ブラック女神に召喚されて泣きながら異世界を行く
気が付くと真っ白な世界にいた。
自分はゲームをプレイしていたはずだが・・・。
「こんにちは」
「ようこそ、見下 鎮兵さん」
目の前には20代に見える女性が6人いた。
そのどれもが自分の20数年の人生の中で会ったことの無いレベルの美人だった。
「こん・・・にちは?。あの、ここはどこでしょう。」
俺はあたりを見回す。
「ここは、あなたたちの言う高次元です。
「おめでとうございます。
あなたは英雄として異世界に転生することになりました。
是非世界を救ってください。
転生する世界はあなたがプレイしていたゲームとよく似た仕組みを持っている世界です。
かなり有利に勧められますよ。」
「あ、あの・・・あなたがたは?」
「私たちは異世界の女神です。」
「私は太陽の女神フリューエラ」
金髪の一番背の高い気の強そうな女神が挨拶する
服はギリシャの女神が着ているような白いシンプルなドレスを着ていた。
「私は月の女神エストーナ」
漆黒の髪に黒いドレスを着た女神が挨拶する。
全くの無表情で少し怖い。
「水の女神アクエリアです。
青っぽいドレスに銀色の髪のの女神が挨拶する。
「火の女神 フレイミアだ。よろしくな」
真っ赤な髪に真っ赤なドレスを着た女神が挨拶する。
「土の女神アーシアである。よしなに」
茶色っぽいドレスを着た女神に挨拶された。
「風の女神ウィンディアです。よろしくね。」
6人の中で一番幼い感じの女神が挨拶した。髪とドレスは緑色だ
太陽の女神が話を続ける。
「あなたはあなたの世界で流行している異世界転生と言うものをしていただくことになりました。
もちろん、あなたの世界で流行っているように特別な力を持って転生することができます。」
一番幼い感じの風の女神が囃し立てる
「わー、おめでとうパチパチパチ」
ここまで話を聞いて冷静になってきた俺は、女神にイチャモンを付けた。
「ちょっと待ってください。」
「何でしょうか?まさか断ったりしませんよね?」
太陽の女神の圧が強くなった。
「冗談じゃないですよ。勝手にこんな所に連れてきて、命の危険があるようなことを押し付けるつもりなんですよね?」
「あなたにお願いするのは異世界の魔王の討伐です。もちろん簡単ではありませんが、私たちが十分にサポートしますから、決して不可能ではありません。」
「そもそも、俺はそんなことは頼んでないです。元に世界に戻してもらえますか?
一体何の権利があってこんなことしているんだ。」
俺はいわゆるニートでネット中毒・ゲーム中毒のネット弁慶で匿名を笠に着て、延々と屁理屈をこねたり、短文SNSで炎上している話題に飛び込んで火をつけて回ることを楽しむようなネットのチンピラだった。
女神たちの高圧的な態度に俺のネットチンピラとしての本能が反応した。
勝手に何でも進めてくる女神6人に猛然と食って掛かった。
俺は女神たちの表情をよく見るべきだった。
女神たちの顔は俺の屁理屈が進むにつれて段々と強張ってくる。
俺が吠え掛かってから5分くらい経ったとき、火の女神が
「もういいわ、コイツ、うぜぇ」
そう言って右腕を前に出して手のひらを下に掲げて手首をクイッと軽く曲げる。
すると俺の体は物凄い勢いで、下に落ちていった。
いや落下の感覚を感じた。
雲を突き抜け、景色が目まぐるしく変わる。
背を下にして落下しているため、恐怖が半端ない。
突然、浮遊感がなくなり、何かの中に納まった感覚があった。
「コレットちゃん、コレットちゃん」
気が付くと誰かが知らない名前を呼んでいた。
そして体が激しく揺さぶられる。
「皆殺しにしろ」
男の野太い声が聞こえると、
「ウィニア、コレットを連れて逃げろ」
という男の人の叫び声が聞こえる。
「逃がすわけねえだろ。」
ザシュっという音が聞こえる
「ぐあああああああ」
