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武術の鍛錬

武術は神聖騎士の中でも腕の立つ騎士が教官になってメイスの教練を行う。

なんでも僧兵は刃物を持つと集中力が鈍るらしい。


教官は神聖騎士団の副騎士団長で成りたての助祭ごときは面会することも難しい超エライ人らしい。


この世界の騎士は大きく分けて2種類いる。

一つはクマのような大男で、筋肉は力と言うマッチョタイプ。

今一つは一見普通の人に見えなくもない細身のマッチョで、技とスピードで戦う天才タイプ。

クマ型の騎士は鍛えれば誰でもそこそこ強くなれるので数が多いが天才型は数が少ない。

しかし、細マッチョタイプは歴史に残るようなとんでもない天才が時々生まれることがあった。

それでも勇者には敵わないらしいが。

副騎士団長はクマ型の騎士だった。


2m近い大男の前に栄養が足りずに同世代と比較しても小さい130cmくらいの小娘がメイスを持って立っている。

私が持っている得物は私の体に合わせたものだ。

子供向けのメイスなどないので神殿が特注で作らせたらしい。

鎧はハーフプレートと言う胸当てのついた金属鎧に肩や小手に皮のプロテクターが付けられているものだ。

こちらも子供向けの物などないので、教会が特注品で作らせたようだ。

全身が白く染められ、金の縁取りが入っており、胸には聖教会の十字マークが入っている。

下はタイツのようなズボンにこちらも動きが邪魔にならない程度に皮のプロテクターが付けられている。

鎧からはみ出ている長めのチュニックがミニスカートのように見えなくもない。

周囲で見ている人からはやんちゃな娘のワガママに付き合っている男親のように見えるらしく、苦笑を漏らしている人もいる。

明らかにクマの副団長さんもやり辛そうに困惑していた。


小さなラウンドシールドだけを持って私の前に立っていた。


「まあ、好きに打ち込んでみなさい。」


「はい、胸をお借りします。やぁぁぁぁぁぁぁ」

自分ではかなり真剣で思いっ切りやっているつもりなのだが、傍からみたら、トテトテと気の抜けた効果音がしそうなくらい長閑な踏み込みから弱い打撃を放っただけだった。


朝晩練習している型の中から基本的なものを打ち込む。

上段から下段へ、下段から中段へ。

しかし、クマの副団長さんには全く効いている様子はなかった。


わずかに腕を動かしただけで、全てを軽く受け流される。

恐らく盾も必要ないが、神殿から支給されたミスリル製の鎧に傷がつくことをよしとしなかったのだろう。


受け流す10回に一度くらいの割合で、勢いを利用して投げられる。

天地がひっくり返って、背中から落ちた。

思わずせき込む。

何をされているのか全く分からない神業だった。


「ケホッ、ケホッ」


「どうしたね?もう終わりかね?君は勇者だろう。その程度ではゴブリン一匹仕留めることはできないぞ。」


「もう一本お願いします。」

私は即座に立ち上がってまた打ち込む。


回りから見ていると単なるイジメにしか見えないだろうけど、私は真剣だった。

多分近いうちに焼き土下座の女神から無理難題を吹っ掛けられる。

あの焼き土下座だけはもうゴメンだったので必死だった。


勇者ミカミは最初からなかり強かったらしく、初心者のうちから手合わせした神聖騎士からバンバン練習試合で一本取っていたそうだ。

そのため、一応勇者である私の鍛錬を十数人の神聖騎士たちが見に来ていたが、最初の数分で誰もいなくなった。

まあ、そうだよね。見るべきところなんて全然ないもん。



3日ほど経ったころ、グリューネ王女殿下が噂を聞きつけてやってきた。

午後からは訓練が取りやめになってグリューネ王女殿下とお茶会になった。


「あの・・・王女殿下、私は修練があるのですが・・・」


「1日くらい良いではありませんか。毎日そんなに張りつめていると集中力も切れてしまいますよ。」


正直に言うとかなり迷惑だった。

いつあの性格の悪い焼き土下座の女神が無茶振りをしてくるとも限らない。

あの女神は絶対に容赦はしない。

かなり厳しい内容になるだろう。

少しでも強くなっていなければ恐らく、生きては戻れまい。

あの焼き土下座を思い出して身震いする。

