3-19 変な格好
それからは、牧場の仕事の手伝いをしながら、昼休憩中にライブの流れや演出決めをした。
時々ベルが町に行って歌ったり、
日曜になるとメルネが来て(なぜか私やアズアズも)筋力トレーニングをすることになった。
そんな生活が3週間続いたある日。
「—どうですか?」
歌い終えたベルが言う。
「良かったよ!!」
「悪くないんじゃないかしら」
「ありがとうございます!!」
「そろそろ会場に行って最終通し練習をしてもいい頃かもしれないわね」
「そうだね、ベルがいい歌を歌えても、私たちが失敗して台無しにするわけにもいかないし」
「ところで、衣装持ち帰るって連絡が来てからもう1週間経つけれど、カイルはどうしたのかしら。
何か問題に巻き込まれていないか心配だけれど...」
「うん...」
私は少し心配になった。
少し間が相手から、アズアズは慌てて言った。
「...いや、変なこと言っちゃったわね。大丈夫!カイルのことだし、きっとどこかで道草食ってるだけよ!
でもこの遅さじゃこれじゃウサギってよりはタートルね、怪人タートル男。
服も全身緑色に塗り替えた方がいいんじゃないかしら」
「アズアズさん、後ろ...」
アズアズが後ろを振り返ると、そこには水色の装束に実を包んだ茶髪の青年がいた。
しかしそれはいつもの服ではなかった。
「わああっ!?」
アズアズは勢いよくひっくり返った。
少し間が空いてから、彼は目元にかけていた黒透明の眼鏡を外して言った。
「よ」
そう思ったらまたかけた。
他にも言いたいことはあるけれど、彼は間髪入れずに言った。
「遅れてごめん。持ってきた」
彼は円筒状の大きな鞄をベルに渡した。
「うおっと...ありがとうございます!...重みを感じます」
「えっと、いろいろ言いたいことはあるけれど...ベル、楽しみね」
アズアズが言った。
「はい!」
「せっかくだし、試しに着てみたら?」
私は言った。
「でももう昼休憩も終わっちゃいますし...」
とベルは言った。
「グルーさんにお願いして休憩を延長してもらわない?」
「うーん...」
「いいぞ」
そこにいたのはグルーさんだった。
「私に任せておきなさい。ベルは今日はもう休暇にしていい」
「それはだめ、残りの仕事は後でする。
でも少しだけ休暇をもらうね、30分だけ。その間だけ、牛さんをお願い」
「...わかったよ、任された」
「よし、じゃあ着替えてくる!
アズアズさん、少し手伝ってもらえますか?」
「いいわよ」
「私も手伝う」
「お姉ちゃんはカイルさんと世間話でもしてて!」
そう言って、ベルはアズアズと着替えに行ってしまった。
ふとカイルを見る。ツッコミどころが満載だった。
「えっと...サングラス、似合ってる...?」
私は変な言い方をした。
「似合ってる...?ってなんだ
似合ってるか似合ってないかで言ってくれ。」
「うん...」
私がカイルに恋していると自覚したあの日から、今会うまで実はずっと、ほんの少しだけ、休憩中や寝る前に限ってだけほんの少しだけどきどきしていたのだけれど、
今は彼に対する何か強烈な違和感のようなものが勝って、ベルのライブのことを決めている時と同じで完全に冷静になれていた。
それはこの変な格好のせいなのか、それとも...
「その格好何だよって、素直に言ってくれればいいんだぜ」
彼は耐えきれなくなったのかサングラスを外して、冗談めかしただぜ口調で言った。
彼は「〜だぞ」「〜だよ」はよく言うけど、「だぜ」はあまり言わないように思える。
そして外したサングラスをポケットにしまった。
「カイル、髪切ったんだね」
彼の後ろに伸びていた茶色と白の二束の髪は消えていて、怪人ウサギ男じゃなくなっていた。
カイルはやけに慌てた様子で言った。
「...ああ、そうなんだ!気分転換みたいな。ベルの衣装を見て、俺も装いを変えようかなって—」
私は、素早く彼に近づいた。
彼の肩に手を置いて、もう一方の手で頭に手を回した。
その手を彼の手が素早く掴み、拒んだ。
だが、もう遅かった。
帽子は宙を舞い、地面にひらりと着地した。
彼の頭には、包帯が巻かれていた。
^ivi^[ネコニス'sTips]
硬い甲羅を有する魔物・動物のことをタートルと呼びます!
移動速度が遅く、長寿であるという噂が転じて時を操っているとも言われています。
そのためそれに由来するローネ小説が数多く存在します。
タートルは、普段は外に出している頭や四肢を硬い甲羅に引っ込めることで天敵から身を守りますが、皮膚そのものが甲羅と同化し形状も変化した近縁種"ニードル種"が私のお気に入りです!
甲羅が変化した鋭いトゲには、毒が塗られていたり、電流が流れていたりします。
そんな邪悪なニードル種の魔物ですが、みんな何故か瞳がとってもくりくりしていて、とってもかわいすぎるんです!
とはいえ残念ながら、現在のパローナツにはニードル種は存在しません...。
ですがもしも、もしも何かの異変が原因で出会ってしまったとしたら、見惚れているうちにやられないように注意してくださいね...!ふっふっふっふっ(すごく邪悪な笑い)




