ヲタッキーズ143 秋葉原D.A.の選良
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第143話「秋葉原D.A.の選良」。さて、今回はアキバ特別区の議員が惨殺され、遺体が絨毯に巻かれて発見されます。
絨毯は大手ホテルのものでホテル王らが容疑者に浮上する中、政界を揺るがすスキャンダルと、それに群がる人間模様が渦巻き、選良の思わぬ素顔が…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 絨毯にくるまれた死体
朝焼けに染まるアキバ。駅を取り囲む摩天楼群。その1室で女を絨毯で巻く。彼女の頭には銃痕。虚な瞳が天井を仰ぐ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署のギャレー。
「驚いたな。最悪のコーヒーだ。ある意味、賞賛に値スル。野良猫のオシッコでも入ってるのかな」
僕は思い切り顔をしかめコーヒーを飲む。
「あら、テリィたん。事件もないのに何しに来たの?今日は新刊の発売日でしょ?」
「だから何だょラギィ」
「なのに私の書類仕事の邪魔しに来たの?他に行くトコロはナイの?」
ラギィは万世橋の敏腕警部だ。彼女とは、彼女が前任地で"新橋鮫"と呼ばれ恐れられてた(誰に?)頃からの付き合い。
「ココが好きナンだ」
「ははぁわかった。怖いのね?新刊発売という現実から逃避してる。隠れてルンだわ」
「え。隠れるくらいなら、マチガイダ・サンドウィッチズでチリドッグの狂い食いでもしてるさ」
何もかもバレバレだw
「大食いしてちゃ隠れてるコトにならないわ。案外気にスルtype?」
「しないtypeだ…ほとんど」
「あぁコーヒーが美味しいわ」
ラギィのスマホが鳴る。
「ラギィ…わかったわ。直ぐ行く」
「死体か?blood typeは?」
「"BLUE"」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
殺人現場。摩天楼の1室。警備の警官から声がかかる。
「テリィたん。今度の新作、ラギィがモデルだって?」
「そうさ。どんな新作にも女王が必要だ」
「黙らないと足をヘシ折るわょ」
殺人現場には敬意を払え…ラギィの口癖だ。
「ROG」
「警部。通報者によれば、絨毯はゴミ収集所にあったモノだそうです」
「掘り出し物だと思って持ち帰ったらオマケ付きだった?テリィたんの好きそうなパターンね」
やれやれ。もっと現場に敬意を払えょラギィ。
「至近距離から38口径で鼻先から打たれてる。"blood type BLUE"。IDは?」
「ありません。ポケットは空でした」
「強盗でしょうか?」
僕とラギィが異口同音。
「絶対に違う!」
思わぬ合唱に全員が振り向くw
「強盗なら、こんな小細工はしないょ」
「恐らく絨毯のそばで撃たれてる。絨毯の発見場所は?」
「東秋葉原3番街です」
「絨毯を鑑識に回して分析を頼んで」
ラギィがテキパキ指示する間、僕はスマホで現場を撮影←
「テリィたん、スーパーヒロイン反応が出たから南秋葉原条約機構との合同捜査になるわ。絨毯が捨てられてた場所の捜索をお願い」
「ROG。エアリ達に逝かせる」
「先ず身元を調べなきゃ」
ラギィに告げる。
「ソレは必要ない。この人、知ってるょ」
第2章 愛欲という名の絨毯
「秋葉原D.A.特別区議のジフリ・ホーンだ。確か特別区議会議員の2期目」
「知り合いなの?」
「いいや。10月の総選挙に向けたバスのラッピング広告で見ただけだ」
瞬時に僕に見切りをつけるラギィ。
「本人の家族は?」
「います」
「急いで連絡して。マスコミが報じる前に遺族にお知らせしなきゃ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
でも、結局僕とラギィで話しに逝くコトにw
「奥様、御主人からの最後の連絡は?」
「昨夜11時頃、私の方から電話したら、資金集めのパーティから帰る途中だと言っていました」
「ずいぶん遅いのですね」
奥様は、いかにも政治家の妻って感じだ。
「選挙準備の期間中も、夫はソレが務めだと信じていました。政治家としての公務の手は抜かなかった。だから、昨夜も主人は戻りませんでした。いつものように事務所のソファで寝たと思ってました。でも、電話で…」
「訃報は誰から?」
「フラク・ネスビ。選挙事務所長です」
切り口を変えてみる。
「昨夜ご主人は?」
「と言うと?」
「何か変わった様子はなかったですか?」
気丈に振る舞っていたが、徐々に感情が露わになるw
「いいえ、全然…しかし、何でこんなコトに!善良な人でした。休みも取らず毎日秋葉原のために尽くしてきた。なのに殺されるなんて。娘達に何と言えば良いのか」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
帰り道、中央通りの渋滞に巻き込まれる。
「ラギィ、大丈夫か?」
「え。どうして?」
「厄介な役回りだし」
覆面パトカーの中で話しかける。
「茶化さないでくれてうれしいわ」
「いけすかナイけど嫌な奴じゃないぞ」
「ソレは知らなかったわ」
微笑むラギィ。
「さて次はどうする?最後の目撃者に話を聞くか、署に戻って最悪コーヒーを飲むか」
「…テリィたん。次のSFの主人公はミユリ姉様だとして、ホントに私がモデルのキャラが出て来るの?」
「あぁ。少しばかりフシダラなキャラだ」
心配げなラギィ。
「愚かな女?」
「実は…冗談だょ。何も心配いらない。聡明で洞察力があって、謎めいた美人だ。でも、少しエロい…おっと電話だ。もしもし?スピア、何だ?」
「テリィたん!大丈夫?」
いきなり何だ?
「な、何だょ?どーした?」
「新刊が1冊も売れてナイわ!」
「え。新刊が?」
今日は"太陽系海軍シリーズ"新刊の発売日だ。
「スターボックス併設の駅ナカ書店にいるけど…誰も買ってナイのょ!」
「え。リサーチのために駅ナカへ?」
「今どきリアルな書店ナンて、メトロの駅ナカしか生き残ってナイし。そしたら、テリィたんの本が山積みなのw」
"巡洋艦ぱれんばん"が山積み?売れてナイ?
