ゴブリンをやっつけろ!1
鍛錬を開始して1週間、私はレベル3になっていた。
そして、神殿の朝の習慣である礼拝で大聖堂で祈っていると6女神様の巨大な像が光った。
6女神様の姿が浮かび上がる。体は半透明で向こう側が透けていた。
その場にいる全員が平伏する。
太陽の女神が私に語り掛ける
「勇者コレットよ。鍛錬は進んでいますか」
「はい、毎日、己の未熟さと非才を痛感しています。」
「残念ですが、魔王の脅威は一刻の猶予も許さない状況です。のんびりあなたの成長を待っているわけにはいきません。フレイミア」
呼ばれた火の女神が楽しそうに後を引きづく
「そこでだ。成長の遅いお前のために、神の試練を用意した。
ここから馬車で東に3日ほど進んだところにゴブリンの巣が発生した。
お前はその巣穴に入り、一人で殲滅してこい。」
ジェローム卿とクマの副団長さんが、話の途中から大聖堂に入ってきた。
「恐れながら女神様に申し上げます。」
「なんだ、申してみよ。」
私に無理難題を押し付けるという楽しみを邪魔されたのでかなーり不機嫌になった。
言わない方がいいですよそれ。
「如何に勇者とはいえ、年端も行かぬ修行中の少女が一人でゴブリンの巣を殲滅など、あまりにご無体、ぜひとも神聖騎士団の帯同をお許しいただきたい。」
「現地までは帯同は許可する。しかし、ゴブリンの巣穴にはコレット一人で入るのだ。助力は許さぬ」
「なぜですか?それではまるで死ねと言ってるに等しいではないですか。」
「ふむ、確かにこちらの手違いで勇者コレットの成長が予定より遅れているのは事実だ。よろしい。私から神器を遣わす。無論だが、コレットはまだ修行中の身ゆえあまりに強力な神器は使いこなせまい。力はかなり制限するがゴブリン如きを殲滅するには過ぎた武器よ。このメイスはフレイムボアと言う。火の女神の神気と炎の力を宿した武器だ。これを遣わす。」
火の女神が腕を振るうと、炎に包まれたメイスが現れる。
3mほどの巨大なメイスは私の前に来ると、私の体に合わせたサイズに縮んだ。
風の女神が飛びまわった。
「私からこの鎧を上げるわ。風の女神の神気を宿した風のアーマードレスね。」
私の体にぴったりの神気を宿した鎧が装着される。
丈の短いスカートに足にぴったりのタイツと言うデザインで胸当てはミスリル製で、布の材質はミスリルを細い糸に加工して編み込んだもののようだ。
タイツにはガーターベルトのように見える意匠が施してある。
ドワーフの名工でもこのような一品は作れまい。
「この鎧は着れば風のように素早く動くことができます。
数秒なら風の力で天井や壁に張り付くことも出来るでしょう。」
太陽の女神が言う
「私からはこのタリスマンを授けましょう。
あなたの周囲の時間を操作します。
魔物の速度が遅くなったように感じるでしょう。
ここまでは月の女神の力ですが、私からは未来の可能性を予知する可能性知覚の力を授けます。
数分先のモンスターの行動を予知出来ます。
予知と時間加速、何れも近接戦闘に絶大な威力を発揮するでしょう。
ただし、タリスマンの力は1日10回までしか使えません。
使いすぎにはくれぐれも気を付けなさい。
では、わが愛し子よ、必ず使命を果たしなさい。」
私の首にタリスマンが装備される。
「神命、謹んでお受けいたします。」
遂に来たか、無茶振りが。
クマの副騎士団長さんが食い下がる。
「お待ちください女神様、せめて3名、ゴブリンの巣穴の中に神聖騎士の帯同をお許しください。
単身で乗り込むなど無茶が過ぎます。
我々でもそんなことはしません。」
火の女神が冷たく言い放つ。
「ならぬ」
「では2名」
「ならぬ」
「せめて1名だけでも・・・なにとぞご慈悲を」
「くどい。どのみち、この程度の神命を果たせないようであれば、[癒しの勇者]の命運は長くない。ではコレット、結果は楽しみにしているぞ。わが期待を裏切るな。」
「わが命を賭して成果を上げて御覧に入れます。」
「その言葉、忘れるなよ」
そう冷たく言い放たれる。
嫌われたもんだなあ。
大聖堂を包んでいた圧力がスッと消滅した。
ジェローム卿もクマの副団長さんも真っ青な顔でこちらを見ている。
ジェローム卿がこちらに歩いて話しかけてきた。
「大変なことになったな。コレット君。」
「いえ、恐らくこのような神命が下るのは時間の問題だと思っていました。」
ジェローム卿の顔色がさらに悪くなる。
「出発はいつを予定しているのだ?」
「今日中に出発するつもりです。」
「少し待ちたまえ、騎士団の中から帯同者を選抜する。」
「帯同する神聖騎士は2-3名で良いですよ。どのみち巣穴には一人で入らなくてはならないわけですから。1日伸びれば、その分ゴブリンが増えるかもしれません。時間との勝負です。」
ゴブリンの繁殖力はかなり強いことで知られている。
後ろで聞いていたクマの副団長さんがたまらず声を上げる。
「私も同行します。」
「頼むよ。」
ジェローム卿はクマの副団長さんの肩を叩いて大聖堂から出ていった。
昼までに15名の神聖騎士が選抜され、中にはクマの副団長さんの姿もあった。
急いで仕立てられた馬車は飾り気がない普通の荷馬車だった。
4頭立ての馬車が5台、仕立てられた。
大袈裟すぎると思ったが、一応形式だけは貴族なので必要なのだそうだ。
また、急遽、道中に私の身の回りを世話をするメイドが2名選抜された。
一人は無表情に感情を殺し、もう一人の目は真っ赤になっていた。
恐らくこの残酷な話を聞いて思わず泣いてしまったのだろう。
二人は妙に私に優しかった。
なるほど、見ようによっては神命によって少女を人身御供に捧げる昔話のように見えなくもない。
このようなみすぼらしい馬車を守護するのは誇り高い神聖騎士としては業腹なのかもしれない。
普通、神聖騎士が任務に使うときは教会の紋章の入った真っ白に金の縁取りが入った馬車を使う。
王国の騎士は世俗騎士と言われ、その技量は一段落ちるとされていた。
神聖騎士は全員が魔術を使うことができ、下級の弱い神聖騎士でも世俗騎士の5人分の強さがあるとされている。
そして、世俗騎士のように金や名誉を求めない。
清貧を貫き、極限まで自分を鍛えるこの世界の神聖騎士は尊敬と畏怖の対象になっていた。
もちろんだが、騎士は全員馬に乗っている。
神命と言うことでジェローム卿から沿線の教会に激が飛ばされる。
早馬が駆けた。
先々の教会で食料や水などの物資が補充されることが確認され、馬車が出発した。
グリューネ王女に話が届いたときには私は既に出発した後だった。
話を聞いたグリューネ王女は涙を流し、もう2度と私には生きて会えないと思ったそうだ。
上級を含む神聖騎士15人が帯同する大所帯になったので沿線の住人は何事かと足を止める。
一人一人が超絶の強さを持ち、上級騎士ならば一騎当千と謳われる神聖騎士が普通の任務でこれだけ帯同することはほとんどあり得ない。
娯楽の少ないこの世界では冗談抜きで世俗騎士200人分程度の戦力に匹敵するとされる一行に興味の目が向くのは当然だろう。