「ああっ、あなたー」
どうやら叫んだ男は刃物で刺されたようだ。
逃げ出したかったが、体が全く動かなかった。
「いい手ごたえだったから、ガキはもう死んでるぜ。ママが居ないとあの世で寂しいだろうからお前も死ね」
ドスッ
「ぎゃああああああ」
女の人も刺されて殺されたようだった。
体にぬるりと何かの液体がかかる。
男たちは殺した男女を調べて金目のものを探している。
どうやら、盗賊のようだ。
やがて暫くすると動く気配は何もなくなった。
体を起こす。
時間は夜らしく、辺りは暗かったが、今夜は満月で明るい。
そらを見ると月が並んで2つあったので、ここは間違いなく自分の知っている地球ではない。
覆いかぶさった女の人の死体の下から這い出た。
立ってみる
自棄に視点が低い。
手を見るとかなり小さな手だった。
俺をかばうように倒れていた女の人の体から出た大量の血で水たまりが出来ていて、鏡のようになっていた。
そこに映っていたのは4才くらいの幼女だった。
体の半分ほどが母親の血で赤く染まっている。
辺りを調べてみると、二人の男女が死んでいた。
この子の父親と母親だろう。
涙が勝手に溢れる。
この子の意識がそうさせているのか・・・。
「パパ・・・ママ・・・・」
自然と言葉が出た。
しかし、それを最後に幼女の自意識のようなものは雲散霧消した。
俺の意識は冷静に判断していた。
ここにいたらまたさっきの男たちが戻ってくるかもしれない。
先ほどの幼女の最後の意識の残滓なのか父親と母親の埋葬をしたいと言う強い衝動に駆られるが、何分4歳児の体で大人二人を埋葬するのは現実的ではない。
後ろ髪を引かれる思いで急いでその場から離れた。
幼女の足なのでどのくらい離れていたのかはわからない。
一時間くらい歩くと、小さな小川が流れていたので体や服についた血を拭う。
よく見ると、服が無残に切り裂かれていた。
盗賊たちも言っていたが、一番先にこのコレットと言う幼女が切られたのだろう。
もう死にかかっていたわが子を母親が抱いて必死に逃げていたに違いない。
そこに俺の意識が入ったことによって何らかの神懸かり的な作用で生き返ったのだと思う。
先ほどの女神とのやり取りからそうとしか考えられなかった。
暫く歩く。
夜通し歩いて、夜が明けてうっすらと明るくなる。
巨大な城壁のようなものが遠くに見えたところで疲れて歩けなくなった。
やけに体力がない。
幼女だから当然か・・・。
洞になっている大きな木の根っこに入って泥のように眠った。
両親らしき大人は二人とも死んでしまった。
この子は孤児になった。
他に保護者がいるとは思えない。
これからどうなるのだろう?
起きると昼過ぎだった。
城壁に向けて歩く。
すぐに城壁にぶち当たったが、城壁に沿って時計回りに歩く。
するとすぐに城門が見えてくる。
城門には兵士がいて、通ろうとすると、当然止められた。
「お前はどこから来た?。親はどうした?」
自分の倍はあろうかという大きな鎧を着た大人にドスの利いた声でそう言われると、怖くて膝が震えた。
「えと・・・あっちから来ました。」
勇気をふり絞ってそう答え、自分の来た方向を指す。
「パパとママは知らない人に刺されて動かなくなりました。」
「チッまた難民の孤児かよ。ここは難民を受け入れてない。あっちへ行け」
そうして俺は追い払われてしまった。
幼児には厳しすぎる対応だろう。
ここで受け入れてもらえなかったら生きて行けるとは思えなかった。
「お願いしましゅ。入れてください」
噛んだ。
ここであきらめるわけにはいかないので必死に懇願してみる。
「駄目だ、身元保証人のいない薄汚い孤児が来るところじゃない。消えろ。」
門兵が持っているハルバードの柄尻で軽く小突かれただけで激しい痛みが走った。
この野郎、子供相手に武器で小突きやがった。
男は鬼のような顔をして俺を追い払った。