「あのさ。今朝発売だょ?さすがに行列は出来ないさ」
「ハリー・バッターの時は出来てたわ!」
「ジャンルが違うだろ?」
「似てるし」←
何処が?
「で、1冊も売れてナイのか?」
「ちょっと待って。腐女子風が来たわ…あぁダメだわ。ゼロょ!全くのゼロ!」
「あのさ。僕の等身大ポスター、ちゃんと掲示されてる?」
ガチャリと電話が切れるw
「テリィたん、大丈夫?」
「うん、まぁ」
「きっとネットで売れてるわょ」
僕は、遠い目で外を見る←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。ヲタッキーズのエアリ&マリレはゴミ漁りw
「お金をもらっても絨毯なんか絶対に拾わないわ」
「秋葉原暮らしのくせにリユースが嫌いなの?」
「リユース?」
顔をしかめるマリレに年長のエアリが諭す。
「みんなやってるコトょ。他人の不用品を誰かがリユース。芸術家のタマゴや学生、破産した証券マン。コレが秋葉原名物の"リサイクル経済"って奴ょ」
「変な臭いとかしない?」
「私の御屋敷の赤いソファ、知ってる?」
露骨に拒絶反応を示すマリレ。
「ダメ。ヤメて。ソレ以上、言わないで」
「練塀町で拾ったの」
「不潔!2度とエアリの御屋敷に御帰宅しないから…え?何?もう見つけたの?エアリ、早過ぎw」
エアリが差し出すサイフをひったくるマリレ。お金は全て抜き取られているが汚れたIDが残ってる。ジフリ・ホーン。
「本人のに間違いナイけど…」
「お疲れ様。署に帰ろ?」
「…少し臭うわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホーンの選挙事務所は、中央通りにアル。
「空の財布が見つかったわ」
「近隣の証言は?」
「何処も同じ。TVの音にサイレン。銃声は誰も聞いてナイみたい」
僕は、ラギィと早足で歩く。
「強盗なら財布を殺害現場に捨てるな」
「一見さんじゃナイってコト?」
「つまり、計画的犯行ってワケだ…あれ?どーも」
歩幅の関係か、ラギィが僕のために選挙事務所のドアを開ける形になって、意味もなく堂々と事務所入りスル僕←
「こんにちは。事務所長のフラク・ネスビさんは?」
声をかけた事務所の受付嬢は…あれ?泣いているw
「ちょっと外してくれ…実は、カウンセラーを雇いました。ホーン議員は事務所の全員にとって、ソレほど大きな存在だったのです…私がフラク・ネスビです」
「万世橋のラギィ警部です。貴方と議員は、いわゆる同志って奴ですか?」
「YES。共に秋葉原を変えたいと思っていました」
実直そうな初老の男だ。
「昨夜も議員とは一緒でしたか?」
「YES。11時ごろ私はタクシーで、彼は歩いて帰りました」
「パーティ会場は?」
「83丁目のマルコーニです」
高級レストランだ。イカスミのパスタが絶品←
「ずいぶん遠いな…議員の遺体は、かなり南で発見されたんです。彼に敵はいましたか?」
「そりゃ政治家なので。人並みには」
「対立候補は?」
悲しそうに首を振るネスビ。
「ボリン・ジャルは殺人などしませんよ。世論調査では常にリードしてましたから」
「脅迫は受けていませんでしたか?」
「グリィ・ソーンの嫌がらせ位です」
僕の出番だ。
「ホテル女王の?アクシオムのオーナーだ。彼女の店では、僕も色々と武勇伝があって…」
「恨みを買っていた理由は?」
「グリィ・ソーンは、神田リバーフロントのラスベガス化を計画していました。ホーン議員がソレを差し止めたのです。周辺への治安の影響が著しいと言って」
地面師の世界だw
「おかげで、価値の下がったリバー沿いの不動産を大量に買い取らされたグリィ・ソーンは、数10億円の大損をしたってワケか」
「でも、だからと言って彼が犯人だとは言えません」
「違うとも言えませんがね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバのホテル女王グリィ・ゾーンのオフィスは駅チカ高層タワーの最上階にある。壁から床から内装は全て真っ赤だw
気が狂わないか?ソレとも…もう狂ってる?
「奴が死んだと聞いて、自分の強運にシャンパンで乾杯したトコロょ」
「冷淡ですね。グリィ・ソーンさん」
「喜ぶのも当然でしょ?ホテルの建設ごときで大騒ぎしちゃって。アキバの萌え経済への貢献を考えてょ。むしろ、私を援助すべきだわ」
鼻息荒いオバサンだ。豹柄のスーツが勇ましい。
「つまり、貴女には動機がアル」
「あら?このオッサン、何者なの?」
「逮捕しちゃえょラギィ」
耳打ちスル僕にムキになるホテル女王。
「待ってょ。証拠は何処?いちいち邪魔者を殺してたら今頃神田リバーが死体で埋まるわ。私は相手は殺さないの。潰すだけ」
「…昨夜はどちらに?」
「東秋葉原SOHOのクラブ」
つまらなそうに応えるグリィ。
「証人はいますか?」
「山ほどいるわ。そんなの」
「ありがとうございました。お邪魔しました」
呆気なく引くラギィ。
僕は耳元でつぶやく。
「虫酸が走るな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィとホテル・アクシオムのメインロビーを横切る。
「次は?」
「うーんアリバイ確認ね」
「おいおい。ソレはエアリ達に任せようょ」
僕のスマホに着信。
「なぜ?何してるの?」
「僕を嫌いにならないで」
「微妙。で、何?」
スマホの画像を見せる。
「実は今朝、現場で生写真を撮ったんだ」
「事件現場で勝手に写真を?警察でもナイのに?」
「で、ソレを女友達にメールした」
アッサリ沸点に達するラギィ。
「女友達ですって?!」
「インテリアデザイナーだ。でも、寝ちゃったから、もう女友達ではいられない」
「最低!最悪じゃないの。何を考えてるの?」
全くだ!
