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ブラック女神の折檻に屈して勇者になる

俺たちは社会の最下層の厄介者だった。


しかもそのまま行けば娼婦直行コースだ。

この世界の文明レベルは中世くらいで、魔法があるので多少元の世界の中世よりは進んではいるが、女性の地位は押しなべて低い。

娼婦になることを拒んでもさらわれて娼館に売られるのがオチだろう。


このような生活を続けて6年。

既に10才になっていた。

体は少しずつ丸みを帯び、段々女性らしくなっていた。

俺はなんとか脱出の機会をうかがっていたが、蓄えなんて出来るわけもなく、毎日花を売って腹を空かせながら食うや食わずの生活を続けていた。

エミリさんは2年前に娼館に買われていった。


そんなある日、魔物の暴走があった。

魔物の暴走とは突然集団ヒステリー状態になって一斉に町に向かって行進してくることだ。

ヴェスパリアは領都なのでかなり頑丈な防壁に囲まれている。

門を閉ざして魔物が通り過ぎるのを待てば町の住民の安全は問題なかった。

そう、「町の住人なら」だ。


血に飢えた魔物たちは真っ先にバラック街の住人に襲い掛かった。

大人たちは町の入り口の門に殺到したが、門が開かれることは無かった。

城壁の上の兵士たちは感情の消えた目で難民を見ていた。


孤児の仲間たちも次々と魔物に食べられていき、俺も必死で逃げ回った。


俺は必死に巨大なクマの魔物から逃げ回っていたが、転んで倒れた。

もうだめだ、と思った。


その瞬間、景色が突然あの白い世界に変わった。

転んで倒れた俺の前には6人の女神が居た。


「おやおや、これはこれはお懐かしいコレットちゃんじゃないか」

あの火の女神がきつい目でこちらを睨んでいた。

他の5人の女神は黙って見ている。


「女神の加護の無い異世界体験はどうだった?あれだけご立派な講釈垂れてたんだ、楽しんでもらっているよなあ?」


俺は茫然として火の女神を見上げていた


「このままいくとお前はあのクマの魔物に生きながら食われる。

あのクマの魔物は残酷だぞぉ。

獲物をいたぶってから生かしたまま貪り食らうんだ。

お前は一時間くらい苦しんだあと、食い殺される。」


「それを教えた上で聞いてやる。

あのクソ生意気な講釈をもう一回垂れてみろ」


随分な物言いだが、この時俺の頭にあったのは死にたくないという思いだけだった。


「申し訳ありませんでした。

2度と女神さまに逆らいませんので助けてください。」


「駄目だ。お前は死ね。

死んでも生き返らせて今度は娼婦の人生を歩ませてやる。

そして大人になる前に性病で苦しんで苦しんで死ぬ。」


「お願いします許してください。グスッ」

何度も地に頭をこすりつけて俺は幼女の姿で泣いて土下座しながら懇願した。

プライドもへったくれもない。



火の女神は俺の頭を靴のかかとで踏みにじった。

靴は真っ赤なピンヒールだ。

グリグリと踏みにじられる。

20代の女性が土下座する10才の幼女の頭をヒールのかかとで踏みにじる

なかなかにヤバい絵面だ。

しかし苛烈な火の女神は全く躊躇がない。

他の5人の女神も黙って見ているだけだ。

痛い。


みんなもネット弁慶などやってもいいことは何もない。

幼女の姿で気の強い女神にハイヒールで頭を踏みにじられたくなかったら止めた方がいい。


俺は今までネットチンピラの教祖、論破王まろゆきさんを信奉していたが、今日から六女神様を信奉することに決めた。

「ハイ、論破ー」

俺はまろゆきさんのこのキメ台詞にしびれていたが、ここでは何の役にも立たない。



「お前の元居た世界には焼き土下座ってあったよな?

知ってるか?

