが!
それとは別に!
夜になるたびに、あの時の「すいません」が耳元で蘇る。
そして、恐怖の感情も心を支配してくる。
もちろん、自業自得だ。
分かっている。
誰のせいでもない。
私のせいだ。
でもね、
怖いものは、怖いんだ!!
少しでも怖さを紛らわせるために、今回の話を出会う人出会う人に話している。
そのせいか、だいぶ落ち着いてきた。
しかし、人生で忘れられない出来事にはなりそうだ。
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とりあえず、外が暗い時は、いつもより音に気を付けるようにはなりました。
近所の集会で会った時には、一言詫びようかなと思っています。
余談ですが。
海は楽しかったです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。