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パローナツ、冒険なんてもう遅い異世界。~冒険家を夢見る記憶喪失の魔女と獣は、冒険を諦めた現代異世界を夢と冒険で再点火する。~  作者: 紅茶ごくごく星人
第3章 牧場と偶像とテレポート

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3-20 どちらかというと

「この包帯、何かあったの?」


少し沈黙が走る。


「...何って、髪の毛を切っただけだが?」


そう答えると彼は私の手首に触れてのけようとするが、私はそのまま手を沿わせ、後頭部に触れる。


「髪じゃなくて、包帯のこと」

じわりと手が濡れる感触がした。


()()()()()()だよ、ただの」

それと同時に、彼はつい片目を閉じた。


私は彼から手を離す。


「ごめん!痛かったよね...?」

私がそう言うと、彼は真顔で言った。


「大丈夫だ、ちょっとだけだから。むしろ気持ちいいくらい」


「それはなんか気持ち悪いけど」


彼はハンカチを取り出して、私に渡した。

「手、拭きな」


私の指先には赤い血がべったりとついていた。


「ありがとう」

私は手の血を拭った。


「でも、本当に髪の毛切っただけ?」


「髪の毛切ったら血が出るんだ、俺は。だから前は伸びてたんだ」


「それは前にも聞いたよ」


「憶えてたんだ」


「憶えてるよ、当然」

私は笑って言う。


「...本当だぞ、嘘じゃない」

彼も笑って言っているけれど、どこか悲しそうだった。


「嘘だとは思ってないよ。でも、本当に髪の毛切ったから血が出ただけなのかな〜って。」


すると彼は目を瞑って少し黙った。

それから目を開けて言った。

「その...ステラが、短い髪が見たいって言ったのたまたま思い出したから...」


「へっ?」

私はつい声を漏らした。


「...だから予定になかったけど気まぐれで切ってやっただけだ」

彼はぶっきらぼうに言った、つもりなのかもしれないけど、照れ臭さみたいなものが伝わっていた。


「...そ、っか」

なんだかこっちまで照れ臭くなってしまった。


なんでだろうか、嬉しい。

今まで感じたことがないくらいどきどきして、心臓が動くのがわかった。


だけど彼が耳を疑うようなことを言って、私は冷却された。


「洞窟でたまたま大蜘蛛に髪の毛溶かされて、その時ステラが言ってたこと思い出したんだ。

だから切ってしまえばちょうどいいなと思って。」


「今、なんて...大蜘蛛に、何?」


「たまたま大蜘蛛に髪の毛溶かされて—」


「嘘ついてるじゃねーか、この!」

冗談めかした言い方で、私は彼の胸をばん!と叩いた。

「髪の毛切っただけって言ったじゃん!」

「いいだろ、その後髪切ったのは本当なんだからさ」


私の腕を止めて、彼は続けて言った。

「当然大蜘蛛は燃やしておいた。

生き物だからそりゃ前に俺たちが出会ったのとは別の個体がいるのは当たり前だけどさ」


「また浅いところに大蜘蛛が出たら、危険だよね。町がさ」


「それを確かめるために結構奥に進んだんだが、何度確かめても巣どころか別の個体すら出てこなかった。」


「それは不思議だね...」


「ああ、不思議だ。」

カイルは頷いて言った。


少し間を開けて、言った。

「...この一ヶ月、ほとんど洞窟に潜って、奥まで探索してたんだ」


「ああ、ほとんどずっと。

そのおかげで武器や料理に使う刃物類も新調できたんだ!」


「しかも一人で」


「ああ!」

彼は嬉しそうに頷いた。


「ズルい」

私は怒った。


「1人きりで洞窟探索を堪能するなんて...!

今度は私と一緒に行こう。」


私はつい勢いよく彼の手を握った。


彼は少し驚いたような顔をしたけど、それは一瞬だけだった。


「もちろん!」

彼は元気よく返事をした。

それはさっきまでの違和感はない、私の知っているカイルの声だった。


それを聞くと私も自然と笑顔になった。


それからしばらく手を握ったままでいた。

だけど急になんだか申し訳ない気がしてきて、私は手を離した。


そうしたらなんだか気まずくなってしまった。


少しの沈黙。


私は言った。

「......今の髪型のカイルも、いいね」


「......ありがとう」


「......うん」


少し間隔を置いて返事をし合った。

喋ってるときの声以外の音がないみたいな、よくわからない空気。


「...でも」


「?」


「どちらかというと、前の方が好きだけど」

私は素直に、笑って言った。


「えっ」


「短い髪で血垂らしながら包帯巻いてる怪人人間男のカイルも好きだけど、

怪人ウサギ男のカイルはもっと好きだよ」


「褒めてるのか貶してるのか」


「褒めてるんだよ」


「それはどうも、ありがとうございます」


「こちらこそどういたしまして」


お互いに、わざとらしく丁寧な言い方をした。


「2人はいつ来るんだろ」

カイルが呟いた。


牛に近づかないように少し離れた場所に天幕(テント)を張って暮らしているアズアズ。

ベルはおそらくそこで着替えているはずだ。


「そうだね。ちょっと見に行ってみ—

「わあっ!!」

背後から、突然大きな声がした。


「ぎゃあっ!?」

驚いてつい、おかしな声が出た。


「ふ、お姉ちゃん...ふふっ」

すぐ近くで、聞き覚えのある笑い声がした。

ベルが私の腰を拘束しているようだった。


「ちょっと、何笑ってるの!」


「ごめんごめん...ええと」

ベルはそう言うと、私の体をくるりと回してその姿を見せた。

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