「だょな?寝ちゃうと関係が複雑になるから超面倒臭いンだ。お互いに気をつけよう」
「余計なお世話。遺体の写真の話をしてルンだけど」
「彼女に送ったのは、遺体の写真じゃなくて絨毯の写真だ。出所を知らないかと思ってね。そしたら案の定、知ってた」
僕は、クリーナーで掃除しているメイドを指差す。
「え。このホテル・アクシオムの絨毯と同じだわ」
「な。女友達って役に立つだろ?」
「テリィたん、ニヤつかないで!嫌な感じ」
プイと横を向くラギィ。可愛い。萌え。
「さぁ、ラギィ!ホテル女王を逮捕しよう!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室。ホテル女王のグリィ・ソーンはウッカリ不味いコーヒーを口一杯に含んで、思い切り顔をしかめる。
「マズいょな?」
マジックミラーのこちら側で声を殺して笑い転げる僕。
傍らでスマホにささやくラギィ。通話口を抑えて話す。
「グリィがクラブに現れたのは0時過ぎょ」
「それでどうする?」
「他の線も調べナイと」
僕は変化球を投げる。
「だな。奴は無実だモンな」
「え。なぜそう思うの?」
「余りにツッコミどころが満載過ぎる」
溜め息をつくラギィ。
「ずいぶんな理屈ね。信じらんナイ」
「ソレこそ八つ当たりだなw」
「ソンなの、テリィたんのSF小説の中の話だわ。現実ではあり得ない。そもそも彼女を逮捕したがってたのは、テリィたんょね?」
ホッペタを膨らませて怒ってみせる。ホントにコレが夜の烏森界隈で誰もが恐れる"新橋鮫"?僕だけに見せる素顔か?
「ソレは奴が間抜けだからさ。捨てた絨毯を利用されるナンてバカ丸出しだ」
「しかも、ホテルの特注絨毯ナンて手がかりの塊だわ…ヲタッキーズ!エアリ、住宅関連の捜査をお願い出来る?」
「ROG」
マリレを誘って出掛けて逝くエアリ。驚く僕。
「メイドの扱いがウマいな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
署に残った僕とラギィでグリィの取調べ。
いつの間にやらグリィの横には女弁護士。
「天敵の遺体がホテル・アクシオムの絨毯で巻かれていました。ソレは偶然かしら?」
「警部。あの絨毯は、アクシオムチェーンの全ての部屋にアリます。その全てをオーナーが見張れと?不可能ょ」
「不可能じゃナイ。少なくとも裁判員はそう思うハズ」
女弁護士の抗弁をグリィがさえぎる。
「ねぇ私は忙しいの。アリバイがあるでしょ?」
「イケメンモデルを両腕に登場したそうね?」
「モデル連れは確か犯罪じゃないわょね?」
グリィもしたたかに応じる。
「貴女のクラブ到着は午前1時ですね?ホーン議員の殺害時刻は23〜0時の間ょ」
マジックミラーのこちら側で僕はワクワクだ。
「貴女は0時前にはどちらに?」
「寝てたわ」
「寝てただと?この大嘘つき!」
僕は1人、マジックミラーのコチラ側で大騒ぎ。
思わぬ大騒動に女弁護士とグリィは不審顔だw
シラを切るラギィ←
「グリィ氏が18時から0時に仮眠を取るのは秋葉原セレブの間では有名な話です」
「その時間に寝ていたコトを証明出来る人はいますか?」
「ちょっと考える…いないわ」
「じゃコレで決まりましたね!」
立ち上がって揺さぶりをかけるラギィ。
「待ってょ。聞いて。私には動機がナイ」
「どうして?」
「奴は消える運命だった。どうせ落選スルのに殺す必要ナンかナイでしょ?」
逆に揺さぶられるラギィ。
「落選が確実?ソンなコトがなぜワカルの?」
「繰り返すわ。彼の落選は間違いなかった。対立候補のボリン・ジャルに聞いてみて」
「ボリン・ジャル?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ボリン・ジャルの選挙事務所は賑やかな電気街口にある。
ポスターを持って走る黄色いシャツの運動員とすれ違う。
「声明の資料は?」
「今、準備中です」
「急がせて。ウェブニュースが20分後に更新される…すみません、警部さん。処理を誤ると命取りになるので」
精力的なオバサンだ。全身から湯気が出てるw
「ボリンさん」
「ソレは母の名前。私はジャルで結構ょ」
「では、ジャル。ホテル女王グリィさんを御存知?」
ホテル女王の名を出した途端、動きが止まる。
「モチロンょ。有力支援者の1人だけど何か?」
「貴女がホーン氏に必ず勝てる情報をお持ちだと伺いました。お差し支えなければ御教示いただこうかと」
「…私のオフィスへどうぞ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ジャルのオフィス。
「どうぞ、コチラへ。あ、ドアを閉めて」
「ホーン議員の調査を?」
「YES。探偵を雇いました…あ、合法的なのは弁護士に確認済みです。単に、政敵の弱点を知りたかっただけ。恐らく、私も調べられてるし」
鍵をかけたデスクの引き出しを開け、分厚い封筒を出す。
「コ、コレがホーン議員?」
「YES。でも、私がリードしている内は公表スル気はなかった」
「うわ。激しいな」
金髪女と絡み合うように抱き合う、全裸のホーン議員←
「お相手は…夫人ではなさそうだw」
第3章 濃厚不倫の彼方
東秋葉原。スピアの育った街は、かつて汚く、臭く、危険な街だったが、今やスパニッシュ・ゴシック様式のポンプ場を中心に独特の風格と存在感を放つ街並みへと変貌している。
「不本意ながら、年齢を無視したホーン議員のカラダの柔軟性は認めざるを得ない。脱帽だ。ラギィ、コレ出来る?」
「ヤメて、見せないで!運転してるの」
「どんなヨガポーズでもOKだ。重力も無視」
チラ見したラギィは覆面パトカーを蛇行させる。
「こーゆー家族想いの男に限って浮気するのょね」
「人生の数だけ皮肉がアル。ソレだけ偽善者が多いってコトさ」
「その女、"妻"に勝てるとでも思ってるのかしら?」
おや?ラギィらしからぬ発言だ。不倫でも始めたか?
