誰も、あなたですらも見つけることができないもの
恥ずかしくて心が折れそうでした。
あの後、俺は女王から『今日は疲れているだろう』ということで部屋をもらいそこで一夜を過ごすことになった。
「うへぇ~、こんな広い部屋何に使うんだよ。……うおっ!このベッドすごい柔らかいぞ!なんだこれ!?すげえ~。」
「勇者様、失礼してもよろしいでしょうか。」
「うん?だれだ?」
「このルート国の第一王女のアーネ・デルモ・ドストでございます。」
「だ、第一王女っ!?な、なんでこんなところに第一王女が?」
「母上から勇者様の身の回りの世話するように仰せつかりました。」
「俺の世話ぁ?いや、そんなもんいらないんだが。帰ってくれないか?」
「いえ、そんなわけにもいきません。なにもせずに帰るなど……、母上から信頼されてこの仕事を任されたのに何もしないで帰るだなんて信頼を裏切ることになります。そんなこと私にはとてもじゃないですが……。」
「はあぁ~、わかったよ。好きなようにすれば?俺はもう風呂に入って寝るからまた明日。」
「では、お風呂場まで案内させていただきます。」
「あぁ、それもそうだな。よろしくたのむわ。」
「はい!」
「……」
「勇者様、まずは頭を洗わせていただきますね。」
「いやそのぐらいは……、って!!なんでここにいるんだよ。はずいわっ!」
「?勇者様の体を洗わせていただくためです。」
「??????」
「まあああ、早く体を洗わないと体を冷やしててしまいます。」
「いやいやいや、恥ずかしいし、自分一人で洗えるから。」
「そんなっ!勇者様自らの手を煩わせるなど、母上を悲しませてしまいます。」
「えぇ~、これ俺が悪いのか?普通自分の体は自分で洗うだろ。」
「貴族などは使用人などに体を洗わせたりしてますよ。」
「いや!あんたは王族だろ。」
「フフ、私など勇者様の前では使用人同然ですよ。」
「はあぁ~、どうしてもダメか?」
「どうしてもです。」
「……はあぁ~、わかったよもう好きにしろよ。」
「では……。」
ウォッシュウォッシュ
……この王女様は何を考えてんだ?いや、こいつというよりも女王様のほうが……か?
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お風呂の件から一ヶ月が経った。その間には色んなことがあった。前に俺を迎えに来た騎士の人と模擬戦をしてる時にアーネが乱入してきたり、でかい図書館?みたいな場所も見せてもらった。実を言うと本を読むのはそれなりに好きなのであれだけの本があるの見たときは相当興奮した。ちなみに、アーネは他の騎士と比べてみると相当強かった。そして、未だに風呂にアーネが付いてくる。……正直言ってやめてほしいが言葉による説得はこの一ヶ月で無理と悟った。……俺はそろそろ戦場に向かうことになる。明日にはきっと戦争のど真ん中で戦うことになると思う。
コンッコンッ
「勇者様、よろしいでしょうか。」
「うん?いいぞ。」
「はい、入らせてもらいますね。失礼します。」
「どうしたんだ?なにか用事があるのか?」
「いえ、勇者様は明日には戦いにいくので、その前にお話でもどうかと……。」
「なんだ、そんなことか。俺もアーネと話したいと思ってたんだよ。」
「フフ、嬉しいです。勇者様からそんな風に思ってもらえるだなんて。……この1ヶ月の間に色々ありましたね。」
「そうだな~、アーネには色々振り回された気がするな~。記憶に新しいのだとあの乱闘騒ぎとかだな。あれには本当に驚かされた。」
「あ、あれは忘れてください。……あんなお転婆な姿を見せてしまい、恥ずかしい限りです。」
「恥ずかしい?俺はあのアーネが一番綺麗でかっこよかったと思うぞ。」
「勇者様にそう言ってもらえるなんて……嬉しいです。……ところで、え~っと、……勇者様は、その。」
「……?」
「……女性との経験とか、あったりしますかっ!?」
ん?……んん~??????????じょ、女性との経験っ!?そ、それって、アレか?アレなのか!?なんでそんなこと聞いてくるんだ?……と、とにかく答えないと!
「い、いや~、ないかな。そもそも女の人とあんまりあったこともないからな~。」
「……では勇者様、そうであるなら私で経験していきませんか?」
「は?お、俺が、アーネと?どうしてそうなるんだ?」
「た、単なる初陣記念みたいなものです!戦場に行ってしまえば勇者様少しの間ここから離れてしまうのでその前にと思いまして。……それに、……他の女に先を越されるのは業腹でしたので」
「えっ?」
俺ってアーネにそんな風に思われてたのか?確かに今までにもそんな雰囲気がなかったかと言えば……いや、今はそんなことよりも俺のアーネへの気持ちがどうなのか?だ。俺はこの1ヶ月間アーネのことをどう見てた?大切な友人であることは間違いない。けど、一人の女の人として見てたか?
「……アーネ。」
「はい。」
「俺は……、アーネとどうこうなるなんて考えたことがないし、これから先もそんな風に思えるか分からない。だからこそ今はそのことに返事が出来ない。」
「……」
「本当にすまないと思ってる。それでも俺は……。」
「フフ」
「な、なんだ」
「いえ、勇者様らしいな、と。嬉しくなっただけです。」
「……」
「ですが!たとえ、そういうことが無理でも一緒に眠ることぐらいは許していただけませんか?」
「そ、それは……。」
「勇者様」
「……はあ~わかったよ。」
……こうして布団の中に2人で入ってみるとまだ爺さんと2人でいた時のことを思い出すな。あそこから出てまだ一ヶ月しかたってないけど、もう何年も経ったような気がする。戦場に出るのも最初はいやいやだったのに最近になるにつれその感覚が薄れてきて、むしろ「俺が行かなくてどうする」という感覚が強くなっている。きっとこの一ヶ月で俺も変わってきてるんだろう。喋り方も随分と大人らしくなったと、自分のことながらそう思ってしまう。
「勇者様、こんなに可愛い女の子が近くにいるのに考え事ですか?」
「いや、この一ヶ月色んな事があったな、って思って。」
「ああ、山から来たので尚更そう感じるのでしょうね。」
「そうだな、山とここでは全然違うからなぁ。あの時からすると想像もつかないようなことばかりだよ。……ところでなんだけどアーネは俺のどこが好きになったの?」
「?私は勇者様が勇者様だから好きになったんですよ、勇者様。」
「……ありがとう。」
「フフッ、魔族なんか早く殺して帰ってきてくださいね、勇者様。」
「えっ?……あ、ああ早く帰れるように頑張るよ。」
……寝れない。
スースー
アーネはもう寝ている。……おかしい、本当におかしい。さっきから怖くてたまらない。明日が怖い。俺が怖いわけがない。なのに怖い体がこわばってしかたがない。自分の身体のはずなのに思うように動いてくれないし、今までどうやって身体を動かして動かしていたのかも思い出せない。
「はーっはーっはーっ」
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、…………………………………………………………