見つけた失くしもの
処女作です。お手柔らかにお願いします。
『俺って何だったんだ?』
『俺が生まれた意味は?』
『どれだけ考えてもその答えは出ない。』
『誰も俺を知らないし見もしない。』
『俺はいったいどこにいるんだ?』
『逃げれないし、逃げる気力もない。』
『今日も俺は誰かが俺を殺してくれることを願ってる。』
『ずっと意味を理解することなく戦い続けてる。けど、今日もまた行かなくちゃならない。勇者のもとに』
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〈???が勇者に即位しました〉
「おい!貴様ら、たった今、勇者様が誕生した。早急に見つけ出し、保護するのだ。」
「っ!?……そ、それは誠ですか?そうであるならば勇者様はいったいどこに……。」
「だまれっ!つべこべ言わずにとっとと探しに行かんか。勇者様にならされる御方の魔力は特殊なために一目見れば直ぐに分かる。理解ったなら早く探しに行け!」
「は、はい。探しに行ってまいります。」
タッタッ
近隣の村に馬を走らせろ……。一人一人の魔力を調べ、勇者様を探すのだ……。急げ急げ……。いったい誰を動かせば……。誰でも構わん動かされるものはみな動かさせよ……。
「勇者様が生まれた、か。つまりは、魔王も生まれたということ。これから先の世界は戦ごとも多くなるだろうな。まったく、忌まわしき魔族どもめ今度こそ滅ぼしてくれるわ。」
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〈???が魔王に即位しました〉
「あぁ、我らが魔王様が今、誕生なされた。必ずや魔王様は人間どもを根絶やしにしてくださるだろう。なれば、我らも魔王様に追随せねば。」
「おぉ、我らが魔王さまが……。早速迎えに行かねば。」
「ああ。頼んだ。速やかに連れてくるのだ。魔王様には早く力を身につけてもらわなければならないからな。」
「はっ!付与魔法《付羽浮渡》。」
「……今度こそは魔王様には人間どもを滅ぼしていただなければ。我らはそれにただついづいするのみ。必ずや魔王様は我らの悲願を果たしてくださるはずだ。」
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オギャャ~
「むっ、あれは……いったいどうしてこんなところに赤子がおるのじゃ。父親や母親はおるのかのぉ。魔法《ディメンション・シー》。うむ、人っ子一人おらんの。捨て子になるんかの~。……しばらく面倒でもみてやるとするかの!」
キャッキャッ
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「俺が爺さんに拾われてかれこれ18年ぐらいか。」
あれから色々あったな剣とか魔法も教えてもらったし、誕生日も祝ってもらった。ほんとにもらってばかりだったな……。結局なにも返せないまま。
ふぅ~、それにしてもこれからどうしようかなぁ。爺さんと同じように旅でもしてみようかな?……うんっ、そうするか。
「そうと決まれば早速準備だっ!」
いやぁ~、爺さんと同じように旅に出るだなんて楽しみだな。爺さんも若い頃は色んなとこに行ってらしいから、そこを辿るように動いてみるか。確か、倉庫に爺さんの旅してた頃に持ち歩いてたものがあったような……おっ、あったあった。
「うっしっ、準備終了。先ずはどこに行こうかな。地図によると……おっ、この“神聖国 ルート”っていうのが近いな……。それでもこんな山奥からだとどこも遠いんだけどな。とりあえず、これで最初の行き先は決まりだな。この後は行ってから決めるか。」
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「へえ~、これが神聖国ルートか。人がたくさんいるし、お店も多いな。それに夜なのにすごい明るいし、……ちょっと何か食べてみるか。おっちゃん、そこのやつ一つ買わせてくれ。」
「おっ、毎度あり。ちょっと待ってろ……。ほらよ銅貨10枚だ。」
「ありがとう、おっちゃん。俺、田舎のほうから来たんだけど……都会って賑やかなんだな。」
