コレットちゃん(勇者として)地上に降り立つ
私は地上に戻された。
そう、コレットの姿のまま。
え、元の姿に戻してくれるんじゃないの?
戻った場所の例のクマの前ではなく、石造りの部屋の中だった。
肌寒い。
自分がコレットの姿のままだと知って私は落胆した。
しかし、鼻血は止まっており、多分青たんも無くなっているんだろう。
体の痛みの嘘のように消えていた。
「10歳女児に魔王を倒せってか。しかもヒーラーだぞ。こんなの無理ゲーだろ・・・」
ガックリ。
町で前衛を募って支援に徹するしかない。
少しでもサボったらあの凶悪な火の女神に吊るしあげられてまた焼き土下座かもしれない。
あの苦痛を思い出して身震いした。
石造りの部屋を調べてみる。
8m四方の部屋は高さ3m程度だった。
重たい石の扉のついた出入り口が一つあったが、もちろん10才女児の体で動かせそうにはない。
扉の脇には何かの仕掛けがあるのか小さな窓が付いていた。
小さな窓からのぞき込むと巨大な牙の生えた5mくらいのトラが吠え掛かってきて思わずしりもちをつく。
勇者になってからステータス画面が確認できるようになっていたが、
自分のは
名前:コレット 10才 人族
Lv1
HP 4
MP 100
STR 2
DEX 4
AGI 4
INT 8
スキル
無し
加護
土の女神の加護
水の女神の加護
月の女神の加護
外にいるでっかいトラを見てみる
ケイブサーベルタイガー Lv35
うん、いきなり無理ゲーだ。
ここで餓死するか外に出られたとしてもでっかいトラに食べられるかの二択だ。
まかり間違って逃げられたとしても、無事に外に出られるとは思えなかった。
しかし、私の考えは杞憂だった。
こんなところに人が来たのだ。
一行は冒険者らしきパーティー六人組だった。
先頭は黒髪、茶色い目の日本人たった。
そして、ドワーフの戦士が一人、
皮鎧を着た軽装の女戦士が一人
魔法使いの男が一人
ローブを来て杖を持った恐らくヒーラーの男が一人
弓を持った女が一人
こちらは耳が長いのでエルフだろう。
外のトラを軽く倒してきたので恐らくはかなり強いパーティーだろう。
少なくとも今の自分よりは。
「あなたは誰ですか?」
「君はコレットちゃんだね?」
「はい、そうです。」
「太陽の女神様に頼まれて助けに来たよ。僕は三上雄介、武の勇者だ。」
一応、あの凶悪な女神たちは私のことを見捨てていなかったようだ。
「私はコレットと申します。
あの・・・10才です。」
[癒しの勇者]であることは伏せておいた。
ドワーフの戦士が言う
「全く女神様もこんなところまで人助けとは人使いが荒いのう」
「こんなところに女の子、それも子供って怪しすぎるでしょ。
悪魔じゃないでしょうね。」
真っ赤な髪の軽装の女戦士がそう言った。
多分コイツはあの凶暴な焼き土下座の女神の信徒だろう。
長身の僧侶が聞いてきた。
「申し訳ありませんが、ディテクト・イービルの魔法を掛けさせていただいてもよろしいですか?
ミス・コレット」
「はい、構いません。」
ディテクト・イービルとは魔族や邪悪な意思を持つ者の正体を看破する魔法だが、ゲームでは当然名前だけの魔法だった。
六女神を信仰する僧侶ならば、誰でも使えたはずだ。
僧侶が呪文を唱えると体が青く光った。
「人族です。
間違いありません。
それどころが彼女は相当強い加護を戴いているようです。」
ミカミ以外の全員が跪く。
僧侶が平伏したまま聞いてきた
「よろしければミス・コレット。
どちらの女神様の加護を戴いているのか教えていただけますか?」
「それは・・・どうしても言わなくてはいけないでしょうか?」
「強制はしませんが、私たちも命の危険を冒してここまで来たのです。
出来れば教えていただければ幸いです。
ミカミも発言する
「コレットちゃん。出来れば教えてもらえるかな?
