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異世界での厳しい生活

仕方なく、城壁に沿って右回りでトボトボと歩いていると、左側の城壁から少し離れたところにバラックが並んでいる。

かなりの規模で、少なくとも100や200ではない。


バラック街を暫く歩いてみると、ここは難民キャンプであることが分かった。。

なぜこんなに難民がいるのかは解らなかったが、同じ境遇の人たちがこれだけいるならばなんとかなるかもしれない。

そう思った。


しかし、それは一瞬だけだった。

今の自分は何の力もない子供だ。

一人では自分の食い扶持を稼ぐこともままならないだろう。


やがて空腹と疲れで動くのがおっくうになり、バラック街の外れの森との境目の木の根元でしゃがみこんだ。


近くにはバラック街の住人が生活水として使っている小川があったので、自分の姿を映してみた。


想像よりかなり幼い。

年の頃は4才くらい、髪の色は黒だが、瞳の色は特徴的な銀色だった。

顔立ちはアジア系ではない。

子供なのであどけなさが強いが、成長したらかなり美人になると思う。

水を飲むと少し落ち着いたが相変わらず空腹と疲労感は強かった。


バラック街の外れから行き交う人々を見ていると、10-12才くらいの小さな男の子が話しかけてきた。


「おいお前。」


俺は力なく男の子のぼうを見た。


「お前、親は?」


返事をする気力もなく、首を横に振る


「お前も孤児か、俺のグループに入れてやる。来い。」


そうして俺は運がいいのか悪いのか解らなかったが、とある孤児のグループに入った。

孤児のグループはバラック街にいくつか存在する。

かなり数は多いが1グループ20人ほどだった。

なんでも20人を越えると、食っていくのが難しくなったり、仲間割れして分裂してしまうらしい。

少しでも食べられる虫やネズミ、雑草などを食べて食いつないでいるらしかった。

とんでないところに来たものだ。

食い扶持を稼ぐ方法はいくつかあり、男の子はお使いや荷物番、荷運び、森に入って食べられるものを探す。

女の子も森に入って食べられるものを探すのと、下水道から通じる裏道から町の中に入って森で摘んできた花を売る仕事があるらしい。

俺は見た目が可愛いとの事で次の日から花を売る仕事をやることになった。

どうも花売りの仕事に使えそうなのでスカウトされたようだ。


花売りの仕事は俺の他に3人いて、一番年長の少女であるエミリがやり方を教えてくれた。

しかし、やり方と言っても何の知識も力もない子供の商いだ。

単にゴミ捨て場に落ちている適当な籠を見つけてきて、積んだ花を入れ、町の中でお金を持っていそうな人に哀れっぽく「買ってください」というだけだ。

町の中に入る下水道の裏道には門番が居て、金を取られる。

別に誰かに許可をもらっているわけではなく、勝手にやっているようだが、暴力では大人にはかなわない孤児たちは大人しく払うしかなかった。


エミリと3人に連れられてゴミ捨て場で適当な籠を拾ってきた俺は森に行って花を摘む。


「コレットちゃん。これとこれは探すの大変だけど、売れやすいわよ」


「わかりましゅた。」

噛んだ。


他の2人ももくもくと花を摘む


そうして籠を何とか一杯にすると、下水道の裏道に行く。


柄の悪い男が二人いて孤児たちからお金を取っていた。


少し発育のいい女の子の胸を触ったり、ふとももを触ったり最低のクズだった。

エミリも男たちに体を触られていた。

裏道を抜ける。エミリの顔を見ると涙が少し滲んでいた。


「なんでもないの。大丈夫よコレットちゃん」

俺はエミリに手を引かれて町の中に入った。


町の中は別世界だった。

街を歩いている人たちはキチンとした身なりで、整った家や商店街が立ち並ぶ。

綺麗に整備された公園まであった。

お上りさんよろしく、街の景色に見とれているとエミリに手を引かれてお得意様のところに連れていかれた。

まず最初に町はずれの少しさびれた場所の宿屋が集まっているところに行くと必ず花を買ってくれるそうだ。