「ずいぶん差別的な発言だな。女だってカラダ目当てカモしれないぞ」
「このブヨブヨな中年男の肉体目当て?」
「ソンな男にハマるのが不倫女の悲しい定めだ」
ラギィは溜め息をつく。
「探偵サンに期待しましょ…はい、ラギィ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ。警部、ヲタッキーズのエアリです。ホテル・アクシオムのフロントにいますが、コッチは望み薄ね。客室係によれば、ホテルの絨毯は半数が廃棄、残りは寄付されルンだって…え、何?」
「ヲタッキーズ、悪いけど彼女がいるンだ」
「と、とにかく、部屋を汚す客はスゴい多いみたい。特にインバウンド」
ホテルのロビーをウイスキー瓶を片手に横切る宿泊客w
「ちょっと、オシッコ」
「ソコにしちまえ」
「おい!ソコは便所じゃナイぞ!」
立ちションベンをそそのかすw
ベルキャプテンが飛んで来る←
「私のスマホ番号は名刺の裏ょ」
イケメンのフロントにニッコリ微笑むエアリ←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
プライベートインベスティゲーター?そんなプレートのついたブルス・カビィのオフィスは東秋葉原の雑居ビルにアル。
ブルスは、昼間から片手にウィスキーグラスw
「飲まないのか?」
「結構ょ。仕事中だから」
「俺も仕事中だ」
ハードボイルドを気取るが…ナゼか笑えるw
「元警官?」
「YES。だが、当時の相棒は2流SF作家じゃなかったぞ。警官と決まってた」
「ソレは、うらやましいわね」←
ココは、一応リターンコール。
「今、2流作家と言ったか?」
「"冷えた銃から音波が飛び出す"…SFは文学とはほど遠い。どんな名作を描いても1流とは言えんな…おい!天体望遠鏡に触るな!仕事用だ」
僕は手を引っ込める。
「何週間ボリン・ジャルの仕事を?」
「2週間ほどだったが楽しんだょ。家族思いの議員が残業だと妻に電話する。しかし、そのわずか20分後、有権者とベッドの中だからな」
「お相手は?」
瞬間、私立探偵の視線が泳ぐ。
「上玉だ。大金はたく価値がアル」
「プロなの?」
「当たり前だろ?あんなカラダの女は、政治家にナンか惚れナイさ」
ホントに羨ましそうだ。ラギィは溜め息。
「手がかりthank you。じゃ彼女の連絡先」
「知らんね。だが、今どきの売春婦は街角には立たない。何でもかんでもネットの時代さ」
「出逢い系?」
ブルスは、PCをクルリと回して僕達に見せる。
「"ヲタクの秘め事.com"…か」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターに黒山の人だかりだw
「すげぇ最高にゴージャスな軽犯罪だな!」
「ハイスペック腐女子との経験は?」
「前の"推し"は高かったな」
そーゆーのは"推し"って逝うのか?
「ストップ!彼女だ。ティフ・ァニィ?」
「見ろょ!最高級だぜ。ちくしょう金さえあればな」
「ほらほら。みんなの給料じゃ秒単位でしか相手してもらえないわょ!仕事に戻って」
ラギィがモニターをバンバン叩くと、集まってた署内男性の約半数は蜘蛛の子を散らすように胡散霧消…逃げ遅れる僕←
「テリィたん、電話番号の登録先は池袋の私書箱だった。今、IPアドレスを調べてるトコロょ」
「でも、IPもD.A.の外ならどーする?」
「所轄と協力スルわ」
僕は小首を傾げる。
「手間取るのは覚悟の上よ。でも、なんとかナル。こーゆー捜査は時間をかけなきゃ」
「しかし、正攻法がアルのに…あ、僕はテリィ。愛情深い男だ。ティフ・ァニィとデートしたい。連絡を待ってる。僕のスマホは…じゃあ頼むょ」
「待って!テリィたん、何したの?売春婦とデートなんてダメょ!」
昭和の教育ママみたいに目が三角のラギィ。
「なんでだょ」
「私達は警官だもの!」
「うーん警官は君だ。僕は寂しい傭兵会社の独身CEO。この方が手っ取り早いだろ?」
ココで声がかかる。もう来たかと思ったら…作業着男子←
「テリィたん様は?」
「あ、僕だょ奥へ頼む。そっちの部屋」
「何なの?」
ますます警戒を強めるラギィ。
「きっと気に入るょ」
「あり得ないわ」
「OK!ソコに置いてくれ。ありがとう。ちょっと待っててくれ。万世橋のみんなの温かいもてなしには感謝しているし、その気持ちを示したかった。ココのエスプレッソマシンが壊れたそうで、ソコで僕からのプレゼント、パーコレーターだ。どーだい?気が利くだろ?」
作業着男子がピカピカのパーコレーターを見せる。
コレでやっとみんなも最高のコーヒーが楽しめる←
あれ?何か微妙な顔だなw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
黄昏に染まるアキバを見下ろし僕達は…玉葱を刻んでるw
「テリィ様、ホテル女王グリィ・ソーンが無実なら、なぜアクシオムの絨毯が?」
「そりゃ警察の目を欺くための目くらましさ。でも、逆に絨毯さえなければ強盗の仕業に見えたのにな」
「逆に私達に手がかりを与えてしまった?」
競泳用メガネをしてミユリさんと玉葱を刻む。
「人間って割と愚かナンだ」
「ところで"愚か"と逝えば、ラギィから聞きましたが、高級コールガールを買われたそうで」
「え。あ、ん?そーだっけ?アレは捜査の一環だし…」
ピンチ?に元カノ会長が飛び込んで来る←
「聞いて!本が売れないワケがわかったわ!"本作は陳腐で平凡な表現のオンパレード。展開もありきたりでワンパターン。目新しいコトがあるとすれば、ソレは著者の才能の枯渇であろう"…ヒド過ぎるわ。でも、胸に刺さる言葉ね」
「"日刊ラノベ通信"?聞いたことナイわ。でも、心配しないで!私が反論を投稿スルから」
「才能の枯渇…才能がアルと逝う前提なのね」
競泳用メガネをヲデコに上げ遠い目をするミユリさん←
「ネット中を探しまくって見つけて来たのか。さすが腕利きハッカーだ。"激レア情報"をありがとな。かなり頑張ったな、スピア」