本当に済まないと思っているならやってみろ。」

火の女神が腕を振るうと、真っ赤に焼けた鉄板の上に煮えたぎった油が引かれていた。


俺は迷わず、その上に乗って土下座した。

激しい痛み、熱さと、ジュウとという音と自分の肉が焦げる匂いがした。

「うぎぃぃぃぃぃぃぃ」

俺は焼けどの痛みと熱さで泣き叫ぶ。


しかし、必死で痛みに耐え、謝罪する。

許してもらえなかったらまたあのクマの前に放り出されて餌にされて、生きたまま食われるのだ。

あのクマの魔物からすれば、こんがりと油で揚げられて食べごろかもしれない。

「申し訳ありませんでした。」

俺は何度も何度も焼ける鉄板の上で額を打ち付けた。

この後100億マルカ借金させられて鉱山で強制労働でもさせられるのだろうか?

俺は恐怖に震えた。

どこかに俺を乗せて逃がしてくれる希望(エスポワール)の船は無いだろうか?



それを暫くニヤニヤと笑ってみていた火の女神が腕を振るう。

すると、焼き土下座の鉄板がなくなり、激しくやけどしたはずの体も治っていた。


「ちったあ素直になったみたいだな。」

火の女神が太陽の女神の方を見る。


「それでは話を続けましょう。

まず、あなたの意思を確認させてください。

異世界の勇者となり、世界を救うために力を貸してくれますか?」


俺は土下座したまま、迷わずに言った。

「女神さまの仰せのままに」


「ちょっと薬が効きすぎたかしら。素直になってくれてとっても嬉しいわ。」

にっこりと笑う。まさに悪魔の微笑みだ。


「残念なお知らせです。実は異世界の勇者はあなたを含めて3人。

先着順で加護を渡していたのですが、あなたが楽しい楽しい異世界ライフを送っている間に残りの二人が先に加護を決めて旅立ってしまったの。本来であればあなたが一番最初だったのだけれども、とっても申し訳なく思うわ。」

獲物をいたぶって子供に狩りの仕方を教える肉食獣のようにいたずらっぽく笑う。


火の女神が土下座したままの俺の髪の毛を掴んで顔を引き上げいう。

「要するに一番ハズレの加護しか残ってねえんだよ。」


「戴けるので、あればどんな加護でも文句は言いません」

俺は額を地面にこすりつけて土下座したまま顔を上げずに女神たちにそう言った。


「そう言ってもらえると助かるわ。アクエリア、アーシア」


水の女神と土の女神がやってくる


水の女神が言う

「あなたは[癒しの勇者]として地上に降りていただきます。私とアーシアが加護を与えます。」


「有難き幸せ」


「申し訳ないのですが、[癒しの勇者]には戦闘能力はほとんどありません。一般人と殆ど変わりません。」


「謹んでお受けします。」


「それと地上に降りた勇者には漏れなく太陽の女神の加護が付くのですが、残念ながら、あなたは一度、勇者になることを拒否したので太陽の女神の加護は与えられません。

代わりに月の女神の加護が付きます。」


火の女神が意地悪な声で俺に言う

「月の女神は地上にほとんど干渉しねえ。要するに戦いに役に立つ加護はなーんにもないって事だ。

な、ハズレ勇者君。」

火の女神は全く容赦がなく、10才の幼女姿の俺に時々つま先で思いっ切り蹴りを入れてくる。

子供に対する仕打ちではない。かなり痛い。

そのたびに俺は蹴られたサッカーボールのように土下座の姿勢を崩して転がるが、女神の怒りに触れればまたクマの餌か焼き土下座させられるかもしれないという恐怖に駆られて、必死に土下座の姿勢を取り続けた


「戴けるだけで充分です。」


「おーおー、素直になっちゃって。これに懲りたら以降は自らの分をわきまえろ。」

そう言って顔や横腹にグリグリとつま先をねじりこむ。

痛い。


女神の話が終わるころには俺の顔は青たんだらけ、鼻血が出ていた。

顔は涙と鼻水でくしゃくしゃだ。


最後に太陽の女神が言った。

「何か意地悪をしてしまったみたいで申し訳ないわ。

あとはよろしく頼むわね。

それでは地上に戻すわよ」

太陽の女神は火の女神と違ってストレートに感情を表さない。

とっても良い笑顔をしていたが、絶対に怒り狂っている。

この事務的な冷たい対応は明らかに人選を間違ったと思っている証拠だろう。


誰か、こいつらを児童虐待で訴えてくれないだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] コレットちゃん不憫だけどかわいい。 火の女神クズすぎだろ。 全員はむりでも火の女神だけは ぶっ殺してほしい。
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