「そりゃそうだろうよ。勇者様が生まれてから18年まったく見つかってなくて教会が躍起になってるからな。魔族側とのにらみ合ってる現状を変えるために教会が勇者を見つけたものには報奨も与えるって話をしてな、それから色んなやつが勇者を探すためにうごいてるんだよ。おかげで繫盛してるよ。」
「ヘ~、そんなことになってたんだな。知らなかったよ。」
「知らなかったって、そんなことすら知らないなんてとんだど田舎から来たんだな?」
「まあ、そんなところだ。とにかく色々ありがとな、また今度。」
「おう、またな。きいつけてな。」
いやあ~、いい話が聞けたな。勇者か~、強いんだろうなあ、戦ってみたいなあ。まっ、とにかく今夜は爺さんの旅について書いてあった日記帳にある宿屋ってのに泊まって、もう寝るか。え~っと宿屋は~っと……。
「お、おっちゃーん。」
「ど、どうしたんだ、そんなすぐ戻ってきて!?」
「や、宿屋ってどこにあるんだ?」
「お前……、そんなことかよ」
そんなあきれないでもらいたい。忘れたもん仕方のないことだとおれは思う。そう俺は心の中で思いながらおっちゃんから宿屋の場所を教えてもらった。……ほんっとに恥ずかしぃ。
「ふぁーっ、よく寝た。よっと。」
トンっ
「いやぁ~今日もいい天気だな。ん?なんか外が騒がしいな。祭りか?」
ガチャッ
おぉ、勇者様だ……。なんて凛々しい姿だ……。素敵だわぁ~……。彼があの伝説の……。
「ゆ、勇者?お、俺がか?いったいなんでこんなことになってんだよ。」
トントン
「勇者様、お忙しいところ失礼致します。」
「っ、あんた、誰だ?何しに来やがった?」
「はい、我らは勇者様を迎えに来た所存でございます。」
「迎え?どういうことだ?」
「お忙しいところ承知の上で勇者様には我らの女王陛下に会っていただきたいのです。」
ほんとにどういうことだ?俺が勇者ってのもわけわかんねえし、挙句の果てには王様に会えって?人違いか?いや、だとしても……。
「ほんとに……俺が勇者なのか?」
「はい。間違いありません。その魔力が何よりの証拠です。つい昨晩、勇者様の魔力を神官達が探知し、ここに参りました。」
「……そうか、え~っと、出迎え、ありがとよ。俺も一度王様ってのには会ってみたかったんだよ。よろしく頼む。」
「はっ!仰せのままに。」
何がどうなってんのかよくわかんねえが、行くだけ行ってみて向こうでどうするか決めるか。はぁ~あ、もっと色々な店に周りたかったんだけど……また今度にするか。
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「エルザ・デルモ・ドスト女王陛下、勇者様をお連れしました。」
「そうか、さがってよいぞ。」
へえ~これが城の中か、遠くから見てもでかいと分かる大きさだったけど入ってみるととてつもなく広いのがよく分かるな。
カツッ、カツッ
……まあ、今はこっちに集中だな。
「勇者様、遠くから遠慮遥々ようこそおいでなさった。私たちは貴方様のことを歓迎しますよ。」
「……そんなかしこまられても困るんだが。……あんたはこの国の女王様じゃないのか?」
「そんなに警戒なさらないでください。勇者様という立場はたかだか一国の王である私などよりも遥かに偉い立場であらせらるのですから、こちら側から勇者様へ害することはあり得ませんよ。」
「俺がかっ!?」
「はい、そうでございます。」
国の長である女王様よりも勇者っていうのは偉いのか。……勇者っていうのはいったいなんなんだ?こんなぽっと出のおれでも女王より権力が上?なんの冗談だよっ……。
それから20分ほど女王の話を聞いていたが要約すると、勇者というの神様が決めたもので魔族を滅ぼす為に選ばれる人間らしい。勇者は神の使いって、ことになるので人間の中で一番権力があることになる。そして、俺は近々勇者として魔族との戦争に駆り出されることになるそうだ。
……その時の女王様の顔は輝いて、清々しさを感じるものだった。……俺はこれから先あの顔が忘れられないものになるような気がした。
あの……あの顔は、これから一つの種族を滅ぼそうとする人の顔ではなかった。