「半日仕事だった。コレ、愛情表現の1つだから。謙虚であれと教えてるの」
「十分謙虚だょ」
僕の社給スマホが鳴る。
「もしもし、テリィたん」
「どちら様?」
「ティフ・ァニィょ。電話をくれた?」
「あぁ電話したさ。連絡をもらえて感激だ。因みに今、どんな格好…」
その瞬間、ミユリさんの瞳から飛んだデス光線が僕を貫くw
「今から"潜入捜査"だ。後はメイド長に任せる」
包丁で敬礼するミユリさん。怖いw
競泳用メガネをしてソソクサ出発。
背中から声が飛ぶ。
「いってらっしゃいませ、御主人様」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋地下の霊安室。
「ねぇラギィ?」
遺体の確認にやって来たラギィは、心の底から驚くw
振り向くとストレッチャーにミユリさんが座ってる←
変身してナイ。普通のメイド服←
「嫌だ。驚かさないで!」
「遺体より私が怖いの?」
「この部屋では生きてる人とは会わないようにしてる」
もっともだw
「奇遇ね。私もょ」
「ココで何を?」
「いじめないで」
口を尖らすミユリさん。
「なぜテリィたんと過ごさズ、私を飲みに誘うの?」
「テリィ様は、お酒がダメだし、自己中心的だし、おまけに…」
「大好き?」
このタイミングで僕が電話←
「もしもし、ミユリさん?ティフのピックアップレストランは何処が良いと思う?ミユリさんの参考意見を…」
電話は叩き切られるw
第3章 必死の潜入捜査
ホテル・アクシオムの最上階にはスパニッシュラウンジの"シエロ"が入っている。イカスミのパスタが絶品だ。
僕は、国営放送の"赤白歌合戦"の出演時にもらったTシャツにジャケットをひっかけて、カクテルを舐めてる。
「おい!見ろょ!」
「すげぇプロポーション!良い女だな、畜生!」
「あ、ヲタク野郎のテーブルへ行くぞ」
赤のミニワンピに包まれた珠玉の肉体が出現、あろうコトか、僕のテーブルに向かって自信タップリに歩いて来る。
「テリィたん?ティフ・ァニィょ。久しぶり!」
「ティフ?!驚いたな、綺麗になったね」
「私のコト、何年も放っておくからょ」
握手する。彼女にイスを引きながら小声で。
「ホントは初めまして、だね」
「貴方こそ遊び慣れてるのに意外と紳士なのね」
「絶滅危惧種だろ?」
「会えて幸運だわ。素敵な夜にしましょ?」
「同感だわ」←
突然ラギィが現れて…やや?ミユリさんも?しかも、ムーンライトセレナーダーに変身してるぜw勝手に席に座る2人。
「万世橋警察署のラギィ警部ょ」
「私は、ヲタッキーズのムーンライトセレナーダー」
「えっ?!ポリスはともかく、何でSATOが出て来るの?私は"blood type RED"よっ!」
露骨に嫌な顔をして、呪いの視線で僕を睨みつけるティフ。
最高級コールガールの美人顔が台無しだ。心から詫びたい。
「すまない、ティフ・ァニィ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「確かに太客だったけど、誓って言うわ。私は、事件とは無関係ょ!」
「デートの頻度は?」
「週1から2回ね。最初は会話希望だった」
鼻で笑うラギィ。
「会話?アンタ、会話だけであんな高額をふんだくるの?」
「警部さん、ヲタク達は寂しいの。大半のヲタクは、話し相手がいなくて、寂しさからデリ(ヘルw)に走る。お金は絆を感じるための手段だわ…ぎゃ!」
「あ、ごめんなさい。勝手に"雷キネシス"が…で、貴女が最後にホーン議員と"絆"を感じたのはいつ?」
瞬時にティフは黒焦げ…と思ったらそーでもナイw
「数週間前ね。彼は、取り乱してもう私とは会えないと言っていたわ」
「奥さんにバレたのね(いぃ気味ょ)」
「いいえ。ユスられてると言ってたわ。確か盗撮されたとか何とか…」
指先にバチバチと紫の電光を光らせつつ、ミユリさん…じゃなかった、ムーンライトセレナーダーがユックリと尋ねるw
ハッキリ逝って脅迫だ←
「誰に盗撮されてたの?」
「彼も知らなかった。ヒドいうろたえ方で、私がセフレに話したんだろう?って決めつけて…」
「で、話したの?」
ウンザリ顔の質問に毅然と応えるデリヘル嬢。
「警部さん。私にだって夢がアル。そのために働いてるの。ホーン議員との関係が公になれば、私も困るのょ」
「彼は、取り乱して何か言ってなかった?」
「ヒタスラ脅迫相手と取引したがっていたわ」
顔を見合わせるムーンライトセレナーダーとラギィ。
「口止め料を払い続けても、いずれはバレるのに」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
帰りの覆面パトカーでミユリさんとラギィ。
ミユリさんは、変身を解いててメイド服だ。
「政治に買収に脅迫。どんどんテリィ様好みの展開になって逝くわ」
「もし、ホ一ン議員が脅迫犯に会ったらどーなるかしら」
「捨て身のホーン議員に犯人が反撃?」
「そして、音波銃で射殺、必死に死体の隠蔽を図る犯人?」
運転しながらラギィは溜め息をつく。
「ヤッパリ脅迫犯を見つけなきゃ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
電気街口にある対立候補ボリン・ジャルの選挙事務所。
「私は、厳重に写真を保管してたわ」
「失礼ですが、存在さえ知っていれば、画像は盗み出せる。そーゆーモンです。運動員は大勢いますか?」
「事務所に出入りしてるのは300人くらい」
「では、名簿をください」
喰らいつくラギィ。
「まさか取り調べを?投票まで2週間ですょ?コレは選挙妨害だわ」
「でも、貴女の当選は確実なんでしょ?」
「知らないの?ホーン夫人が出馬を決めたわ。同情票が集まって、直ぐに並ばれてしまう」
対立候補ボリン・ジャルは、モニターに画像を出す。
"私達は、悲しみに負けてはいけないのです!家族が見舞われた悲劇を理由に、夫の秋葉原D.A.への情熱を無には出来ません!"