僕らもここに来るのに神殿やあちこちの国からかなりの支援をいただいているんだ。」
「月の女神様、水の女神様、土の女神様です。」
「おお・・・・」
全員がどよめく。
僧侶がまた質問してくる
「失礼ですが、コレット様は[勇者様]でしょうか?」
ミカミを見ると頷く
「はい、六女神様と天界で直接お会いして、世界を救うように天啓を受けました。
加護はその際にお預かりしたのものです。
女神様によると私は[癒しの勇者]だそうです。」
「おお・・・」
「おい、月の女神様の加護って珍しいな」
「土の女神様の加護もなかなか見ないぞ」
ドワーフの戦士が前に出て跪く。
「土の女神様の信徒、ドワーフ族の戦士、ギムです。
コレット様のために祈らせていただいてよいでしょうか?」
「赦します。あなたに土の女神さまの祝福を」
そうして祈りを捧げると、ギムの体に土色の光の粒子が降り注いだ。
「おお、有難き幸せ」
スキル「女神の寵愛(土)を覚えました」
頭の中に声が鳴り響く。
男性とも女性ともつかない不思議な声だった。
スキル:女神の寵愛(土)
土の女神の恩寵で従者のステータスアップ。HP回復速度上昇
効果:土の女神の信徒(中)、それ以外(小)
僧侶が質問する
「コレット様。失礼ですが、あなたのレベルはいくつでしょうか?」
「申し訳ございません。私は今日、勇者として目覚めました。レベルは1です。」
「いえ、そんなことはございません。
[癒しの勇者]様とあっては何としても6女神の神殿までお届けしなくては」
ミカミが発言した
「レベル1でギムにあんな加護が与えられるのかい?
聞いたこと無いな。
規格外だ。」
「今ので覚えたみたいです。
今の加護も初めて使いました。」
おお・・・・
全員が口々に喜びの表情で女神に祈りをささげていた。
僧侶が口を開いた「詳しいことは神殿に戻らなくては分かりませんが、恐らく、癒しの力の他、従者の力を高める加護をお持ちなのでしょう。
私は教会ではそれなりの地位にありますので、様々な記録を閲覧していますが、ここまで強力な加護は歴史上聞いたことがありません。」
「火の女神様からは戦闘能力がほとんどないとても弱い勇者なので十分注意するように言われました。」
焼き土下座の女神からは「ハズレ勇者」とまで言われたのだがもちろんそんな余計なことは言わないでおく。
ここにいるミカミ以外の信心深い5人に聞かせたら卒倒しそうだ。
「なるほど、従者に与える恩寵が強力な分、ご自身はあまり強力な力は使えないのですね。
これは神殿でも物議を醸しそうな力です。
今まで勇者様と言うとご自身が強力な力を持つ方ばかりだったのですが。」
そう言ってチラリとミカミの方を見た。
ミカミもかなり強力な力を持つ勇者なのだろう。
「あとは地上に帰ってからにしよう。
いつまでもこんな魔物がうようよいる場所に勇者とは言え、10才の少女をおいておくわけにはいくまい?」
6人に連れられて部屋の外に出る。
何でもここは古の神殿と呼ばれる地下迷宮だそうだ。
6人はかなり強く、殆ど苦戦することなく外に出ることができた。
道中話を聞いたが、ミカミはかなりの長身でイケメン、元はK大学在学中の学生で親も金持ちだったそうだ。
いるんだよなあ。
こういう二物も三物も持っている奴。
180cm以上の上背とスポーツ万能で人当たりも良い。
こちらに来てからも女にモテモテらしい。
歴代の勇者の中でも五本の指に入るくらいの実力との事だった。
思わず嫉妬を覚えるが10才女児の体では敵うわけもなく、それどころか勝負にすらなってない。
少なくともミカミの方は私のことを単なる保護対象としか思ってない。
段差の大きなところや少し荒れた場所などではお姫様抱っこして運んでくれる。
どうやら、赤髪の女戦士はミカミに惚れているらしく、お姫様抱っこされているとキツイ目で睨んでくる。
子供相手に嫉妬しないでほしい。
こちらのことも聞かれたが、親を殺された孤児に転生して魔物に食べられる寸前に女神に助けられて勇者になったと言ったらそれ以降は何も聞いて来なくなった。