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パローナツ、冒険なんてもう遅い異世界。~冒険家を夢見る記憶喪失の魔女と獣は、冒険を諦めた現代異世界を夢と冒険で再点火する。~  作者: 紅茶ごくごく星人
第3章 牧場と偶像とテレポート

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3-28 冷たい

目が覚める。今度は夢は見なかった。

テントに置いておいた自身の鞄から、水石と桶を取り出す。


テントの外に出る。

魔法で土を盛り上げて小さなテーブルを作り、その上に桶を置いた。


私は火魔法を使おうとする。


「ああ、今日は魔法休みなんだった」

寝起きの呂律でそう独り言を言うと、昨日カイルから借りていた<燃えない木材で作った摩擦装置>をテントに取りに戻った。


押し込んで桶の中の水石をあぶる。


そうすると水がじわじわと出てくる。

水が溜まりきる頃にはある程度目が覚めていて、私は重大な過失に気が付いた。


一番簡単な火魔法を『休み』なんて言って使わないでおいて、風魔法で土を盛り上げたり(ずっと維持し続けないとなので大変)、今も水を氷魔法(とても苦手)で冷やしているなんて、我ながらおまぬけなことをしたなと思った。


溜まった水を掬って顔を洗う。

冷たい水が顔に当たって、今度こそバッチリ目が覚める。


顔に水をかけながらふと思い返した。


ウェステリア魔法女学院を卒業したあの日の朝、あの時点でまだ桶に溜めた水はぬるま湯だった。

今は氷魔法が少しは使えるようになって、いよいよ寝起きの惚けた頭でも冷たい水を作れるようになった。


「よし!」

私は小声で呟きながら、軽いガッツポーズをした。


ここノーザランが冷たい地域であることも氷魔法が使いやすい要因の一つであるとは思うけれど。

であれば尚更、熱い地域でも魔法で冷たい氷が作れるようになりたいと思った。


...


服を着替えながら、二度寝する前に見た夢のことを考えていた。

正直詳細なところは忘れている。

覚えているのはカイルが真っ赤な地獄みたいなところに落下していて、手を伸ばしても届かなかったこと。

真っ赤な地獄が出てきたのは、おそらく眠る直前までサウザリアレッドトウガラシを使った料理のことを考えていたせいだろう。


考えているうちにふと、ぐつぐつ煮えたぎる真っ赤なサウザリアレッドガラシのスープに、カイルの空色の服を着た真っ白なウサギがお風呂感覚で浸かっている図が思い浮かんだ。

想像するとかわいくてつい笑顔になった。

さっきまで夢の内容でほんの少しだけ不安になっていたけど、それも吹き飛んだ気がした。


服を着替え終えて、私は牧場へ向かった。

するとアズアズとカイルがいた。


「おはようー!」

二人に声をかける。


「おはよう」

「おはよう。やっと起きたのね、ねぼすけさん」

アズアズが返事をした。


「ごめんごめん。私の記憶では昨日の夜なかなか寝られなかったはずなんだけど...なんだかすごく元気!」


「元気そうでよかった。」

カイルは言った。


「うん。寝坊のおかげ。

でも私どれくらい寝てた?まだギリギリ朝だよね?」


アズアズは言った。

「優雅ね、もう昼よ。

それに...私とカイルで同じだけ分担して、昼前に着手可能な仕事はすべて完了したわ!」


「お、おお...!」

私は拍手した。


頭上を見ると、陽はすっかり登っていた。

冷えた空気を熱い陽の光が差していて、清々しい雰囲気になっていた。


「まあでも今日は1日休みだし、多少の寝坊くらいいいよね」


「休み?」

カイルが聞いた。


「うん。最終通し練習も完璧だったし、今日は一日休みにして明日に備えることにしたんだ」


「ライブの準備は、もう完璧か」


「...うん、完璧!」

なんだかカイルの言葉に違和感を感じて言い淀んだ。


「そうか」


「明日に備える...今日こんな遅くに起きて、明日朝起きられる?」

アズアズが心配してくれた。


「ああ、確かに。

なら今日は牧場で馬車馬のように働いて疲れて眠れるようにしよっと」


「それって休みと言えるのかしら...」


「うん、魔法休みだよ。というわけでアズアズの服もらうね?」

私はアズアズの服を脱がそうとする。


「ちょっと、いきなり何を!?」


「あっごめんアズアズ。

カイル仕事に戻ってて、こっち見ちゃだめだよ」


「ステラ」

カイルが言った。


「それなら俺の着てるやつを渡す。交代だな」

そう言ってカイルは服を脱ぎ始めた。


「な...!ここで脱がなくていい!」

私は手のひらで自分の目を覆った。


アズアズは後ろを向いて言った。

「ステラこそ私を脱がそうとしたじゃない!おあいこなんじゃないかしら」


「そ、それは......ごめん」


「...」


少し時間が立った。


「...カイル?もう着替え終わった?」


「...」


カイルが何も言わないので、私は指の隙間からおそるおそるカイルを見た。


牧場の作業服を脱ぎかけの彼は、立ったまま動いていなかった。

なんだかおかしいと思って、声をかけた。

「どうかしたの?」


だけど返事は返ってこなかった。


私が彼の肩を叩こうとしたその瞬間、カイルの身体は意識が抜けたみたいにすっと地面に向かって傾いた。

私の背筋に冷たいものが走った。

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