「あの不倫の画像が今、公になれば、彼女には山ほど同情票が集まるわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋への道を疾駆スル覆面パトカー。
「ラギィ。選挙事務所の300人全員に話を聞くつもり?」
「まさか。ソンなコト、しないわ」
「ホーン議員は口止め料を気にしてたのょね?」
ミユリさんは思案顔で続ける。
「ヤッパリ選挙資金から払ってたのかしら」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホーン議員の選挙事務所。同志のスキャンダル画像を食い入るように見るフラク・ネスビ事務局長。悲しげに首を振る。
「まさか、ユスられてたとは」
「選挙資金からの出金はありませんか?」
「家族想いの善良な男だと思っていたのに」
ガックリと肩を落とすフラク・ネスビ。
「誰か、脅迫犯の心当たりは?」
「ありません」←
「選挙資金から口止め料を払っていれば、脅迫犯を特定出来る可能性がアル。帳簿を見せていただけますか?」
「モチロンですとも」
帳簿を取りに立ち上がるネスビ。立ち止まり溜め息をつく。
「警部さん。彼は、確かに過ちを犯しましたが、画像が世に出れば、彼の功績の全てが失われてしまいます。家族の心の傷も大きい」
「ネスビさん。画像は、単なる殺人事件の証拠です。我々は、公表は考えていません」
「ありがとう、警部さん」
しかし、続く言葉に唇を噛む。
「ただし、この手の画像は必ずリークします」
第4章 大好きなSFスーツ
万世橋の捜査本部ギャレー。
「ラテは嫌いか?」
「えぇ大嫌い。で、テリィたん。ジフリ・ホーンだけど、選挙資金の出入りを詳しく調べてみたの」
「おぉエアリ、早いな。ソレで?」
「受取人不明の口座に合計2000万円、振り込んでる」
エアリは、ヲタッキーズの妖精担当だ。メイド服。
「で、口座の持ち主は?」
「ブルス・カビィ」
「え。あの私立探偵が脅迫犯だったのか。前歴は?」
「警官時代に過剰捜査と脅迫で保護観察処分。38口径の音波銃も所持」
「凶器と同じ口径じゃナイか!やった!」
マリレも加わり、メイド2人とコーヒーで乾杯だ。
「生き返るな。良い香りだ」
「まずっ」
「最低だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室。私立探偵ブルス・カビィは怒っている。
「せっかく苦労して撮った画像だ。誰も使わないなら俺が使って何が悪い?」
「違法だし」
「おい!奴は娘みたいな歳の女と寝たんだ。月に代わって風呂敷ょ…あ、お仕置きか」
親父ギャグに顔をしかめるラギィ。
「で、ホーン議員が現れたのね?そして、興奮して貴方を襲って来た。警官上がりの貴方は、難なく殺して絨毯に巻いた?」
「おいおいおい、警部さん!全然違うぜ。確かに奴から連絡があった。でも、縁を切るにはいくら必要かと言う価格交渉だった。ビジネストークだょ」
「それで?」
「試しに2000万円と言ってみたら、大層喜んでホントに用意したらしい。あの夜、俺と会う約束だったが、とうとう現れズじまいさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラー越しの隣の部屋。
「テリィ様。ご意見は?」
「5才児でも、もっとマシな言いワケを考えるょ。でも、だからこそホントはシロって気もスル」
「凶器の音波銃は未だ捜索中です」
僕の周りにミユリさん、エアリ&マリレ。全員メイド服だ。
「ラギィが調書をとる間に金の行方を追おう。話がホントなら、ホーン議員は大金を持っていたハズだ」
「その金の行方もさるコトながら、出所も気になります」
「以前にも大金を工面してくれた人物に頼むハズだ」
頭をヒネる僕達。ブルスはミラー越しに叫ぶ。
「おい!もう帰って良いか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…私達D.A.市民にとって、ホーン議員の死は悲劇でした。しかし、夫人がついに立ち上がったのです。暴力に彼の夢をつぶさせはしナイ。ご紹介しましょう、ロリィ・ホーン!」
事務所前に集まった支持者から拍手が沸き、マスコミが一斉にフラッシュを焚く。
お立ち台に真っ赤なドレスに身を包んだ夫人が上がり、胸に手を当て語りかける。
なかなかのヤリ手だw
「ありがとうございます。本来、今日のこの場には、夫の、あの優しい、柔らかな声が響くハズでした…」
ネスビが僕達を見つけて、群衆を掻き分けやって来る。
「国会議員選挙ではナイので、頼りは個人の献金です」
「かなりの財産家もいるのでしょ?」
「ちゃんと規制があるんです」
屈託の無い笑みを浮かべるネスビ。
「では、規制がなければ、大金を寄付しそうな支持者を御教示いただけませんか?」
「警部さん。失礼ですが、支持者を裏切るような真似は出来かねます。調べたいなら、どーぞ帳簿を見てください。ソレ以上はお応えしかねます」
キッパリ告げるネスビ。その背後で夫人は絶好調で演説中。
「では、質問をお受けします。そちらの方…どうぞ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
スピアが御帰宅スルw
「やぁお仕事は終わったか?」
「えぇ終わったわ」
「じゃあコッチを手伝ってょ?」
次作の執筆前に頼みたい資料のリサーチがアルw
「そうね。報酬によるわ」
「さすがは、僕の元カノ会の会長だ」
「編集のジィナから伝言よ。明日のネット朗読会を忘れないでって。念を推してくださいって」
僕は、溜め息をつく。
「ご丁寧なコッタ」
「もし来なかったら、目ん玉を蜂蜜漬けにして、蟻を放つわって言ってた」