よく見るとそこは娼館だった。


こうやって、将来の娼婦である孤児の少女たちの品定めをしているのだろう。

少しばかりお金をやれば、貧しい少女たちが噂を聞きつけて自分からやってくる。


看板を見ると「妖精の帳」とあった。

神様のチート能力なのかどうかは解らないがこの体、この世界の読み書きと計算が出来るようだった。


おかみさんに挨拶させられる


「コレットちゃん、おかみさんに挨拶して」


「新しく入ったコレットです。よろしくお願いしましゅ。」

また噛んだ。


「おお、これはこれは可愛い子だね。ヨシヨシ、今日だけこの子のバスケット全部買ってあげるよ。」


エミリと他の2人が歓声を上げる。


「いいかい、エミリ、この子は他の娼館には見せるんじゃないよ。その代わり次からもお前たちの籠の花の半分は買ってやる。」


「解りました。やった。凄いわコレットちゃん」

エミリが俺に抱き着いてくる。


「ほら、おかみさんにお礼を言って」


「ご主人様、ありがとうございましゅ。」

また噛んだ。

俺は見よう見まねで外国の映画で女性がやっていたカーテシーと言うものをやってみた。

他の3人はキョトンとした顔をしている。


おかみさんは少し眉を顰めると

「ふーん、結構訳ありみたいだね。いいかい、他の店には見せるんじゃないよ。エミリ」


「解りました。ありがとうございます。おかみさん。」


要するにこれは娼婦の青田買いだ。

育ち具合にもよるが、10才から12才になると女の子はこの宿屋で娼婦になって口減らしするのが孤児の少女の定番コースらしかった。

俺は4才だから、あと6-8年で自立して難民街から脱出しないと娼婦確定と言うことだ。

冗談ではない。何とかして脱出しなければ。


娼館ではある程度花を買ってくれるものの全部ではない。

残りは自力で売らなければならないが、これが売れないの何の。


殆どの町の住人は難民を蛇蝎の如く嫌っているので、小さな女の子でも蹴り飛ばされることが普通にあった。


「旦那様。綺麗なお花は要りませんか?」


「要らねえよ。ゴミ溜めに帰れや。」


「若旦那様、綺麗なお花は要りませんか?」


「10年後に君が春を売ってたら買ってあげるよ。」


男はニヤニヤして笑いながら、去っていった。

他の3人は意味が解ってないようだが、意味が理解できる俺にとってははらわたが煮えくりかえるほど頭に来た。しかし、何の力もない孤児なので黙って愛想笑いするしかない。


そうやって俺は、孤児の仲間とともに苦しい生活を始めた。

毎日腹ペコで、動くのも億劫だが、愛想笑いを浮かべながら町の住人に花を売る。


男の子の定番は荷物持ちやお使いだが、冒険者に雇われることもあった。

中には難民の孤児を囮にしたりモンスターに特攻させて使い捨てにしたりすることもあるようだが、ここではほとんど黙認されていた。


そのため、孤児たちは成人することは稀で殆どが子供のうちに死んでしまう。


俺を拾ってきた男の子も2か月後に死んだ。


孤児のグループが新顔をスカウトするのは孤児の死亡率が高いため、常に勧誘していないとあっという間に人数が減ってしまうのも理由の一つだった。


しかし、孤児の仕事の中でも花売りは恵まれているほうだと言われていた。


毎日が過酷過ぎて長いこと確認するのを忘れていたが、この町はヴェスパー伯領、領都ヴェスパリアというらしかった。

孤児たちと生活を始めてから半年後に初めて知った。

地図などは出回ってないらしく、ヴェスパーの周辺にはどんな町があるのかは全くわからなかった。

学の無い孤児の集まりだ。

そういった情報は持っていなかった。


何でも魔物の襲来を受けて隣国や付近の村々が多数壊滅し、大量の難民が流れ込んできているようだった。

最初は受け入れていたがあまりに数が多すぎて今では町の外にバラック街を作って住んでいる。

本当はいけないらしいが、どうしようもないので黙認されているとのこと。

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