しかし、王女殿下を無視するわけにもいかず、その日はずっと殿下とお茶会をしておしゃべりに付き合った。


殿下からプレゼントでクマのぬいぐるみを貰った。

この体になってから欲しかったものナンバーワンで、ちょっぴりうれしかった。

本当はものすごーく嬉しかったけど、それを認めるのは元成人男性でネットチンピラとしてのプライド(?)が許さなかった。

これでグリューネ王女殿下への好感度が急上昇する。

なんてチョロい女なんだろう。私は。

幼女だけど。

ベッドにおいて毎日一緒に寝ているのは内緒だ。

何かお返ししないといけないのかな。


実は神殿内には貴族や王族の連絡係が沢山いて、神殿内の商店で私がこのクマのヌイグルミを物欲しげに何度も見つめていたのは王族や主だった貴族は全員知ってたと言うのを後から知った。

貴族の情報網、恐るべし。



グリューネ王女殿下はクマの副団長さんを呼び出して食って掛かったそうだ。


「伺いましたよ。あなたの体の半分にも満たない10才の少女をイジメて楽しいですか?

神聖騎士団は誇り高い騎士団と伺っていましたが、やることは弱いものイジメですか?」


「そうはおっしゃいますけどね。

コレット殿は真剣ですし、私も騎士の端くれ。

その思いに応えないわけにはいきません。」


「いくら頑張っても殿方に武力でかなわないのですから、もっと別の鍛錬に力を注ぐべきでは?」


「私もそう思わないではないですよ。しかし、時々ヒヤっとするような一撃を入れてくることがあります。もちろんそれが決まったところで私には大したダメーじにはなりません。

しかし、長ずれば、下位の世俗騎士と同じくらいにはなれるかもしれません。

それが全く無駄になるとは私は思いません。」


「解りました。でもほどほどにお願いします。

治癒術の方はもう初級の治癒術が使えるとか。

順調に習得してらっしゃるということですし、それだけでも我が国の国益にかなう十分に貴重な力なのですから。」


「解りました。やり過ぎには十分注意いたします。」


クマの副団長さんはグリューネ王女殿下に突き上げられた後にジェローム卿にも呼び出されたようだ。


「どうかね。コレット君は」


「はあ・・・。前衛としては現時点ではゴブリンにも勝てないでしょう。」


「そうだろうな。」


「真面目だし、熱意はあるのですが、いかんせんあの体格では・・・」


「治癒の魔術はかなりの速度で上達しているらしい。

大神殿の治療院のルミナリア殿もそう遠くないうちにコレット君に抜かされるだろうと太鼓判を押していた。


「それほど・・・ですか。

神命を受けたら私が同行しますよ。コレット殿の治癒術があれば百人力です。

あるのと無いのとでは戦い方も戦いの幅も余裕も全く違いますからね。」


「その時は頼むよ。実はな。ジェイド侯爵家が彼女を養女にしたいと申し出てきている。」


「王弟殿下が?」


「この間、グリューネ王女殿下が来ていただろう?どうも、陛下もいろいろお考えがあるようでね。

グリューネ王女殿下と同い年のようだし、黒髪に銀眼というその見た目から気の早い一部の治癒術士たちからは月の聖女などと言わてれているからね。

太陽の聖女と月の聖女、なかなか民衆からの人気が高くなりそうじゃないか。」


「私は政治にはあまり興味はありません。」


「まあ、そう言わないでくれ。コレット君が月の聖女になるならば、彼女の身柄は是非神殿で押さえたい。これは大教皇様も同じお考えだ。」


「コレット殿はまだ子供です。勇者の看板だけでも重すぎる年ですよ。あのような純朴な少女を大人の政治に巻き込むのは気が進みませんね。」


「彼女は多分、将来美人になるだろう。グリューネ王女殿下のように華のあるタイプではないが、控えめで男を立てるタイプだな。

そう言う美姫は人気が出る。

あと2-3年もすれば求婚者が殺到するかもしれない。

おかしな虫が付く前に王族で囲っておきたいのだろう。

神殿内でも評判になっているので、おかしな虫になりそうなものはこちらでも排除するがね。

コレット君には申し訳ないと思うが、好むと好まざるとにかかわらず、政治に巻き込まれるだろうな。」



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