「あのさ。目ん玉に蟻とFJの前の朗読とどっちがマシかな。だって、ホラ"ひどい散文で単調な文章は退屈そのもの"だっけ?」
"太陽系海軍シリーズ"の新刊が不調なのだw
「テリィたん。"BOOK READER"の書評も見るべきね」
「"BOOK READER"?あのリベラリストは何て吠えてる?」
「"テリィたんの最新作は、上質のサスペンスに仕上がっている。誰もが持つ不完全な世界への漠然とした憧れを抱かせ、容易に主人公に自分を重ねられる"だって」
おや?読み込んだ良い書評だな。少しウレしいカモ。
「最近あのメディアが不調なのも納得だ」
「テリィ様。ひねくれ者ね。スピアの自慢の元カレですょ」
「ミユリ姉様、もっと言ってあげて。で、事件は解決?」
カウンターの中と外から話しかけられる僕。
「未だ捜査中だょ…ねぇ。もし大金が必要な問題が起きたら君達ならどうする?」
「モチロン!お金持ちの元カレに頼むわ」
「私は、お金持ちのTOに頼みます」
美人2人に微笑まれ、ふと何かに気づいた僕は御屋敷のPC画面に映る新聞記事"議員の未亡人、出馬へ"を見て呟く。
「お金持ちのTOに相談…か」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けに染まる窓。1人残業していたラギィは、口をへの字に曲げ、ふと周りを見回しマグカップを持ってギャレーへ。
「パーコで淹れたコーヒーか…」
銀ピカのパーコレーターから良い香りが立ち昇る。
ウットリ目を細めて、思わずニンマリするラギィ…
「ラギィ、おはよ」
声をかけられた瞬間、コーヒーをコボすw
「テリィたん!ムーンライトセレナーダーも。どーしたの?寝てないンだけど」
「見てくれ」
「何ょ」
大きく溜め息をつくラギィ。
「コレは、ホーン議員が初出馬した時の記事だ。夫人は資産家の出身で、選挙資金は彼女が家族信託から全額出してる」
「え。ホーン議員は浮気は妻にバレてないと思ってたンじゃナイの?」
「うーん逆の可能性もアル。彼女が全てを知っていたとしたら、話はどうなるかな?口止め料は、資産家の彼女が出した可能性もアル」
そのママ、全員で捜査本部に移動スル。
「ヲタッキーズです。ええ、そうです。口座番号は73788103です。どうも」
スマホを切ったエアリが大声で報告。
「信託会社の夫人の担当に確認が取れました!夫人は先週3000万円相当の株を売りに出したようです!」
「…知っていたのね。マリレ、何?」
「姉様。しかも、その3000万円は、口座から事件直前に引き出されてるわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室。ロリィ・ホーンを召喚。
「2500万円を持って殺されたのに、夫は何も話さなかったのですか?」
「えぇ。何も話しませんでしたわ」
「御主人の殺害と関連性が高いのは明らかですが」
丁寧に畳み掛ける僕。夫人は、アッサリ告白スルw
「娘達にとって、夫は父親なのです。ゴシップネタになれば家族はどんなに傷つくか」
「いつ事情を知りましたか?」
「私の財産の管理担当者が夫が署名した株の売却を確認して来たのです。問い質すと、税金絡みで大金が要る、と夫は言いました。私には難しい話だとも。でも、私にはわかった。私や家族の夢や希望より、彼は若い娘との欲望を大切にしたのだと」
吐き捨てるように語る夫人。
ココまでは計算済みなのか?
「ソレで貴方は?」
「恥をかく位なら脅迫に屈する方がマシだと考えました」
「では、あの夜に何が?」
夫人は、明らかに何かを隠している。
「さあ。存じません」
「最後の電話で御主人は何と言いましたか?」
「現金は受け取った、今から相手に会いに行くと言っていました。ソレが最後です」
確認するラギィ。
「お金は?」
「主人に渡しました」
「変ですね。御自宅で見つかりました」
凍りつく夫人。
「私の家で?」
「今朝、捜索令状が発出されました。家政婦さんが、とても協力的な人で助かりました。御主人に渡したお金が、なぜお宅にあるのでしょう?貴女は逆上したんでしょう?裏切られて恥をかかされ、いっそ死んでもらおうと考えたのではありませんか?」
「…メディアで良く見るの。政治家の妻は辛いわ。不祥事を起こした夫が記者会見に臨む。その隣で、世間の視線を一身に浴びて立ちすくむ妻。私には無理ょ。どんな神経してるの?そんな冷酷な視線の中で、立ち尽くすしかナイなんて」
まるで別人のような夫人がソコにいる。
「だから、殺したの?」
「いいえ。私は家にいたわ。最後の電話で彼に話をした。娘が証言してくれるハズ」
「奥さん。直接的に手を下さなくても、共同謀議は殺人と同罪です。覚悟がおありですか?」
夫人の視線は泳ぎ、助けを求めるように僕を見る。
僕がユックリと首を横に振ると、彼女は告白スル。
「…電話をスルのが私の役目でした。脅迫相手が会う場所を変えたと言い、別の所へ向かわせる。誰にも見られない人気のない新幹線ガード下へ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
第3秋葉原高架橋の下にエアリ&マリレが"舞い降りる"。
「エアリ、壁に銃痕がアルわ」
ガード下のコンクリート柱に銃弾がメリ込んでいる。
エアリが口径を確認スル。マリレは薬莢を見つける。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「準備は、全て"あの人"がしてくれました。私は、電話をすれば良かった。心配ナイと言われました。全て別人の仕業に見せると。"あの人"は、誰にもバレないと言っていたわ」
「奥さん、"あの人"とは誰ですか?」
「こんなハズじゃなかった。私達は、一緒に秋葉原を変える同志だったハズょ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びホーン議員、いや、今では夫人の選挙事務所。
「フラク・ネスビ!殺人容疑で逮捕する!」
「何を…馬鹿なw」
「ロリィ・ホーンが全て自白した、手錠を。貴方には黙秘し私立探偵を呼ぶ権利がアル…」
ラギィに連れられた制服警官が迫る。
支持者を突き飛ばし、逃げるネスビ。
「どけ!どくんだ!」
「あぶない!」
「助けてくれぇ」
イスもテーブルも跳ね飛ばしドアを開けると…
僕とムーンライトセレナーダーが立っているw
「選挙運動は終わりょ。貴方は落選」
「うまいな、ムーンライトセレナーダー」
「さぁ、さっきの続きょ。スキャンダルは選挙において不利な証拠となる可能性がアリ…」
追いついたラギィもウマいコトを逝う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
事件が解決し、捜査本部の解散が決まる。
「ネスビも全面的に自供しました。ホーン議員をガード下に呼び、犯行に及んだとのコトです」
「ネスビにとって、政治が人生の全てだったンだな。骨の髄まで政治の人だった」
「それ故に、スキャンダルは死活問題だと思ったのね」
ラギィとミユリさんと僕。後片付けの進む本部を歩く。
「娘さん達は?」
「乙女ロードに住むホーン議員の姉が引き取るそうょ…結局、あの絨毯は何だったの?」
「捜査を撹乱するための細工さ。良くアル話だ」
僕の解釈に、ラギィは溜め息だ。
「とにかく、今回も御苦労様。あ、ミユリもね」
「ラギィ!」
「冗談ょ。からかっただけ」
ミユリさんを指差し歩き去るラギィ。スマホが鳴る…
「テリィたん、今どこ?」
「あれ?何だっけ?」
「目玉に蟻。今、末広町ステーションから電話してるw」
あ、新刊イベントだたw
「そうだた!スピア、時間を稼げ。直ぐ逝く!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下鉄新幹線の末広町ステーション構内のメトロ書店。
ココがアキバで唯一リアルに新刊が買える書店なのだ。
「"音の無い爆発を目に、暫し息を飲んだ後、彼女は言葉を失う。差し出された副官の手をきつく握りしめる彼女…"」
僕は(イケてないオバサンw)FJ達に見つめられながら"巡洋艦ぱれんばん"の最期を読み上げる。
みんなは僕を見上げて…涙ぐんでいる。すすり泣き、嗚咽を漏らすギッシリ詰まったFJ。壮観だw
今、アキバの"萌え経済"を回しているのは彼女達なのだ。
「"最後に一度、握りしめた。彼女は自分の鼓動を感じ"ぱれんばん"の最期を悟った。暗闇が、太陽系も彼女も闇に包み込む。ちょうど良いわ。太陽風が彼女の髪を束ね上げる。これなら涙を…"ええっ?!」
驚く僕。ハンカチ片手に涙ぐみながら最後のフレーズを待つFJ達の背後から、真っ赤なSFスーツの美女が…
(僕の大好きなw)ヘソ出しセパレートタイプで生脚。ある意味レトロなSFスーツ!僕に直球どストライク!
「"…見られないから。"ありがとう」
サッサと朗読を切り上げる。一斉に立ち上がり、涙ぐみ熱狂的に拍手スルFJ達を掻き分けSFスーツ美女に殺到スル僕…
あ。あれ?ミユリさんだw
「テリィ様、素晴らしい朗読でした。感動したわ」
「ミユリさん?!僕を馬鹿にしてる?」
「"ちょうど良いわ。太陽風が彼女の髪を束ね上げた。涙を見られないから…"。太陽風が髪を束ねるってどーゆーコトですか?」
僕の弱点を知り抜く彼女の言葉の数々w
「なぁ僕の仕事にケチをつけに来たのか?」
「どう?イラつくでしょクスクス」
「あら姉様、メイド服と違って素敵ね。どうしちゃったの?テリィたん、"秋葉原 Review of BOOKs"の記者が新刊を絶賛してたわ。売れ行きも順調だって。やっぱり書評に振り回されちゃダメね」
またまたピンチ?を救うスピアの出現w
「そ、そうだね。気をつけるょ」
「ミュウちゃんにも人気が出て欲しいわ」
「ミュウちゃん?」
首を傾げるSFスーツのミユリさん。
「あら?姉様、知らなかったの?新しいヒロインの名前」
「ミュウ?テリィ様、ちょっちよろしいですか?」
「え?いや、今、ちょっち…」
SFスーツに装備されてる怪力で僕を引っ張るミユリさん。
ニコニコついて来ようとしたスピアは、突き飛ばされるw
「スピア、貴女はダメょ」
「ソンな!面白そうなのに!」
「テリィ様!ミュウって一体どういう名前ですか?まるで潰れた御屋敷のメイド長かストリッパーみたいです」
少なからズ驚く僕。
「実は、そのママだ。新ヒロインは尻軽でエッチなSFスーツって設定で…」
「このコスプレは、テリィ様がお好きかと思って、とっくにアラサーなのに無理して…でも、ヒロインの名前は変えてください」
「嫌だ。でも、タイトルなら工夫スル。献辞も」
ギリギリの条件交渉を仕掛けるw
「ダメです。変えなさい」
「嫌だ。物描きとしての誇りがアル」
「何が誇り?今宵中に変えてください!」
僕とSFスーツのミユリさんは、無邪気に追いかけっこを始める。新刊本が平積みになった店頭の向こうとコチラでね。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"議員"をテーマに、謀殺されるアキバ特別区の議員、その妻、その選挙事務所長、その対立候補、その支援者のホテル王、スキャンダルを彩る高級娼婦、私立探偵、殺人を追う天才ハッカーやヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、ヒロインと警部の女友達関係などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、気候変動の炎暑に焼かれる秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。